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トップスイマーが効果を実感!ピラティスが持つ“整える力”の可能性とは【五輪スイマー平井瑞希×ピラティスインストラクター辻茜スペシャル対談】

高校生スイマーとして2024年パリ五輪に出場。バタフライやメドレーリレーで決勝進出を果たし、3年後のロサンゼルス五輪でのメダル獲得が期待される平井瑞希選手。ピラティスインストラクターの辻茜さんは今春から彼女のコンディショニングを支えています。アスリートの方にどのような変化をもたらしたのか―。ピラティスが持つ“整える力”の可能性を、二人の対話から探ります。

取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史  Web構成:中村聡美

「ピラティス?何だろう?」からのスタート

━━2024年のパリ五輪出場後も活躍を続ける平井選手。8月の世界ジュニア選手権では得意のバタフライで100M金メダル、50Mで銀メダルを獲得。9月の国民スポーツ大会でもバタフライ、自由形で優勝するなど神奈川県初の天皇杯獲得に貢献しました。平井選手がピラティスを始めたのは、やはり辻さんとの出会いがきっかけですよね。

平井 はい。辻先生が私の父と水泳のイベントでお会いしたのが最初だったと思います。

私の娘も競泳をやっていて、そのイベントに参加したんですね。お父様は瑞希さんの妹さんの付き添いだったのかな?その会場で共通の知り合いである元オリンピアンの森隆弘さんに「ピラティスの先生です」と紹介していただいて。「一度体験してみましょう」という流れで、セッションを始めることになりました。

平井 父にその経緯を聞いて、「せっかくだから体験してみたら?」と勧められて、軽い気持ちで始めたのが今年の4月ごろでした。

瑞希さんはそれ以前に、ピラティスのことはあまり知らなかったんですよね。

平井 実は「ピラティス?何だろう?」というくらい、全然知識がなかったです。

アスリートの方の間に徐々にコンディショニングの一要素として浸透してきてはいますが、競泳の世界でピラティスを取り入れている人は、まだそれほど多くないかもしれないですね。最初にやってみたとき、どんな印象を持ちましたか?

平井 辻先生に指導していただきながら初めてやってみたときは、想像以上にきつかったです(笑)。「全然できない!」というのが最初の印象でした。でも終わった後、「これは続けたい」と思いました。

そんなにきつかったのに?

平井 はい。水泳では筋肉を使うことはもちろん大事ですが、私の理想は「できるだけ力を抜いて、楽に速く泳ぐ」ことです。そのためには、コアなど必要な部分だけを使えて、逆に腕や脚などの末端の力は抜けるようにしたい。ピラティスを続けていけば、その感覚がつかめるかもしれないと思いました。

同じ身体を使ったワークでも、筋トレとはまた違った感覚を得たのでしょうね。

平井 そうですね。ウエイトトレーニングは続けていますが、筋肉を鍛えるというよりも、必要な部分だけを使えるようになって、余計な力を抜けるようにしたい。ピラティスを通して身体のコントロールの幅を広げたいと思いました。

瑞希さんに対する私の最初の印象は、とにかく筋肉が柔らかいこと。その柔軟性には本当に驚きました。通常のリフォーマーでは標準的なスプリングの強さというのがあるんですが、そのマニュアル通りで行くと「きついです!」と。

平井 はい、メチャきつかったです(苦笑)。

通常のスプリングでは筋肉が緊張しすぎてしまうんですね。陸上のトレーニングと水中のトレーニングではこれだけ差があるということを発見できましたし、競泳の選手にはやはりちょっと違う方法を用いるべきなんだなと、私のほうが勉強させていただきました。

「力を抜く」ためのトレーニング設計

━━ピラティスの指導で特に気をつけていることはありますか。

瑞希さんの希望が「とにかく楽に泳ぎたい」ということだったので、私の指導も〝パワー〞ではなく〝コントロール〞に焦点を当てました。実際には競技の特性を理解することから始めようと、娘の泳ぎをよく観察したり、瑞希さんがレースのときも会場に見に行ったり何度も動画で見返したりしました。

平井 えっ、そんなに見てくださっていたんですか(笑)。

はい、穴が開くくらい(笑)。そのうえで、どの動きが力みにつながっているのか、リフォーマーならリフォーマーをどのように使えば、瑞希さんが目指す〝力まない動き〞を再現できるか考えました。水中の練習が中心なので、ピラティスの回数は多くできませんが、1回ごとの密度を大切にしています。

平井 ピラティスをしていると、最初はどうしても筋肉で動いてしまって「もう、きつい!」となるんですが、少しずつ必要最低限の力で動けるようになってきました。

リフォーマーのジャンピングボードを使ったワークなどでも、その変化が現れてきましたよね。

平井 最初は足の力でバーンと蹴って足が疲れていましたが、徐々に体幹で蹴る身体の操作ができるようになってきました。

━━水中では、ターンのときに活かされそうな動作ですね。

 瑞希さんは真面目で、感覚をつかむのがとても速いと思います。ワーク中に「これ以上やったら筋力トレーニングになってしまう」と自分で判断してストップする。アスリートとしての自己管理能力が高いです。

