「私にとって、ボディフィットネスは“ちょうどいい”」
女性向けトレーニング専門雑誌『ウーマンズシェイプ』の読者モデルとして初めて雑誌に登場した14年前。そのころからトレーニングを続け、ボディフィットネスの競技選手、チャンピオン、そして今ではコンテスト「マッスルゲート」の審査員と、階段を昇り続けてきた金子真紀子選手。その軌跡を辿りながら、彼女の飽くなき探求心と美学に迫る。[初出:Woman'sSHAPE vol.29]
【写真】金子真紀子選手のバキバキの背中&トレーニング始めたての写真
「まあ、出てみるか」軽い気持ちで競技の世界へ
━━金子選手が初めて読者モデルとして小誌に登場したのは2011年に発売された第3号でした。
金子 そのころ私が通っていた加圧トレーニングジムの方が編集部とつながりがあって、「出てみませんか?」と声を掛けられたのがきっかけです。当時はまだ雑誌が発刊されたばかりの時期で、知り合いを通じてモデルになってくれる人を集めていたんだと思います。
- Woman's SHAPEvol.3(2011年6月号)に初登場!
- 2011年5月、Woman'sSHAPEvol.3の撮影。トレーニングを始めて1年のころ。「自分に負けないストイックな精神を身につけることが目標」と語っていました
━━どういった心境で撮影に臨まれたのですか。
金子 私でよければ、という感じでした。ただ、撮影場所がゴールドジムだったのですが、当時はまだゴールドジムの「ゴ」の字も知らないころで、初めて行ったときはかなり緊張しました(苦笑)。
━━トレーニングを始めた動機はなんだったのでしょう。
金子 立ち仕事で身体がむくむのが悩みで、駅前にできた加圧トレーニングジムに通い始めたんです。身体を動かすのは好きだったので、ストレス発散になればいいなと思って。
━━そこからボディメイクへの興味が深まっていったのは?
金子 ここ(ゴールドジム)に通うようになってからです。引っ越した先の自宅から歩いて通える場所に、このジムがあったんです。ボディフィットネスの大会に出るようになったのも、ここで「出てみたら?」と勧められたので、「まあ、出てみるか」みたいな軽い気持ちからでした。

懐かしい写真を見ながら当時を振り返っていただきました
━━当時から理想のボディを追求したいという気持ちはあったのですか。
金子 それは最初からずっとあり、今も変わりません。トレーニングをやめられない理由が、そこにあるんだと思います。トレーニングに関しては、常に課題が出てくるので、飽きることがないんです。
━━その理想のボディというのは、ボディフィットネスで勝てる身体ということですか。
金子 近かったと思います。あまりそこから外れてしまうと、きっと立ち止まっていたと思うので。
━━具体的には、当時どういった身体を目標にしていたのでしょうか?
金子 今ほどムキムキになりたいとは思っていませんでした。このころは毎日のようにお酒も飲んでいましたし、「健康的なメリハリボディになりたい」くらいの感覚だったと思います。そこから年々変わっていったと言いますか。筋肉がついてくると、「もうちょっといけるかな?」みたいな。よくなった部位があれば、そこに合わせて他の部位もよくしていきたくなるんです。また、それに伴って、トレーニングの面にも課題がどんどん出てきます。
━━そうした課題をクリアしていくことが楽しい?
金子 そうなんです。身体をもっとよくしたいから、より質の高いトレーニングを求めて、それで身体がよくなったら、さらに質の高いトレーニングを求めて……。だから、トレーニングを始めたころと現在とでは、理想としていたものも違ってきていると思います。
駆け上がった「日本一」の階段、その先にあったもの
━━そして2014に競技デビューし、翌15年には東京選手権、ジャパンオープン選手権で優勝。デビュー2年目ながら、注目を集めました。
金子 プレッシャーを感じるようなことはなかったと思います。やるからには日本一を目指したかったんです。このころは(全国大会の)オールジャパン選手権、そして(各階級の優勝選手が争う)オーバーオールでの優勝を目指していて、その目標をずっと追いかけている感覚でした。
━━2018年はオールジャパン選手権オーバーオールで優勝を果たし、ボディフィットネスの日本一になりました。
金子 今にして思えば、その年までは常に上しか見ていなくて、ずっと緊張状態にありました。優勝することだけを考えて、「トレーニングも絶対に休まないぞ!」みたいな感じで意気込んでいました。
━━私生活でも犠牲にするものが多かった?
