ピラティス フィットネス

姿勢のゆがみや腰・膝の痛みは足の崩れが原因!? “足部”の感覚と動きを目覚めさせる厳選7ワークをマスタートレーナーが紹介【Shiecaと学ぶピラティスwith 菅原順二】

ピラティスインストラクターの資格を持つ小倉シエカさんとともに、マスタートレーナーの菅原順二さんの解説でピラティスを学ぶコーナー。
今回は「足」をテーマに、姿勢や動きの土台となる足部の重要性と、現代人が失いつつある足の機能を呼び覚ますアプローチを紐解きます。

[初出:Yoga&Fitness vol.15]

取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美

建物の土台が崩れれば上階も崩れていく

シエカ 今日のテーマは「足」。この部分はちょっと盲点というか、トレーニングやボディメイクに取り組んでいる人でも、意外と足については見落としがちですよね。

菅原 多くの人が足裏を軽く見ていますが、僕ら人間は重力の中で常に地面に押しつけられながら生活しているんですよね。四足歩行の動物とは違い、二足歩行の人間が地面と接しているのはたった二点。足裏だけなんです。だから、足がうまく使えていないと、必ず上半身が代償することになる。結果として姿勢のゆがみや腰・膝の痛みなど、トラブルの多くが「足」から始まっている人はすごく多いと思います。

シエカ 本当にそうですね。建物にたとえるなら、土台が崩れていたら上も崩れてしまう。マットで背骨や体幹をいくら整えても、いざ立位でのトレーニングやエクササイズになると、とたんに足元から崩れてしまうという人は本当に多くて。特に女性に多い印象ですが。

菅原 いえ、メンズも同じです(笑)。現代人共通の特徴でしょうね。

シエカ わかりやすい例でいえば、扁平足の人は内側に潰れやすい傾向があり、スクワットをしても膝が内側に入ってきてしまう。いくら「膝をまっすぐ」とアドバイスしても、足の感覚が狂っていたり、足の筋肉が働きにくくなっていたりすると支えられないんですよね。

二足歩行の効率を現代の生活が奪っている

菅原 そもそも人間は、地球上で長距離を移動するのに長けている動物です。二足歩行という効率的な構造を獲得したことで、少ないエネルギーでも長く歩けるようになった。二足歩行は手を使うためだとか、動物を根気よく追うためだとか諸説ありますが、いずれにしても僕らの身体は「歩く」ためにデザインされているんです。

シエカ たしかに、四つん這いで500メートル歩くのは結構キツイけど(笑)、普通に歩けば意外と歩けてしまう。それくらいエネルギー効率が違うんですね。

菅原 ところが現代人は、靴を履き、舗装された道路を歩き、電車に乗ることで、せっかく得た機能を手放してしまっている。江戸時代の飛脚は、おにぎりだけで1日に江戸から日光近くまで行ったなんていう伝承もあるのに。そこまでさかのぼらなくても、昔はみんな砂利道や岩場、木の根っこが飛び出た凸凹道を毎日歩いていたから、常に足に負荷がかかり、自然と強くなったわけです。

シエカ 私も子どもの頃は凸凹したところをよく歩いていましたが、大人になってから捻挫しやすくなりました(苦笑)。やはり、そういう環境から遠ざかってしまったからですよね。女性だとヒールを履くことで、本来利点であるはずのかかとの接地も失っていますし。

菅原 そう。裸足で良かったものが、わらじになり、靴に守られるようになった。舗装された平らな道しか歩かない。これでは足が弱くなるのも当然です。

ピラティスが重視する足の感覚を呼び覚ます

シエカ ピラティスって、マットのイメージで見てしまうと足にフォーカスしていないように思えるかもしれませんが、実は決してそんなことはないんですよね。

菅原 そう、ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティス氏は、足に関してすごくこだわっていたと思います。足の筋力を鍛えるフットコレクターとトゥコレクターなど専用器具もあるし、彼を受け継ぐクラシカルピラティスでは、指をバーに掛けたり、MP関節やかかと、アーチの使い方まで細かく指導します。彼は100年以上前に、第二次産業革命で自動車の大量生産にともない馬車から車へと移行し、人々の運動量が激減し始めた時代、すでに足の機能低下を危惧していたんです。