平井 筋肉を大きくしたいわけではないので、末端の筋肉しか使えなくなったら一度リセットします。ピラティスを始めてから、自分の身体の状態を客観的に感じられるようになった気もします。

指導する側としても、そういう自己調整力を持った選手はすごくやりやすいです。しかも、ご家族との連携もすばらしい。セッション後はお父様から「この強度で疲労がどのくらい残ったか、どのくらいの時間で抜けたか」など、細かいフィードバックをいただいて、動画で確認しあうこともあります。まさにトライアングルで進めている感じです。

本物のイルカさながらしなやかに速く泳ぐために

━━実際に、泳ぎの中で変化を感じる部分はありますか。

平井 競技の変化というよりは、やっぱりコントロールの幅が広がってきた気がします。ピラティスのときも、コアを使って末端の筋肉は必要最低限の力に抑えるという。でも、動作の回数を重ねると、まだ末端に頼りがちなので、腹筋のさらに奥のコアを使う練習は続けていきたいと思います。そうしたら、バタフライに必要な上半身と下半身の連動もよりスムーズになるかなと。

瑞希さんの水中映像を見ていると、本当に滑らかで美しいんです。ピラティスにも〝ドルフィン〞というワークがありますが、まるで本物のイルカのような動き。がっしりと筋肉をつけてしまうと、このしなやかさは失われてしまうので、今のアプローチは適切だと思いますよ。

平井 ありがとうございます。もちろん将来的にはパワーも必要になってくると思いますが、まずは身体をどう動かすか、どう脱力するか。そのコントロールをもっと磨きたいです。

レースを見ていても、100Mの後半で伸びるのが印象的です。ピラティスで〝力を抜いて動く力〞が伸びていけば、さらに記録更新が期待できそうですね。

平井 50Mはどちらかというと力を使いますが、100Mで同じ泳ぎをすると後半持たなくなるので、「楽に速く」という意識で泳いでいますし、これからも課題として取り組んでいこうと思っています。

アスリートに寄り添うメソッド

━━10月の日本短水路選手権では100Mバタフライと50M背泳ぎで優勝。背泳ぎでは日本短水路記録も更新しました。この先の目標についても、ぜひ教えてください。

平井 アメリカ留学が決まっているので、近い目標ではアメリカの大学対抗戦「NCAAチャンピオンシップ」で優勝することです。そして3年後のロサンゼルス五輪では50Mが新たにオリンピック種目になるので、50Mと100Mバタフライで結果を残したい。できるなら自由形にも挑戦したいですが、メインはバタフライになると思います。

━━アメリカでは練習環境も大きく変わりそうですね。

アメリカに行くと、大学内にも本当にたくさんのトレーニング施設やメンテナンスのプログラムがあります。私が以前ラスベガスで見たトレーニングセンターでは、アスリートが自分の体調に合わせて「今日はこのメンテナンスルームに行こう」と選べるほど充実していました。行ってみたら、あまりに選択肢が多くて迷ってしまうかもしれません。だからこそ、自分の身体の状態を理解しておくことが大切ではないかと。マットでできるピラティスを身につけておけば、どんな環境でも自分でコンディションを整えられるようになると思いますよ。

平井 大学にもスイムやウエイト以外に各分野の専門コーチがいるらしいので、ピラティスの知識を活かしながら、新しい環境で身体づくりや競技練習に取り組みたいと思います。

心から応援しています。瑞希さんは常に目標が明確で、またそれを叶える力をお持ちなので、ピラティスを通して応援していけるのは、私にとって何よりの幸せでもあります。ピラティスは今ブームですが、ただのエクササイズではなく、平井選手のようなトップアスリートにも寄り添っていけるメソッドでもあります。可能性としても色々広がっているものだということを、より広く知っていただけたら嬉しいですね。

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辻茜(つじ・あかね)
株式会社Aulii代表取締役。幼少よりクラシックバレエを始め、松山バレエ学校、同バレエ団を経て、パリに留学。その後渡英。Vienna Festival Balletにてソリストとして活躍中の怪我を機にピラティスに出合う。渡米し、ピラティスをDollyKelepeczに従事。ネバダ州立大学公認 DK BodyBalancing Pilatesを取得。2016年乳がん学術学会で、乳がん術後ケアのためのピラティスについて発表。医療と連携し、マタニティーピラティスや乳がん術後ケアピラティスを手がけ、女性のためのヘルスケアプログラムも制作、院内の講座を行なっている。整形外科医との医療連携も行い、術前術後のメンテナンスとしてのメディカルピラティスの導入や、アスリートのためのメディカルピラティスも行う。2020年から、国内最大ピラティスイベントPilates Festa主催。

平井瑞希(ひらい・みずき)
2007年3月7日生まれ。TOKIOインカラミ所属。2024年パリオリンピック競泳女子100mバタフライでは決勝まで進出し、57秒19のタイムで7位。2025年8月のFINA世界ジュニア水泳選手権では、100mバタフライで金メダル、50mで銀メダルを獲得。9月の国民スポーツ大会では100mバタフライ、自由形で優勝。高校卒業後と同時にアメリカの大学からスカウトを受け、テネシー大学に進学する。

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