必修:補助器具『プロップス』で整えるピラティス
「中心(センター)」が身体を目覚めさせる
ピラティスリングでつながる体幹と末端
ピラティスインストラクターの資格を持つ小倉シエカさんとともに、マスタートレーナーの菅原順二さんの解説でピラティスを学ぶコーナー。
今回のテーマは、自宅でも本格的なワークを可能にする「ピラティスリング」です。アスリートの遠征先から介護の現場まで、幅広く活用されるこのツールが、現代人が忘れかけている「身体の連動性」をどう呼び覚ましてくれるのか、二人の対話から探ります。
[初出:Yoga&Fitness vol.16]取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史 Web構成:中村聡美

「筋肉のありか」を教えてくれる、最も身近なガイド
シエカ 今日のテーマはピラティスリングです。個人的にいいなと感じるのは、とりあえず値段のお手頃さでしょうか(笑)。やってみたいと思ったときにすぐ手に入れられて、場所も選ばないというのは、やっぱり魅力的ですよね。
菅原 僕も同意見。アイテムとして手軽にプラスアルファできるのは大きなメリットだと思います。今はマシンピラティスが流行っていますが、マットでも、リングのように負荷がかかるものをプラスすることで、マットだけとはまた違う刺激が得られますからね。
シエカ マットピラティスは、特に自分の身体の感覚が掴めていない人がやると、「どこに力が入っているの?」となったり、狙いとは別の部分に余計な力みが入ったりするなど、実は難しい場合も多くて。
菅原 マシンのように付属のパーツが動きを導いてくれるわけではないですからね。
シエカ その点でも、リングは筋肉の収縮感をダイレクトに得やすいので、ピラティスで大事なコアに近い部分が「ここにあるんだ」と気づかせてくれます。「息が吐ききれない」とか「下腹部の力の入れ方がわからない」という方でも、とりあえずリングを介して動いてみると、なんとなく筋肉のありかがわかってくる。なのでレッスンでもつい「ご自宅用に持っておくといいですよ」と勧めてしまいます(笑)。でも、ピラティスリングが最近できたアイテムだと思っている方も意外と多いですね。
菅原 それこそ、ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティスさんの時代からあったものなのにね。諸説ありますけど、ビール樽の金具を外して使ったのが始まりだと言われています。だから、クラシカルなスタイルを大切にする先生方も好んで使われるんですよ。
シエカ ビール樽!だから、ぱっと見は硬そうに見えるけど、若干のバネのような張力があるんですね。その張力のおかげもあって、自重だけでは難しい肩や股関節などの細かな筋肉の出力を引き出しやすく、関節の働きが悪い人でも、あえて力を出すことで逆に関節が動きやすくなったりもします。
菅原 本来 自重ではかからない負荷もかけられるというのは、たしかに最大のメリットの一つでしょうね。たとえば内腿の内転筋を自重で鍛えようとすると、スクワットなどの種目では他の筋肉も動員されるため、ダイレクトに効かせるのは案外難しい。それが、脚でリングを挟むというシンプルな動作だけで、確実にターゲットをとらえられますからね。
「中心」を呼び覚まし身体の連動性を取り戻す
菅原 僕はアスリートを指導することも多いんですが、選手にもリングを渡すことが多いんです。手軽に持ち運べて、遠征先や宿泊先のホテルでも負荷をかけられるので、重宝している選手は多いですね。
シエカ ピラティスの場合、トレーナーと一緒に指導を受けているときはわかっていても、一人になると感覚がうまく掴めなくなるという方は多いですよね。その点、ピラティスリングがあると、その感覚を一人でも再現しやすいですからね。あとリングで面白いのは、使うだけで自動的にお腹のスイッチが入ること。リングを挟んで呼吸をするというシンプルな動作でも、身体のセンターに力を戻す感覚を掴みやすいんです。
菅原 リングを挟んだり引っ張ったりする動作は中心の力、つまりセンターがないと成立しない。だから、高齢の方で中心が弱くなっていると、うまく挟み込めなくなるんです。
シエカ 筋力全般が低下したというより「中心の弱さ」が原因?
