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スポーツの公平性を守る!JBBFが推進する新時代のアンチドーピング戦略

JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)の青田正順会長は、アンチドーピングのためには検査と教育の両方が大切だと言う。今回は、現在のJBBFがどのような取り組みを通してドーピングの撲滅を考えているかについてお聞きした。[初出:IRONMAN2024年12月号]

教育なしで検査を行って、ペナルティだけ与えるような仕組みにはしたくない

ドーピングへのJBBFの姿勢

JBBFという団体に登録している選手および役員は、指名された場合には検査を受ける義務があります。これに関連して、我々はドーピングに関する研修を行い、ドーピング検査の意味や検査方法などについて知ってもらうことが必要と考えています。

今までは、JBBFの登録選手には3年に1回のアンチドーピング講習会受講を義務付けていましたが、これからは毎年の講習会受講をお願いすることになると思います。

ドーピング検査というものは、ドーピングに関する教育を正しく行った上で実施するものです。教育なしで検査を行って、ペナルティだけ与えるような仕組みにはしたくないと思っています。

別のところでは、SNS等で散見される、禁止薬物を容認するような意見についても危惧しています。個人で楽しむための使用だから問題ないということではなく、そういった思想の広がりが業界全体にとってマイナスになることを懸念しています。
仮に健康被害等の問題が発生した場合に、誰に責任が及ぶのかという問題もあります。そういったことを踏まえると、競技団体が責任を持ってアンチドーピングに取り組む姿勢を見せることは大切だと思います。

簡易ドーピング検査

簡易ドーピング検査を実施することで、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)との間に問題が生じるのではないかと思うかもしれません。しかし簡易ドーピング検査をする意図は、ドーピング教育の結果を正しく把握することです。
トップ選手のみを対象とするJADA主導の20件から30件の検査だけで本当に教育が評価できるのかという点は疑問です。必ず、ドーピング教育とドーピング検査はセットで行わないといけないと思っています。

理想としては、JBBF登録選手の1割を年間で検査できるようにしたいです。しかし、JADAがベースとなる検査では、コスト的にも検査システム的にも無理があります。そうなってくると、自分たちで検査を作って運用していく必要があり、費用面を考えて簡易ドーピング検査を実施することになりました。

現在は簡易ドーピング検査協会というものを作り、利益とは無関係で運用をしています。今後、中学生や高校生が禁止薬物を使用してスポーツの場面に出てくることがあるかもしれません。そのような問題を抑止するためにも、今のうちから取り組んでいくことが大切でしょう。

ここで大事なのは、検査に引っかかった選手を罰するのではなく、正しく教育していくことです。
現在の簡易ドーピング検査の結果は外部には公表されません。しかし、検査で陽性となった選手には、検査協会が個別にヒアリングをすると同時に、その後の対応についても指導する仕組みになっています。簡易ドーピング検査は罰を与えるためにあるのではなく、教育と抑止のためにあると思っていただきたいです。

将来的には、研究者や医者からなる倫理委員会を立ち上げ、簡易ドーピング検査の持つ影響力を高めたいと考えています。すでに大学病院の先生の協力も得ながら研究を進めていますが、検出される物質には明らかに治療目的以外のものがあるようで、こういった物質の扱いをどのようにするかは、詰めている段階であります。

これまでのJBBFの取り組み

1986年に日本で世界男子ボディビル選手権大会が開催された際に、JOC(日本オリンピック委員会)の協力で検査を行ったのが始まりです。300名程度の参加者のうち30名を検査したところ、12名の違反者が出ました。

その後JADAが立ち上がり、ボディビル連盟についても登録団体となりました。現在は連盟独自にアンチドーピング委員会が活動しており、JADAのドーピング検査に協力しています。

ドーピング検査を始めたばかりのころは陽性者がたくさん出ていましたが、その後は陽性者の数は減っていきました。しかし、検査規模が昔と比べて縮小されてきている現状もあるので、単純な比較はできないと思います。
昔は県大会規模でもドーピング検査を行うことが可能でしたが、現在は世界選手権への派遣を決めるようなレベルの大会で検査を行うことが主流となっています。そのため、検査を危惧してブロック大会までの出場にとどめるような選手が出てしまう問題点も抱えています。

