タンパク質は様々な食材から摂ることができるが、値段が比較的安く、調理がしやすく、しかも筋発達に効果的なタンパク質食材と言えばやはり卵だ。
安価なのに筋発達の効果が期待できる食材はそう多くはない。
そういう意味では卵は貴重であり、筋発達を目指すなら卵を利用しない手はないのである。
文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション
<本記事の内容>
■卵は完全食材
■「卵の食べ過ぎは悪」は過去の話
■卵の食べ方
■全卵のシナジー効果
■ボディビルダーと卵のイイ関係
■卵とテストステロンの関係
卵は完全食材
「卵を食べよう!」先に言ってしまえばこれが結論なのだ。
筋発達を目指しているなら、積極的に卵を食べることだ。この結論を理解した上で、どうして卵がいいのかについて今回は解説していきたい。
卵が完全な食材であると言われるのは以下の理由からだ。
●タンパク質を豊富に含んでいる。
●必須脂肪酸を含んでいる。
●コレステロールがある。
●鉄、カルシウム、ビタミンA、D、E、コリン、葉酸、カリウム、ナトリウムを含んでいる。
卵の殻にさえも大量のカルシウムが含まれているので、その気になれば殻を食べることも可能だ。
例えば、ミスターオリンピアのタイトルを2度手にしたフランコ・コロンブは卵の殻も食べていたそうだ。
もちろん、万人向けの食材とは言えないが、その気になれば卵の殻も食べられるのだ。
卵1個に含まれるタンパク質は約7g。しかも必須アミノ酸9種類が全て含まれた高品質のタンパク質だ。
筋肉を作るだけでなく健康を保つためにも、このような完全なタンパク質は不可欠であり、卵はまさに理想的な食材なのである。
トレーニングを行う人の中にはビーガンやベジタリアンの人もいるが、残念なのは、植物性タンパク質の食材には、卵のような完全タンパク質の食材がないことだ。
もちろん、植物性タンパク質食をいろいろ組み合わせることで必要なタンパク質を身体に供給することは可能だが、多くの場合はサプリメントを利用することになり、食材だけで必要量をまかなっていくのは困難なのである。
ちなみに植物性タンパク質の欠点をもうひとつ挙げるなら、ヒトの体内で適切に消化されにくいことである。
じつは、食べたものが適切に消化されるかどうかは、どれだけの量を食べるか以上に重要なことなのだ。
消化されなければ吸収されないわけだから当然だ。1000gの食物を食べても、内200gしか吸収されなかったとしたら、残り800gは無駄になってしまう。
食べる量よりも、食べたものが体内でどれだけ利用されるのか、つまり、どれだけ吸収されるかに重点を置いて食事内容を考えるようにしてほしい。
そうすれば、余分なカロリーも抑えられ、無駄に体脂肪を増やさずにすむはずだ。
必須アミノ酸とは、体内で他の成分から作り出すことができないアミノ酸だ。そのため、必須アミノ酸は食物から得るしかない。
すでに述べたとおり、卵には9種類全ての必須アミノ酸が含まれていて、これは牛乳や肉も同じである。
「卵の食べ過ぎは悪」は過去の話
アメリカの食品医薬品局(FDA)や栄養学会は、長年にわたって卵の食べ過ぎに警鐘を鳴らしてきた。
卵を食べることでコレステロール値が上昇したり、心臓発作の原因となる高脂血症などが懸念されていたからだ。
そのため、卵を食べるなら量を制限したり、あるいは食べない選択をするのが賢明だと主張されていたのだ。
しかし、その後の研究で、卵に含まれるコレステロールは体内のコレステロール値を上昇させないことが明らかになり、卵を敬遠するという考えが改められるようになってきた。
医師や栄養学者でも間違えることはあるということだ。
また、時代の流れとともに「脂肪食」もまた、ヒトの健康や肉体づくりに有用であることを示す研究結果が数多く発表されるようになった。
「健康に良い脂質」という言葉も一般的に使われるようになり、脂肪の全てが悪者扱いされた時代は終わったのだ。
ボディビル界においても、脂肪食の扱いは大きく変化した。かつては誰もが脂肪食を避け、代わりにたくさんのタンパク質と炭水化物を食べていた。
しかし、多くの研究や実験結果が発表されたことで、必須脂肪酸の存在や、適度な脂肪食は効率の良いエネルギー源になることが知られるようになったのである。
1980年代のボディビル界では、高炭水化物食がブームになっていた。
しかし、炭水化物は身体にとって必須の栄養素ではない。
必須アミノ酸や必須脂肪酸は存在しても、必須炭水化物というものは存在しないのだ。
やがて身体づくりに多くの炭水化物は必要ないことがわかってくると、アスリートの食事は「高タンパク質+脂質」へと変わっていった。
