サマスタ選手 コンテスト

がん宣告を受けた55歳がコンテスト日本大会で優勝 “ボディメイク”が闘病中の救いに「命の終わりは突然かもしれない」

がん治療を控えたボディコンテストの選手が、静かにステージに立っていた。

「もしかしたら、これが最後のステージかもしれない」

そんな思いを胸に、山本泉(やまもと・いずみ/55)さんは、11月29日(土)〜30日(日)に東京都・江東区『TFTホール1000』にて行われた『サマースタイルアワード(以下サマスタ)2025ファイナル(日本大会)』のウィメンズスポーツモデル部門で頂点に立った。

【写真】がん治療目前で大会優勝!山本泉さんの引き締まったVシェイプボディ

山本泉さん

ステージ上でキラキラと輝く姿に、誰もがん治療を目前に控えた選手とは思わなかっただろう。だがその裏側には、膵嚢胞(すいほうのう)と濾胞(ろほう)性リンパ腫、そして「いつかは治療が必要になる」と告げられた数年分の時間が、静かに折り重なっていた。

「もしかしたら最後かもしれない」──治療前のステージでつかんだ優勝

山本さんが最初に「何かおかしい」と向き合うことになったのは、2021年9月の人間ドックだった。検査の最後、医師がエコー写真を見ながら「膵臓のこの白い部分は、精密検査でよく診てもらってください」と告げた。

暗黒の臓器──膵臓。

「え、スイゾウ? ヤバイところなんじゃない……?」

頭の中でそんな言葉がぐるぐると回り、家に帰ってからは膵臓がんの症状や生存率、余命をネットで調べる日々が続いた。紹介状を持って岡山大学病院を受診し、CTやMRIなどの検査を重ねた結果、膵臓に水がたまる膵嚢胞が見つかった。

「将来がんになる可能性があるので、定期的にフォローしていきましょう。ただ、今はとても小さいので、きちんと検査を続けていれば大丈夫だと思います」

そう説明を受けて、ひと安心したのも束の間だった。

「ただ、血液検査でリンパ腫が見つかりました。これから血液内科にも行ってください」

膵臓よりも、リンパ腫の一言が頭の中を一気に塗りつぶした。リンパは全身を巡る。血液のがん。「えっ、次はそっち……?」という不安と恐怖が、一気に現実味を帯びて押し寄せてきた。

「血液内科での詳しい検査の結果、濾胞性リンパ腫と診断されました。進行は非常にゆっくりで、大きくなったり小さくなったりを繰り返し、治療をしてもまた出てくる可能性が高い病気だと聞きました。しかも横隔膜を挟んで上にも下にもリンパ腫があるステージⅢ。ただ、骨髄には浸潤がなく、『ずっと付き合っていくタイプの病気』と説明されました。すぐ命に関わる状態ではないと聞いてホッとする一方で、『いつかは治療が必要になる』と言われていることが頭の片隅に残り続けていました。最初のころは、3カ月に1回の検査のたびにドキドキしながら病院へ向かっていました。それでも、普段の生活では身体は元気で、仕事も家事もいつも通りこなせる。気がつけば、通院はいつの間にか日常生活の一部になっていきました」

数年前に父が亡くなり、命には終わりがあると実感したことを思い出した山本さん。

「命の終わりは突然来るかもしれない。周りの人を大切にしよう。そして自分も大切にして、精一杯ハッピーな毎日を過ごそうって誓ったんです」

そんな中、人間ドッグで肥満と診断されたこともあり、アクティブに健康な身体になろうとゴールドジムに入会した。

「スタジオでは、自分より年上の人たちが、息を切らしながらも笑顔でレッスンを楽しんでいました。実年齢とかけ離れた体力と体型。そして何より楽しそう!ボディメイクはしんどいものという固定観念が、少しずつ崩れていきました。『これこそがフィットネスだなー!!』と思ったんです。最初は45分動き続けることすらきつく、リズムにも付いていけない。インストラクターと逆の手を上げてしまったり、反対の足を出してしまったり……。それでも、しんどいのに、なぜか辛くない。仕事帰りにジムへ通うことが、いつの間にか1日の楽しみになっていきました」