金子 そんな気がします。でも、競技生活も長くなってきて、年齢も重ねて、年間を通して競技とトレーニングにうまく付き合えるようになってきたように思います。気持ちの波がなくなったと言いますか、今は「トレーニングは休んだほうがいいかな?」と感じたときは、ためらうことなく休みます。
━━いい意味で肩から力が抜けた?
金子 そうかもしれません。そして、これは誰もが通る道なような気がします。試合会場で若い選手たちと接すると、(目標を追いかけている人ならではの)エネルギーを感じます。
━━18年に優勝して、「やっと競技から解放される」という思いは?
金子 辞めようとは思わなかったです。「日本一になる」という目標を達成できて、そこからは(大会での勝敗より)自分の身体の変化であったり、トレーニングレベルの向上だったりに気持ちが向いていきました。もちろん、大会に出るからには優勝したいです。でも、そのころから視野が広くなって、周りを見られるようになった気がします。
常に進化を求めて。「終わり」はない
━━昨年にはデビュー10周年を迎えました。今ではボディフィットネスを経験したあと、女子フィジークやウェルネスなど他の女子フィットネス競技に転向する選手も少なくはありません。そうした中、ボディフィットネスのみにフォーカスして取り組んできました。
金子 ボディフィットネス以外の競技に移ろうと思ったことはありません。私はやはり、ボディフィットネスが好きなんです。
━━ボディフィットネスのどういったところが好きなのですか。
金子 私にとって、"ちょうどいい"競技なんです。大会に出場するからにはしっかりと絞らないといけないですし、その一方で女性らしい丸みは残さなければいけません。そうした中で、ちゃんと筋肉をつけて、たとえ絞っても肩の丸みや背中の凹凸感は出していく必要があります。
━━全体的な筋肉のモコモコ感と言いますか。
金子 そう!そのモコモコ感が好きなんです。女性らしい丸みを帯びた筋肉。私はそれが「ボディフィットネス」だと思っています。こうした競技には、(絞り重視や筋肉量重視などの)審査基準のトレンドは確かにあるとは思います。私はそのことを理解した上で、自分が好きな身体作りに取り組んでいます。

オールジャパン2連覇を達成したときのIRONMAN2019年11月号の撮影(撮影:北岡一浩)
━━そうした中でもオールジャパン選手権では優勝を続け、各階級の覇者が集うグランドチャンピオンシップスでも上位の成績を残しています。トップ選手たちの顔ぶれが変わっても、金子選手は常に一定の評価を勝ち取っています。
金子 ステージ上でのアピール力には長けているほうだと思います。また、コスチュームのカラーも固定はしていません。キャリアが長くなってくると、毎年毎年の「変化値」というものが出しづらくなってきます。その中で、同じカラーのコスチュームで出場すると、観ている方たちは「いつもの金子さんね」という印象を抱くと思うんです。だから、新鮮な感覚で観てもらえるように、雰囲気を変えるように心掛けています。
━━常に進化を求めているのですね。
金子 はい。毎年、進化したいと思っています。変化を感じなかった年は今までなかったと思います。
━━今でもトレーニングを行っていて新しい発見に出会えることは?
金子 普通にあります。また、できなかった種目ができるようになると、モチベーションも上がります。そして、トレーニングを続けてきて、大会にも出場して、そうした中で積み重ねてきた経験も今はあります。そこで得た知見は、もし競技から身を引くことがあったとしても、食生活のコントロールやトレーニングとの向き合い方などに生かせると思います。この競技に出会えて本当によかったと思います。
かねこ・まきこ
1979年7月23日生まれ、埼玉県出身。身長161㎝。2014年に競技デビューし、翌15年に東京選手権、ジャパンオープン選手権で優勝。2018年オールジャパン選手権・ボディフィットネス163㎝以下級&オーバーオール優勝。その後も163㎝以下級で連覇を続け、2024年で6連覇を達成。
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取材・文:藤本かずまさ 撮影:中原義史、北岡一浩、中島康介 Web構成:中村聡美