費用面から見るドーピング検査

JADAの行う検査の費用は、1人あたり10万円から15万円はかかると聞いています。またそれに加え、検査員派遣にかかる諸費用もあります。検査対象者1人につき検査員が1人派遣されることに加え、検査を監督する役職の方も派遣されます。

ボディビルのドーピング検査にかかる費用は、どの国でもその国の協会や連盟が負担することとなっています。しかし日本の場合は、スポーツ振興基金(toto)の助成を一部受けています。こういった仕組みのない国においては、コンテストに出場する選手からドーピング検査の費用を徴収し、それで全体の1割程度を検査しようとする流れができつつあります。

世界から見たJBBFの評価

JBBFのアンチドーピングに対する取り組みは世界からも評価されています。ボディビルに限らず、ドーピング陽性者を多く出す競技団体は、IOC(世界オリンピック委員会)より名指しで注意を受けることがあります。国ぐるみで禁止薬物を使っていたことが証拠付きで取り上げられたこともありました。

ボディビルというマイナー競技も例外ではなく、海外では上位入賞を目指して禁止薬物を使用するケースがあります。これに関連して、IFBBもWADA(世界アンチ・ドーピング機構)から指導を受け、去年の世界大会では上位選手の検査数を増やしたという話も聞きました。
国際連盟がこのような部分を意識して変えていかないと、ボディビルがスポーツ競技として成立していかなくなってしまうのではないかと思います。

ドーピング教育の大切さと今後

私はジムの経営もしていますが、そこで出会う高校生と話している中で、
「ネットですごい選手のトレーニング方法やサプリメントの使用が出ていたので、状況もよく分からないが、僕も出るならああいう大会に出たい」
という発言がありました。その時に、今回の記事で話すようなアンチドーピングの内容を聞かせたところ、「よく分かりました」と言ってくれたのですが、そのようにして直接話す機会があるのはごくわずかです。

あとは大会等で話すこともありますが、それでも隅々まで行き渡っているとは思えません。選手の方からも、正しくアンチドーピングの教育をしていくことは、JBBFが競技団体として果たすべき役割を求められます。

以前は指導者講習会でのアンチドーピング講習でしたが、現在はコンテスト出場選手向けのアンチドーピング講習会の開催を幅広く行っています。アンチドーピング講習会は、これまでは地方連盟各ブロックに設けられた会場で受講する形式でしたが、去年からリモートでも開催を始めました。
今後はリモートを主流としつつ、ネットを使えない方向けのリモートとリアルの混在した形式も交えたスタイルへ移行していくことを考えています。

さらに言えば、JBBF登録選手に限った話ではなく、ボディビル・フィットネス愛好者全員にドーピングの危険性を伝えていかないといけないと思います。JBBFが強く発信していく中で、他の団体も同じように取り入れていってくれると良いですね。

簡易ドーピング検査についても、JBBFは簡易ドーピング検査協会に費用を支払って行っています。他の競技団体がこの簡易検査を取り入れても良いのではないかと思います。ただし結果の公表については細心の注意を払う必要があるでしょう。この部分を踏まえた上で、検査と教育を同時に行っていければ、非常に意義があることになるのではないでしょうか。
これに関連して、簡易ドーピング検査協会が主となって作ったアンチドーピング講習動画なんかがあっても良いのではないかと思います。これならば、ボディビル以外の競技団体が活用することも可能になるはずです。

健康被害について周知することが最も大切ですが、違反者をなくしていくために、他の団体も一緒になって検査や教育に取り組んでいく姿勢を取るのが、スポーツにおけるアンフェアな考え方を正していくこととなります。
99・9%がルールを守っていても、わずか0.1%の違反者がいればコンテストは不公平な場になってしまいます。
これが今後JBBFのアンチドーピング活動の流れになると思います。

取材・文:舟橋位於 大会写真:中島康介

あおた・まさのり

1957324日生まれ。東京都大田区出身。1985 年に神奈川県にスポーツマインド寒川をオープン。パワーリフティング競技者としては、1988 年の全日本&アジア大会でも優勝の実績を誇る。2022 年度よりJBBF の会長に就任。JOC総務委員会委員・JOC競技強化スタッフも務める。

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