ケトダイエットや肉食ダイエットなどが登場し、多くの人が取り入れるようになったのである。ただ、このような食事法は誰にでも実践できるものではない。
特に心臓病や高コレステロール症の人は医師の判断を仰ぐ必要がある。その場合、相談する医師は食事やサプリメント、トレーニングに精通した医師であればなおいい。
特別な病歴や体質の持ち主でない限り、卵を過度に警戒する必要はない。少なくともボディビルを中心にしたライフスタイルを送ってきた人たちは、何十年にもわたって日々たくさんの卵を食してきたのだから。
ちなみに2018年の「ニュートリエンツ」誌に掲載されていた「食物性コレステロールと循環器系疾病との関連性欠如」という記事に、次のような記載があったので紹介しておきたい。
「これまでに行われてきた広範囲にわたる研究では、心血管疾患(CVD)の発症と食物性コレステロールとの密接な関係を支持する証拠は示されていない。
これを受けて、2015~2020年の“アメリカ人のための食事ガイドライン”では、食物性コレステロールの摂取量を1日300mgに制限するという過去の記載事項は削除された」
卵の食べ方
卵ほど、食べる量や健康への影響、あるいは調理法について議論されてきた食材は他にないだろう。
卵を食べることについては昔から寛容だったボディビル界でも、卵を食べることに異議を唱えていた人はいたのだ。
例えば、アイアングルと崇められたトレーナーのビンス・ジロンダは、調理された卵を食べることには100%否定的であった。
卵を食べるのであれば、有精卵に限り、しかもそれを生で食べることが体内のアナボリック環境を作り上げるというのが彼の主張だった。
生卵を食べる習慣は国によって異なる。
もちろん私も食べたことはあるのだが、生である以上、常にサルモネラ菌などによる汚染を心配しなければならない。
もちろん、生卵で食中毒にかかる率はそれほど高くはないかもしれないが、十分な管理がされていたとしても、そのリスクは決してゼロではないのだ。
どうしてビンス・ジロンダは、卵を食べるなら生以外はあり得ないと主張していたのか。
その理由は、加熱することで卵の中に含まれる健康的な脂質を含む栄養素の大半が破壊されてしまうと考えていたからだ。
卵の場合、軽く加熱するだけでも殺菌ができるのだが卵の加熱調理に反対する人は、栄養素の破壊を心配しているのである。
アメリカには、液状になった卵白だけの商品が売られている。パックに入っているので、そのまま牛乳のように必要量を使うことができるのだ。
このような商品は100%安全であり、プロテインシェイクや調理などで活用することができる。
ただし、当然ながらこのような卵白だけの商品には、全卵に含まれる栄養素の大半は入っていない。
タンパク質の含有量だけを比較しても、卵白と卵黄には大きな差がある。例えば、卵白100gに含まれるタンパク質は10・8gであるのに対し、卵黄には16・4gも含まれているのだ。
それでも、液状卵白をプロテインサプリメントなどに混ぜて活用するのであれば、十分なタンパク質が摂れることは間違いない。
また、冷蔵庫を開けてすぐにタンパク質を補給したい人は、液状卵白ならそのまま飲むことができるので手軽だ。
卵白を飲むなんて想像しただけで気持ち悪いという人もいるだろうが、実際に飲んでみると、液状卵白として販売されている商品の味は決して悪くない。
メーカーもその点は工夫に工夫を重ねているため、調理で使えることはもちろん、そのままでも飲めるようにほぼ無味になっている。
生卵を飲み干すことに抵抗感があるという人の多くは、映画『ロッキー』の印象が強く残っているのではないだろうか。
映画の中でロッキー・バルボアは全卵をグラスに入れ、それをゴクゴクと飲み干していた。あのシーンを見て気持ち悪くなったり、生卵を飲むなんてあり得ないと感じた人は多かったのだ。
しかし、サルモネラ菌の心配がなければ、生卵を食べることは筋肉や健康づくりにマイナスになることではないのである。
どうしても卵を生で食べることに抵抗を感じるのであれば、スクランブルエッグにして食べてもいい。朝食に3~6個の卵をフライパンで混ぜながら加熱するだけである。
難しいことなどひとつもなく、安くて手軽なのに、スクランブルエッグ1品だけで21~42gの高品質のタンパク質を摂ることができるのである。
スクランブルエッグにオートミール、それに果物を加えれば、栄養バランスの良い完璧な朝食になる。
難しいことなど何もないので、朝食のメニューに悩んでいるなら試してみるといいだろう。