シエカ マシンピラティスは足を使う動作が本当に多くて、「足だらけ」というくらい(笑)。たとえばウエイトトレーニングにしても、本来は上だけでなく下からの押さえが必要で、足で踏ん張る力がないと腰椎にストレスがかかって潰れてしまいます。「足」で床を踏む力が備わっていないと、すべての動きが成立しないと言っていいくらいです。

菅原 でも、残念ながら現代の多くの人の手足は、語弊を恐れずに言えば死んでいるような状態。僕は「マネキン」と呼んでいます。対して、日々酷使するくらい使われている人の手足は見た目も動きも生き物です。お相撲さんの手なんて、毎日引っぱたいているからすごい手になっているし、家具職人の手もバレリーナの足も、まるで獣というくらい使い込まれています。

シエカ 同じ現代人であっても、使う・使わないでそこまで違ってくるんですね。

菅原 だから最初にやるべきは、やはり眠っている感覚を「呼び覚ます」こと。子どもの足の裏を触ると握り返してきますよね。柔道をやっている人も足で物をつかめたりする。そういう本来の感覚や機能を取り戻す必要があると思います。

シエカ 不自由なく立って歩けていると思っても、足の感覚が錆びついて、言わば感覚がズレた状態で使い続けていると、ズレた情報しか脳に届かない。だから最初に足裏全体のセンサーにスイッチを入れる、感覚器を活性化させるということが必要になってくるわけですね。

菅原 足裏の感覚器が脳にフィードバックしなければ、身体のバランスを取ることもできません。足裏不良は冗談ではなく生命に関わってくると僕は思っているんです。足裏が地面と接触すると、全身のあらゆる関節を介して脳に振動=バイブレーションが伝わります。この刺激が人間にとって最も重要なんですよ。歩くことが最良のトレーニングと言われるゆえんです。

シエカ ただ、その〝歩く〞前提として「足」が整っていない人はとても多くて。ダイエットや健康増進のために「歩きましょう」とアドバイスされた人のなかでも、「この足で歩いたら逆に危ないかも」と心配になる人もいます。

菅原 だからこそ、まずは感覚を呼び起こすことから始めてほしいですね。今回は足裏の刺激に始まり、足の可動域や安定性、さらに剛性、つまり強さといった、私たちの足が持つ本来の機能を取り戻すワークをご紹介しています。足を整えることで、今みなさんが取り組んでいるヨガやピラティス、トレーニングなどの質も大きく変わってくると思います。

ウォームアップにオススメ!
マスタートレーナー菅原順二さんのピラティスレッスン
“足部”の感覚と動きを目覚めさせる厳選7ワーク

普段なかなか動かす機会がなく、感覚がにぶりがちな足部(足首から下の部分)。その眠っている感覚を呼び覚ますためのワークです。あなたの足裏、足指、足首は“生きて”いますか?

足部撮影に協力いただいた
komomoさん(ピラティスインストラクター)

 

Work.1
ボールによる足裏の刺激

Focus足裏の眠っている感覚を呼び起こす/足底アーチの筋肉の活性

突起のあるコンディショニングボールなど、ある程度の硬さのあるボールに足裏を乗せ、上からゆっくり圧をかけたり、全体に転がしたりしながら足裏に様々な刺激を入れる。

ココがポイント

硬いボールにごりごりと足裏を押し付けると足部を痛める可能性があるので、初心者はテニスボールなどから試してみて。

Work.2
MPストレッチ

Focus足指、足部の可動域を広げる

正座の要領でMP関節(足指の付け根の関節)を曲げ、いわゆる「跪(き)座」の姿勢を取って数秒間キープ。左右のかかとが垂直になり、全ての足指の付け根が均等に床に着いていればOK。

