
月1回ピラティスのパーソナルを受ける小倉さん。右はピラティストレーナーにしてサマースタイルアワードにも出場する仲座さみらさん
「ピラティス=痩せる」。これは競技を始める前、小倉あれず選手が抱いていたピラティスへのイメージだ。実際に取り入れて1年━━。継続することで感じた、心と身体の進化について教えてくれた。
生じた歪みを戻すためのアプローチのひとつ
━━ピラティスを取り入れ始めて1年ほどだとか。始める前はどんなイメージを持っていましたか?
小倉 私、韓国が好きで。競技を始める前の話になりますが、K-POPアイドルたちの中でピラティスがすごく流行っていたんですね。なので、K-POPアイドルの身体のような見た目になれる、身体が整うというイメージを持っていました。そこから派生して、当時は「ピラティス=痩せる」と思い込んでいました。
━━実際されてみて、当時のイメージから変わりましたか?
小倉 痩せるもの、というのは違うと感じましたね。私は筋トレやポージング練習をしていると、どうしても身体の歪みが出てきちゃうんです。やはり日常ではあまりやらない動きなので。だから今では、その歪みを元に戻すアプローチというイメージをピラティスに対して持っています。
やったあと、歪みはちょっと戻りますし、アウターマッスルではなく、身体の内側に対する感覚が前より良くなりました。身体の使い方も変わってきたので、自分でも意識して調整しています。
━━ここは筋トレで筋肉を育てるのと同じようなものですね。現在は、どれくらいの頻度でピラティスをされていますか?
小倉 月に1回マシンピラティスのパーソナルレッスンを受けています。毎回、講師に身体の悩みを伝えてオーダーメイドで種目を組んでもらっています。
競技者界隈でもピラティスをしている人が増えましたし、私も「ここの筋肉だけを動かす」というような身体を分離させる動きを獲得したかったんです。これはポージングだけにとどまらず、筋トレでも対象筋にしっかり効かせられる感覚を養うことにも通じるはず。私は超人見知りなので(笑)、知人のピラティススタジオでレッスンを始めました。
━━筋トレではアドレナリン全開で行っているとおっしゃっていました。一方ピラティスはどんな気持ちでされているのでしょう。
小倉 呼吸を整えながらやらなくちゃいけないので、むしろリラックスしながら行っています。筋トレではハードな音楽をかけてガンガンやるんですが、ピラティスでは波の音のBGMを流してくれて呼吸を整えてくれるんです。本当に真逆って感じで。副交感神経を優位にさせ、筋トレによって生じた歪みを内側から整えています。
━━正直、キツい?
小倉 キツいです!いっつもピーピー言いながらやってますよ。筋トレはがむしゃらにできますが、ピラティスってそうはいかない。ピラティス講師から「肋骨を一個一個動かして」とか「腰の骨を意識して」とか言われますが、これまで骨なんて意識したことがないので難しい〜!と思いながらやっているのが現実です。
自分の内側に意識を向けて呼吸を気にしながら行うのですが、すごく繊細だなぁと思います。お喋りなのでレッスンのインターバル中に喋っていると「深呼吸して息を整えてね」って怒られることもよくあります(笑)。
「ウサギとカメ」理論
━━競技者ではないトレーニーがピラティスをすることの良さをお聞きしたいです。
小倉 ピラティスには土台を整えたり、身体の使い方を学べたりする要素もあると考えています。例えば胸椎が張れないまま肩トレをしていたりすると、思うような筋発達ができないこともある。
肩を育てるために本来すべき動作がありますが、これは姿勢が真っすぐでないと効果が落ちてしまうことがあるんですよね。猫背だったり、巻き肩が癖づいていたりすると、肩を外旋することが難しいはずです。
真っすぐな姿勢を保持すること、それをいきなり再現することもきっと難しいはず。だから、身体自体を整えてからじゃないと、筋トレしてももったいない部分があるかなと思っていて。筋トレにおける「身体の上手な動かし方」を学ぶためにもピラティスは効果的じゃないかと思うんです。
━━とにかくやってみる、というのも悪いことではないんですが。
小倉 もちろん。ただ、身体の動かし方を1回ピラティスで学んで整えてから、筋トレに持っていくと筋肉の発達も速いと個人的には考えているんですよね。
例えば「お尻が育たない」という悩みがあったとして、その原因が筋トレ種目だけにあるとは限りません。その種目に入る前の姿勢が悪かったり、身体の土台が整っていなかったりすると、対象筋に効かせられない部分もあります。だから私は、ピラティスと筋トレをうまく連携させていくと良いんじゃないかなって思います。
━━一見するとやっていることが違うかもしれないけれど、最終的につながってくる。
小倉 そうだと思います。ピラティスを取り入れるのって「ウサギとカメ」の考え方に似ているかもしれません。地道なことにはなるんですけど、それぞれが考える理想の身体を作りたいのであればすごく大事だなっていう考えですね。
ピラティスによって戦闘モードの心が穏やかに

2024年オールジャパンビキニフィットネス158cm以下級優勝
━━ピラティスを行ったことで、小倉選手自身の課題における変化があれば知りたいです。
小倉 私はずっと「脚の丸みが足りない」という点が課題の一つとしてあるんですね。他と比べて成長が遅いというか……。自分の感覚としては追い込めているのかもしれないけれど、四頭筋に効かせられてないのかなって。もしかしたら神経伝達がうまくいっていないのかもしれないと考えました。
もう一つ、股関節の外旋が得意ではありませんでした。外旋に携わる筋肉を鍛えるのが難しくって、筋トレだけではどうにもならないと感じていたんです。神経伝達と外旋能力の向上、この2点がピラティスで改善できればいいな、と思っていました。
自分でも感覚の練習を重ね、さらにピラティスを1年やってみたことで、動かしたい筋肉に意識を向けられるようにはなりました。外旋も以前より上手になった感覚があって、ポージングの向上にもつながっています。加えて、刺激の入り方が少しずつ変わっているかな、と。最もその実感があるのは肩トレで、詰まりがなく動きがスムーズな感覚があります。
━━日常生活において、変わった意識などはありますか?