実際、卵6個分のスクランブルエッグを食べるのはそれほど苦にならないが、ゆで卵にして6個食べようとするとなかなかきついものがある。
試してみれば分かるが、スクランブルエッグのほうが量を食べることができるのだ。
もちろん、ゆで卵も便利な朝食メニューになるが、たくさんの卵でタンパク質を補給したいなら、ゆで卵よりスクランブルエッグのほうが現実的である。ただ冷めても美味しいかどうかという点ではゆで卵のほうがいいし、1個でも満腹感が得やすいという利点もある。
少量で空腹を満たしたいという場合はゆで卵のほうが適しているかもしれない。
全卵のシナジー効果
コレステロールや脂質を含む食材だから、まさか卵で減量できるとは想像できないかもしれない。
ところが、卵は減量食として最適だ。ボディビルダーを被験者にしたある実験では、朝食に卵を3個食べたグループと、それ以外のメニューの朝食を摂ったグループ、そして朝食を摂らなかったグループの3つを比較したところ、体脂肪をより多く減らしたのは卵を3個食べたグループだったそうだ。
さらに別の実験では、ワークアウト後に「全卵を使った軽食」を摂った場合の筋発達と体脂肪の減量について調査が行われた。
この実験は「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」誌で発表されたのだが、実験に参加したボディビルダーたちはワークアウト後に全卵3個の食事、または全卵3個と同量のタンパク質を含む卵白のみの食事のいずれかを摂った。
その後、被験者たちの筋肉組織が採取され、生検によって筋原線維へのタンパク質合成反応が測定された。タンパク質合成反応は、ワークアウトで受けたダメージから筋原線維が修復される速度を示すものである。
実験の結果、タンパク質合成反応がより高かったのは全卵3個を食べた被験者だった。
つまり、全卵3個を食べたボディビルダーはより早く確実に、傷ついた筋線維を修復し、回復することができたのである。傷の修復と回復がより早く行われれば、筋肉はそれだけ早く次のワークアウトに備えてコンディションを整え、結果的に筋量と筋力の両方を増やすことができることを意味している。
この実験では、両グループが摂ったタンパク質量に違いはない。
にもかかわらず結果に差が出たことについて、研究者たちは確証を得ることができなかった。
ただ、全卵と卵白の内容を比較した場合、全卵には卵白には含まれない必須脂肪酸や豊富なビタミン類など、栄養素の種類も量も高含有されている。
そのため、実験を指揮したニコラス・A・バード博士は次のように述べている。
「おそらく、タンパク質以外の食品成分(脂肪、ビタミン、ミネラル)が、アミノ酸の働きをサポートし、それによって全卵のグループは運動後の筋肉の増強反応をより高めることができたのかもしれない」
「フード・シナジー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
つまりは「食の相乗効果」である。全卵は明らかに複数の栄養素がアミノ酸の働きを相乗的に高めていると考えられ、それが今回の実験結果の差につながったと思われる。
筋発達に必要なのはタンパク質だけではないのだ。タンパク質だけで十分ならプロテインパウダーさえあれば事足りるということになる。
しかし、実際はそうではない。食材から栄養を摂るということは、様々な栄養素の相乗効果が得られるということであり、それが筋発達を促すのである。
ボディビルダーと卵のイイ関係
ボディビルダーと卵の付き合いは非常に長い。
卵を原料にしたエッグプロテインに牛乳を入れてシェイクしたものが飲まれた時代もあったし、牛乳に卵を割って入れたシェイクだってある。先にも述べたとおりビンス・ジロンダは、ボディビルダーの食事には卵を摂ることを勧めていた。ただし、それは生卵に限定されていたのだが、ジロンダの発想は常に時代の最先端を行くものが多く、時には科学が彼を追うこともあったぐらいだ。
実際、当時のボディビルダーたちの間では、科学的な根拠や知識について情報交換されることなどほとんどなかった。
そんな時代にビンス・ジロンダは、筋発達とアミノ酸の関係についてよく語っていたものである。筋発達をできるだけ短期間で確実に得たいなら、卵を毎日36個食べろとジロンダはクライアントたちに指示していたそうだ。
もちろん、それはいくら何でも多すぎるだろうが、要はそれくらい卵は筋発達に貢献する食材だということなのだろう。
昔のボディビル界にはサプリメントと呼べるものなどほとんどなく、ましてやステロイドなどの薬物を使う者もいなかったはずだ。
にもかかわらず、ジロンダの指導を受けて見事なまでに筋量を増やし、バリバリに絞り上げたボディビルダーたちが大勢いたのだ。