ココがポイント

どちらかのかかとが傾く、小指だけ浮いてしまう場合は足部や姿勢に左右差やゆがみがある可能性大。

Work.3
足指のストレッチ

Focus足指、足部の動きを出す

立位の姿勢で、片方の足の付け根のMP関節、指を写真の方向に曲げる。足指で物をつかむ・握るイメージを持ちながら。

ココがポイント

ふだんは靴に圧迫されている足指を、この方向に曲げるのは難易度高。無理せず少しずつ曲げていくこと。

Work.4
足指のスプレッド

Focus足指、足部の動きを出す

立位の姿勢で片足の指を「足指じゃんけん」のパーの要領で横に広げ天井に向ける(スプレッドアップ)。そのまま足指でピアノを弾くイメージで、小指から親指まで順に下ろしていく(スプレッドダウン)。

ココがポイント

最初はうまくできずに足指がつってしまうことも。慣れてくると足指をコントロールする感覚が分かってきます。

Work.5
足首のサークル

Focus足首の回旋可動域アップ/足部の安定性強化

片脚を前に出し軽く膝を曲げたら、両手を膝に置いてやや前傾姿勢に。両手で膝を前方に軽く押すようにしながら、前足首を360度、いろいろな方向に回す。足首を回す際は、足裏が地面から浮かないようにすること。

ココがポイント

この動きがスムーズにできてくると、日常動作やスポーツ動作がレベルアップ。重心感覚もアップします。

Work.6
かかと立ち・つま先立ちブリッジ

Focus足首・足部のコントロール力アップ/殿筋・ハムストリングの活性

①あお向けになり両膝を立てたら、お尻と腿裏を使い胸から膝までを一直線にキープ。
②体幹部が下がらないように意識しながら、同じ姿勢でかかとを上げる。
③かかとを着いて元の姿勢に戻ったら、今度はつま先を上げてお尻と腿裏に違う刺激を感じる。

ココがポイント

かかと立ちの際は体幹部が抜けやすく、つま先立ちの際は反り腰になりやすい。体幹部と足部をそれぞれコントロールしながら身体前面をまっすぐ保つこと。

Work.7
蹲踞(そんきょ)

Focus足部の安定性・バランス力向上足部の剛性の強化

①立位でつま先立ちになり、両手を腰に軽く添えてスタンバイ。かかと同士を軽く付けてもOK。
②ゆっくりしゃがみ、足の付け根のMP関節で自重を支えながら数秒間キープ。かかとを上げたまま元の姿勢に戻る。

ココがポイント

しゃがんだときに前傾しすぎたり、かかとにドンとお尻を乗せすぎるのはNG。常にまっすぐ上に伸びる意識を持つこと。スクワット前のウォームアップや全身運動としてもオススメです。

すがはら・じゅんじ
1978年10月28日、東京都出身。全米公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(NSCA・CSCS)/Body Element Pilatesマスタートレーナー/トレーニングスタジオ アランチャ代表。法政大学ラグビー部でプレー後、単身ニュージーランドへ渡りNZISに入学、トレーニング学などを学ぶ。帰国後ピラティスと出会い、マスタートレーナーの資格を取得。パーソナルトレーナーとしてラグビー選手、プロ野球選手などトップアスリートを指導するかたわら、全国を回りピラティス、マスターストレッチ、ボディキー、呼吸法などをレクチャーしている。パーソナルトレーニングスタジオ アランチャ公式サイトhttps://www.arancia78.jp/

しえか
1979年生まれ。フィットネストレーナー/運動経験ゼロであったが、体型の崩れをきっかけに2007年、27歳で筋力トレーニングを開始。JBBFボディフィットネスに出場し、東京・関東(初代)・東日本(初代)大会チャンピオンとなる。2010年に全日本大会準優勝、11年東アジア選手権代表に選出。現在は、ピラティス、ウエイトトレーニング、筋緊張抑制などを組み合わせたコンディショニング&ボディメイクを行うパーソナル指導を中心に活動中。

-ピラティス, フィットネス
-, , , ,

おすすめトピック



佐藤奈々子選手
佐藤奈々子選手