小倉 私はもともと骨盤前傾が強くて、腰を反ってしまうタイプなんです。ピラティスを継続し、肋骨と骨盤の位置を真っすぐにする、という意識を持って日常を送るようになりました。
あとはメンタルの変化が大きいかなと自分では思います。日常的に戦闘モードに入りやすいタイプなんですね。目標を決めると「やるぞ!」って、日頃から心が燃えたぎっているような感じになります。それはピラティスレッスンのときもそうで、講師から「呼吸してね」とか「身体をリラックスさせてから寝てね」とアドバイスをもらって、意識して呼吸をするようにしていました。
━━やる気に満ち溢れているのは、良いことである一方、「身体が休まらない」という状態も起こり得そうですね。
小倉 本当にそうなんです。減量末期は眠りが浅くて、身体が回復しきっていなかったですし、増量期で食べていても「来年やってやるぞ」とギラギラで眠れない日もありました。ピラティスを始めて身体の内側とか呼吸を意識するようになり、眠りも深くなったし気持ちも穏やかになったと思います。
━━メンタルが進化しています!
小倉 はい、周りからも「丸くなったね」って言われるようになりました。振り返ってみると、ここ3年ぐらいは交感神経がずっと優位だったんじゃないかな。
戦闘モードだとトレーニングもガンガンできるし、もちろんそれによって身体も成長できるんですけど、自分でも分かるぐらいトゲトゲしくなってしまうんですよね。特に競技を始めた当初は、人を攻撃するわけじゃないんですが、「いや、私はやるって決めたから!」みたいな(笑)。周りから「あのときは目が鋭かった」と言われたこともあります。
やる気があったから、ここまで頑張ってこられたし、今も「日本一になる」という目標は達成したいと思っています。ただ、ピラティスを始めたことで「絶対目標を達成する!」という強い気持ちだけでなく、「楽しくトレーニングして健康でいたい」と穏やかな気持ちを持つようにもなりました。
新たなる目標は資格を取ること

現在はマシンピラティスに取り組む小倉さんだが、今年からマットピラティスの資格取得を考えているという
━━ピラティスにもマットとマシンの2種類がありますが、マシンピラティスを選んだ理由は?
小倉 もともとマットピラティスにも興味があったんです。今はご縁もあってマシンピラティスのみですが、これからマットピラティスの資格を取ってみようかなと思っています。
個人的な見解にはなるんですけど、マットピラティスは筋トレのフリーウエイト種目。そしてマシンピラティスは筋トレのマシン種目という位置付けです。どっちにも良さがありますが、基礎的な部分はマットにあるのかなって。資格の勉強を通して、基本の「キ」を学びたいと思っています。
━━資格を取得したら自分もできますし、月に1回だったピラティスの頻度が上がりそうです。
小倉 そうですね。自分に活用するとなれば、トレーニングやポージング練習前の準備運動にも取り入れられると思います。
これから資格取得の道を歩むのでどうなるかは分からないのですが、主体的に学んで自分の知識を広げていきたいです。
━━資格を取られたらマシンピラティスは卒業?
小倉 いえ、どちらも続けるつもりです。私の今年のトレーニングテーマは「初心に戻る」で、フリーウエイトをやり込もうと考えています。マシン種目ばっかりに頼らず、身体の基礎を作っていきたくて。その思いがピラティスにも反映されているような感じです。それこそ筋トレのフリーとマシン種目どっちもやる、みたいな(笑)。身体も内面も、どう変わっていくのかが楽しみですね。
おぐら・あれず
1997年生まれ、栃木県出身。イランと日本のハーフで学生時代はバレーボールに打ち込むアスリート魂の持ち主。地元・栃木と東京を行き来しながら、女性競技者に向けてポージングの指導を行っている。JBBF2024年ALLJAPANビキニフィットネス158cm以下級優勝、同年グランドチャンピオンシップスビキニフィットネス2位。
取材・文:小笠拡子 撮影:中原義史、中島康介(大会) Web構成:中村聡美