2023年ごろからは、スタジオに加えて少しずつ筋トレも始める。同じジムにはボディコンテストに出ている人もいて、その姿はとにかくかっこよかったという。

「すごくかっこよくて憧れを感じていました。『自分も頑張ったらカッコ良い身体になれるのかな。いや、あそこまでは無理かも。でも近づくくらいならできるかな?』って思っていましたね。そんなときにジムで信頼している友人が『大会、出てみたら?』って言ってくれたんです。そこで『毎日精一杯ハッピーに過ごそう。今が一番若いんだから少しでも興味を持ったらやった方が良い!』と思って大会出場を決めました」

そこから憧れだったボディコンテストの舞台は、少しずつ目標へと形を変えていく。出場を決めトレーニングと減量を本格的にスタートさせた。病院の医師からは、「添加物はなるべく取らないほうがいい」と言われており、そこから、食事のクリーンさを見直していくことになる。自家製味噌に、塩麹、玉ねぎ麹、にんにく麹、醤油麹といった発酵調味料を手作り。家で取れた米や野菜を使い、その他の食材もできる限り素材だけを買って自分で調理するようにした。

「ボディメイクの世界では、鶏むね肉とブロッコリーのようなシンプルな食事が象徴的に語られることが多いですが、それだけでは寂しいし、何より続かない。そこで発酵調味料を使うようにしました。発酵調味料なら、少ない塩分でも満足感のある味にできるし、腸内環境を整えやすくなるし、タンパク質や野菜を飽きずに食べ続けることもできます」

腫瘍マーカーの上昇、骨髄への浸潤 それでも迫るコンテスト本番

コンテストに出たりボディメイクを楽しんだりと、そんな生活を続ける中、2024年10月の検査で、異変が表面化する。がんの進行とともに増加する物質である腫瘍マーカーの値が、基準の上限を超えてしまったのだ。

「CTでは大きな変化は見られず、その時点では経過観察が続けられたものの、鼠径部にはボコボコとしたしこりが、さらに首にも同じようなしこりが現れていました。痛みもかゆみもなく、触らないと分からない。日常生活に支障がないからこそ、『まぁ大丈夫だろう』と深く考えないようにしていた部分もありました」

検査を重ねるごとに、腫瘍マーカーはじわじわと上がっていく。上限値が約500のところ、2025年8月には1200近くに、10月末には2400台まで急上昇。CTでもお腹の中のリンパ腫が大きくなっていることが分かり、「年内に治療を始めましょう」と告げられた。その日は、骨髄検査も追加で実施。

「骨髄にまで広がっているのかもしれない」

そんな覚悟をしながら、検査結果を待つ日々が続く。2週間後、結果を聞きに行くと、「骨髄の中にも3〜4割程度、リンパ腫が確認できた」と説明された。リンパ腫が見つかった当初にはなかった所見だ。

「骨髄ってことは、血液ってこと? それって、全身に広がるってこと?」

頭の中に質問は浮かぶのに、恐怖と驚きで何も聞けなかった。そして、11月末のサマスタファイナルが終わったタイミングで入院し、抗がん剤治療を始めることが決まった。病気が分かってから数年の間、日常生活は大きく変わらなかった。だからこそ、「これから生活は変わってしまうのか?」という不安が急に現実味を帯びる。

「仕事は続けられるのかな? 友だちと美味しいものを食べて、いっぱい話して笑えるのかな? トレーニングは……大会には……戻ってこられるのかな? 家族が心配しない程度には回復できるのかな?」

そして何より、「私の命は、あとどれくらいあるのだろう」。その問いだけは、何度考えても答えが出ない。そんな中でも、「もし治療がうまくいけば、トレーニングを再開して、またステージに戻ってこられるかもしれない」という希望もある。ただ、治療前の今、身体ははっきりとサインを出し始めていた。「だるい」と感じても「減量中だからかな?」と考えてしまう。実際には、減量はなかなか進まず、疲れやすさも増していた。