例えば初代ミスターオリンピアのラリー・スコット、伝説のボディビルダーに名を連ねるドン・ハワースらは、ビンス・ジロンダに指示された食事法で一気に肉体改造に成功した。
アーノルド・シュワルツェネッガーもジロンダの指導を仰ぐために、ベニスのゴールドジムでトレーニングをする前はスタジオシティにあったビンス・ジロンダのジムでワークアウトを行っていたのだ。
ちなみに、当時のアーノルドも毎日1~2ダースの卵を食べていた。
ジロンダがクライアントたちに「毎日36個の卵を食べろ」と言ったのは、それがダイアナボールの軽めのサイクルを実践したのと同じ効果を生むと信じていたためだ。
ダイアナボールはステロイド薬であり、大量の卵を食べることで薬物に近い効果が得られるとは思えないが、少なくともジロンダはそう信じていたようだ。
こういったことは誇張されて現代まで伝わってきたことかもしれないし、第一、そこまで大量の卵を食べることを推奨しようとは思わない。それでも1日に6~12個の卵なら現実的に食べられる量と言えるだろう。
だたし、すでに高脂血症やコレステロール値が高い人、あるいは循環器系に問題がある人は、必ず医師の診断を受けたり、小まめに健康診断を受けるようにしほしい。
卵とテストステロンの関係
卵にアナボリックな働きがあることは間違いないようだ。
実際、卵をよく食べることで体内のテストステロン値を高めることができるとされている。
これまでの研究で、動物性の飽和脂肪にはテストステロンを上昇させる作用があることが示されているのだ。
ある実験では、被験者に低脂肪の食事を摂ってもらったところ、体内のテストステロン値が低下するという結果が得られている。
これと同じような結果になった実験は数多くあり、そのいずれもが、血中に溶け込んでいるフリーテストステロンを低脂肪食が低下させると結論付けている。
フリーテストステロンとは、結合していない状態の活性力のあるテストステロンのことだ。高強度トレーニングを行い、筋発達に励むボディビルダーにとって、フリーテストステロンの低下は決して望ましいことではないのだ。
ここで、どうしても気になってしまうのが、36個の卵がダイアナボールと同等の効果をもたらすと言ったビンス・ジロンダの言葉だ。果たして本当だろうか。
おそらく、これについての答えはノーだ。それでも、卵を食べることで体内で作り出されるテストステロンが活性化されることは間違いない。
そして、それは筋発達を促し、体脂肪の減量を促してくれることが期待できる。 たとえ卵がダイアナボールの代わりにならないとしても、ビンス・ジロンダがクライアントに勧めた卵の食べ方に興味があるなら、表の方法で試してみてはいかがだろうか。
また、1950年代、1960年代から活躍し始めたラリー・スコットやドン・ハワース、ビル・パール、アーノルド・シュワルツェネッガー、その他大勢のチャンピオンたちはジムでもキッチンでも、手に入れられるもの、その場に用意されたものだけを使って究極の肉体を完成させていた。
サプリメントがなくても様々な食材を利用した。特に牛乳と卵は彼らにとって欠かせないものであった。
ビル・パールはベジタリアンで、肉を食べなくても筋発達は可能であることを証明したが、彼は乳卵菜食者だったので、卵と牛乳は容認していた。そのためビル・パールは卵や牛乳をふんだんに利用し、様々な野菜を食べてパワフルな身体を手に入れたのである。
まとめ
卵には体内で作り出されるテストステロン量を増やし、疲労回復や体脂肪燃焼を促す働きが期待できる。国や時期にもよるが、平均して安価で、手に入りやすい食材だ。
朝食に卵3個、そして食間にも卵を加えたシェイクを飲んだり、あるいはゆで卵を2、3個を食べることで、体内の窒素バランスを終始プラスの状態に保つことができるはずだ。
また、ワークアウト後にも卵3個程度を摂るようにしたい。その場合、調理したものでもいいし、シェイクに入れてもいいだろう。
なかなか筋量が増えない、ワークアウトの疲れが取れにくいという人は、卵を積極的に食べてみるといいだろう。とても簡単なことだが、それだけで現状を一気に打破することができるかもしれない。
<参考文献>
E. Hamalainen, H. Adlercreutz, P. Puska, P. Pietinen,: Diet and serum sex hormones in healthy men, Journal of Steroid Biochemistry,
William Litz
カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。