女性の尻トレシーンはよく見かけるが、男性はどうだろう。胸や腕ばかりになり、おろそかになっていないか? 競技者だけでなく一般トレーニーにも必要な“男の尻トレ”について、まずは日本トップクラスにデカいお尻を持つ3人の実践例を紹介しよう。
1人目は、寺山 諒選手だ。全体的にデカいが、特に目を見張るのは大殿筋下部の発達。「点を打つイメージ」で行う尻トレの極意を伝授していく。
取材・文:小笠拡子 写真:舟橋 賢 大会写真:中島康介
- 寺山 諒 2024年日本男子ボディビル選手権5位
お尻の感覚を養って筋力・筋量をアップ
――寺山選手が行うお尻トレとして4種目を教えていただきました。
寺山 自分が考える優先度の高い順で言うとスクワット、スクワットプレス、ダンベルのルーマニアンデッドリフト、アウターサイです。ただ、脚の日にこれらの種目を組み込んでいるので実際に行う順番としてはアウターサイ、スクワットをしたら他の種目をして、スクワットプレスやルーマニアンなどのハムケツ種目に移ります。
――種目のそれぞれの良さについて知りたいです。
寺山 スクワットはお尻の筋肥大というよりも、筋力を強くするために行っています。脚全体を機能させて重さを扱っていける種目なので、お尻を使わないと重さも持てません。脚と共にお尻の筋力が向上すると、結果的に他の種目の底上げにもつながります。対してスクワットプレスは、筋肉に負荷が乗ってくれるマシンです。関節への負担が少なく、ハムとお尻に刺激が入りやすいですね。ルーマニアンをダンベルで行う理由は、手首の角度を自由に変えられるから。股関節を折り曲げるにつれて移動する重心をコントロールしやすいんです。アウターサイはお尻だけで負荷を受けやすい種目です。スクワットの前に行うのですが、関節や筋肉の準備運動というよりはお尻の感覚を研ぎ澄ますための種目ですね。緊張度で言えばスクワットと同レベル(笑)。さらにセット間で、自重のスクワットを何度かやるんですよ。
――その理由は?
寺山 股関節を屈曲・伸展させると殿筋が使われやすいんです。重りを持っていない状態でも、ちゃんとお尻に負荷が入っているか確認してから次のセットへ臨みます。
――お尻の代表種目ともいえるブルガリアンスクワットは採用されていないのでしょうか。
寺山 4年前にハムとお尻の境目を怪我してしまい……。その影響によって、ブルガリアンでしゃがんだときの強張りがまだ抜けないので、代わりにルーマニアンを採用しているんです。お尻種目としても、軸を捉えてバランスを養う訓練としてもブルガリアンは非常に有効な種目なので、いつか復活させたいですね。
重心を掴むために点をつないでいく
――種目の随所にこだわりが垣間見えますが、重要視していることについてお聞きしたいです。
寺山 自分のトレーニングは〝点〞をすごく意識しています。スクワットを例に挙げると、スタートポジションからボトムまでしゃがんでいくわけですが、その動作中にお尻が通った軌道に一つずつ点を打っていくイメージです。そしてボトムから持ち上げるときは、その点を通って元の位置に戻っていく。このように打った点をつないでいくと自分の中で重心を掴むことができ、軸が定まっていくんです。
――スクワットでは2、3セット目に一番重たい重量を持ってこられていました。
寺山 1セット目が200㎏で8回、そして210㎏で5回、4回、190㎏で9回、9回の5セットで組んでいます。1セット目がメインより若干軽い理由はパワーを発揮しつつも、ある程度自分で「点打ち」を意識できるようにしているからです。1セット目で点を定めることができたら、2・3セット目は点のことを考えられないくらいの出力で行います。4・5セット目は一気に20㎏下がるので体感的にも軽く感じますが、筋肉に負荷が乗っている時間を意識して重心(打ってきた点)がブレないように挙げていくと感覚の質が良くなり、お尻もパンパンになります。
――点の意識は、重力が関係ないアウターサイでも同様にある?
寺山 そうですね。脚をちょっとずつ開いていくたびに「この脚の位置でお尻が使えているかな」と点を結んで確認していくんです。そして、開ききったら十分に負荷がお尻に乗っている。戻るときも同じで、閉じていくたびにお尻から力が抜けていないかを意識します。自分の筋肉の動く矢印が負荷に対してズレることなくきれいにぶつけていくイメージです。マシンで感覚が得られにくければ、自重やバンドでのクラムシェルでもいいと思います。
――自分に合った種目で点打ちの感覚を掴めばいいのですね。最後にお尻を鍛えることの重要性を伺いたいです。
寺山 街中を見てみると、股関節やお尻を使って歩けていない人が多いように感じるんですよね。膝関節主動でちょこちょこ歩きになると、つま先重心になって前ももが張る。さらに、歩くときの負荷が筋肉に流れず、骨で受けすぎて関節に大きな負担がかかり、膝を痛めることもあるでしょう。年齢を重ねていくと、こういった影響はより大きくなると考えます。お尻を鍛えて筋力をつけることで股関節もしっかり動かせるようになりますし、関節に負担をかけない歩き方ができます。何より、いい姿勢を保つことができるようになるので、立つや座るなどの日常生活の動作が楽になるのではないでしょうか。
デカいお尻を作るポイント解説
“動作の軌道をズラさない”が肝!
優先度❶ スクワット
足は肩幅よりもやや広め、つま先も若干外側に。しゃがむ動作の一つひとつに点を打つイメージで行い、重心を真っ直ぐに定めてお尻も使いながら挙げていく。
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優先度❷ スクワットプレス
足は肩幅よりも少し広めに、つま先も外へ。時間をかけながら下ろして身体に引きつけることで、負荷を乗せた状態を保てる。動作スピードのコントロールが要。
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優先度❸ ダンベルルーマニアンデッドリフト
顔を下に向け首を固めた状態で行うと、骨盤が後傾気味になってお尻が収縮しやすい。上半身の動作より、頭と足先のポイントの空間に股関節を入れるイメージで。ダンベルを持つ手首の角度は時計の11時ぐらい。
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てらやま・りょう
1995年生まれの29歳。東京都出身で身長170.4cm。体重はオン82.7㎏オフ96g( 現 在 )。職 業はフリーのパーソナルトレーナーで、サバイバルゲームが好き。2024年の戦績/JBBF日本男子ボディビル選手権大会5位