「身体が守りに入っているような感覚でした。最後の最後までむくみが取れなくて、当日の朝になっても全然抜けない。何をしても変わらない感じがあって、焦りと不安がずっとありました」

それでも、「大会がなかったら、入院までの時間がもっと怖かったと思う」と山本さんは振り返る。サマスタという目標があったからこそ、病気のことだけを考えて過ごす時間は少なかった。

「大会の準備で忙しくしていたことで、気が紛れていた部分も大きかったと思います」

山本さんには、どうしても叶えたい約束があった。

「サマスタ同期の友だちと、一緒に金メダルをかけて写真を撮ろうって話をしていたんです。しかも、もしかしたら今回が最後のステージになるかもしれない。だから、絶対に優勝して終わりたいと思っていました」

結果は、ウィメンズスポーツモデル部門で見事優勝。「どうしても勝ちたい大会」で、きっちりと結果を残すことができた。

「本当にうれしかったし、ほっとしました。身体の調子も万全とは言えなかったので、『やり切れた』という安心感が大きかったです」

入院が決まってから、山本さんは競泳の池江璃花子選手の闘病記事を何度も読み返した。抗がん剤治療の副作用で、何も食べられず、頭痛で会話も呼吸も寝返りもつらく、光さえもしんどい日々。睡眠薬を使っても、15分ほどしか眠れない──そんな状態がどれほど過酷なのか、自分に耐えられるのか。

「日々、とんでもないトレーニングを乗り越えてきた池江選手でさえ弱音を吐いてしまうほどの治療に、私は耐えられるのかな……って思いました」

それでも、池江選手は競泳選手として再び世界の舞台へ戻っていった。ニュースで見ていたときには「大変だっただろうな」「すごく頑張ったんだろうな」と思う程度だったが、今はその事実に、まったく違う重みを感じる。

「寛解まで持っていけて、そこからあのレベルに戻っていったことに、すごく希望をもらっています。私とは年齢も注目度も違うけれど、同じような状況の人がいたら、『一緒に頑張ろう』って伝えたいです。もちろん、またトレーニングができるようになって大会に戻ってきたいという気持ちが8割くらいあります。でも、正直に言えば、すごく怖いです。同じように治療のために何かを諦めようとしていたり、怖さで足がすくんでいる人がいたら、励まし合える存在がいてほしいなとも思います」

ステージの上で見せたかっこ良いステージングも、光り輝く金メダルも、一度日常から離れることになるかもしれない。今回のサマスタでの優勝は、山本さんにとっての一区切りであり、同時に「次に帰ってくる場所」を自分で作ったステージでもある。治療の先に、もう一度スポーツモデルとして笑顔でかっこ良くポージングをする姿を見られることを、心から願いたい。

【SSAアンチドーピング活動】SUMMER STYLE AWARD(サマースタイルアワード)はJBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)とアンチドーピング活動について連携を図って協力団体となり、独自にドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体である。全ての選手登録者はアンチドーピング講習の受講を必須としており、SSAから指名された場合はドーピング検査を受けなければならない。

次ページ:山本泉さんの引き締まったVシェイプボディ

取材・文:柳瀬康宏 写真提供:山本泉

執筆者:柳瀬康宏
『月刊ボディビルディング』『IRONMAN』FITNESS LOVE』などを中心に取材・執筆。保有資格は、NSCA-CPT,NSCA-CSCS,NASM-CES,BESJピラティスマット、リフォーマー。メディカルフィットネスジムでトレーナーとして活動もしており、2019年よりJBBF、マッスルゲート、サマースタイルアワードなどのボディコンテストに毎年挑戦している。

-サマスタ選手, コンテスト
-,

次のページへ >





おすすめトピック



佐藤奈々子選手
佐藤奈々子選手