菅原 そう思ったのは、祖母の介護をしていたとき、タクシーに乗せようと抱っこしたら腕がちぎれるかと思うほどの力で掴まれたことがあって。「痛い!そんなに強く引っ張らないで」と言ってしまうくらい。だから、高齢者は単純に筋力が弱まっているというよりは、中心から末端へ力をつなげるコーディネート能力や、床の反力を利用するバランス感覚がにぶくなってきているんじゃないかと。経験としてそう感じます。
シエカ たしかに、年配の方でも握る力が本当に強い方がいますが、中心とつながっていないので、他のパーツが動いてこない。そういう方こそピラティスリングをエクササイズに取り入れることで、体幹と末端がつながる感覚や、力をセンターに戻す感覚がつかめてきますよね。
菅原 シエカさんが言うように、人間の力みとか出力って本当に面白くて。たとえば子どもの出力は「0か100」、つまり強弱のコントロールがなかなかできない。「優しく叩いて」と言っても、バチーンて(笑)。
シエカ ボールを優しく投げてといっても全力(笑)。でも、上手に加減できる子もいて。
菅原 そうそう。だから「運動神経が良い子」というのは、この強弱を適切につけられる子という見方もできる。高齢の方も、ある年齢を境に子どもに戻っていくというか、出力のコントロールが効かなくなって、うまく力が入らなくなったり、姿勢や歩行が不安定になる側面があるように感じます。しかも今の時代、子どもや高齢者だけでなく、若い人も長時間の姿勢固定で出力のオンオフの切り替えがうまくできない人が本当に多いですからね。
シエカ その意味でも、出力のコントロールを分かりやすく学べるピラティスリングは年齢の別なく有効ですね。ピラティスリングの場合、骨盤を支える骨盤底筋などのインナーマッスルも協調して働きやすくなるので、姿勢の改善にもつながっていきますから。
関節を安定させ、潜在的なポテンシャルを引き出す
シエカ リングを使っていると、本当に「整う」感覚がありますよね。全身の抜けている部分に力が入って、入りすぎている部分が抜けてくる。やり方次第では「こんなに全力で力を出るんだ」と驚くほど強度を上げることもできますが、不思議と怪我をしないんです。
菅原 そう、僕がアスリートにリングを勧めるのも、安全性の高さが大きな理由としてあります。
シエカ たとえば一気にボールを投げるような全力の出し方だと関節を痛めるリスクがありますが、リングは関節の位置を大胆に変えずに力を出せるので、むしろ関節の安定感が高まるんですよね。しかもあらゆるポジションで関節を安定させながら力を出す方法を身体に覚えさせてくれるので、怪我のリスクもかなり軽減できそうです。ピラティスリングに興味を持った方が購入する際、選び方のヒントはありますか?
菅原 僕のスタジオで使っているのは重いタイプで、ダンベルのような物理的な負荷もかかるタイプです。重さや硬さは様々ですが、基本的にはこだわりすぎずにオーソドックスなものでいいと思いますよ。ただ、あまりに安価だと耐久性が低くてパキッと割れてしまうこともあるので、そこだけは注意してください。
シエカ サイズも種類がありますね。
菅原 小柄な方ならミニを選んでもいいでしょう。あとリングの形状でいえば、内側にもパッドがついているタイプなら、「挟む」だけでなく径の内側からリングを「広げる」動作もやりやすいですね。

シエカ 実際に使うときに、共通して気をつけるポイントはありますか。
菅原 僕は何より「ポジション」を大切にしています。関節の位置関係、いわゆるセントレーションが整った状態で押せるならいいんですが、適当にやって変なところに力が入ってしまったら意味がないので。たとえば、骨盤を後傾させて挟むのか、ニュートラルで挟むのかだけでも、効果は全然変わってきます。
シエカ コアとのつながりと言っても、人によって「お腹の上の方に力が入ればいい」と勘違いして、ポジションがズレていることも多いですしね。
菅原 まずは姿勢をしっかり整えてから挟む。そこを意識するだけでも、シンプルに「センターに力を戻す」という感覚がすごく出やすくなるはずです。今回はその基本となるワークを紹介していきましょう。
すがはら・じゅんじ
1978年10月28日、東京都出身。全米公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(NSCA・CSCS)/Body ElementPilatesマスタートレーナー/トレーニングスタジオ アランチャ代表。法政大学ラグビー部でプレー後、単身ニュージーランドへ渡りNZISに入学、トレーニング学などを学ぶ。帰国後ピラティスと出会い、マスタートレーナーの資格を取得。パーソナルトレーナーとしてラグビー選手、プロ野球選手などトップアスリートを指導するかたわら、全国を回りピラティス、マスターストレッチ、ボディキー、呼吸法などをレクチャーしている。パーソナルトレーニングスタジオ アランチャ公式サイトhttps://www.arancia78.jp/
しえか
1979年生まれ。フィットネストレーナー/運動経験ゼロであったが、体型の崩れをきっかけに2007年、27歳で筋力トレーニングを開始。JBBFボディフィットネスに出場し、東京・関東(初代)・東日本(初代)大会チャンピオンとなる。2010年に全日本大会準優勝、11年東アジア選手権代表に選出。現在は、ピラティス、ウエイトトレーニング、筋緊張抑制などを組み合わせたコンディショニング&ボディメイクを行うパーソナル指導を中心に活動中。
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