ボディビル元世界王者・鈴木雅×AZCARE株式会社代表・近藤拓人×PMPerformance代表・川合智監修によるスペシャル対談!
「減量中、筋肉量は落ちて当たり前」と思い込んでいませんか?そこで、筋肉量を残して絞るためにやるべきことを【トレーニング編】【有酸素運動編】【栄養編】【睡眠・ストレス編】【エネルギーフラックス編】の5回に分けてお伝えします。筋肉が削れるのはもはや当たり前じゃない!
ココがポイント
朝イチ空腹時の有酸素は筋肉も落とす
有酸素運動を行う際は、脂肪を燃やすこと以外の効能に目を向けよう
酸素を使った代謝をする有酸素運動は、ボディビルダー以外の一般の人の間でも広く行われる。その効能は多岐に渡るが、特にボディビルの場合は体脂肪を燃やすための運動として捉えられることが多い。しかし、改めて考えたとき、減量において本当に有酸素運動は必要なのだろうか。盲目的に行うと、意外と落とし穴もあるのではないだろうか。
有酸素運動では確かに脂肪がエネルギーとして消費されるが、同時に筋肉も分解されてしまう。このことを考えると、筋肉をできるだけ残しながら脂肪を落としていくボディメイクの減量とは、合致しない部分もあるということだ。

「さらに言うと、筋肉の発達を進める酵素であるmTOR(エムトア)(※)の働きが、有酸素運動によって抑えられることも分かっています」(近藤)
※)mTOR(エムトア/エムトール)「mammaliantargetofrapamycin」の略。細胞外の栄養状態や細胞内エネルギー(ATP量)等の情報を感知して、細胞成長・増殖へ結びつける上で中心的な役割を担うリン酸化酵素のこと
有酸素運動で筋肉がエネルギー源として消費されることに加え、その発達も阻害される。それならば、有酸素運動は行わないほうが良いと考えるかもしれないが、実は意外なメリットも存在する。
筋トレのような強度の高い運動をしていると、心臓は1回あたりの拍出量を小さくすると同時に、心拍数が増える方向へと適応していく。高強度運動時はこれで問題ないが、平常時にもこの状態が続いてしまうことは好ましくない。そこで、長い距離をゆっくり走る有酸素運動であるLSD(LongslowDistance)を行うことが勧められる。LSDを行うと、心臓はたくさん血を貯めてから送り出すように適応していく。このような心臓は、身体にストレスがない健康な状態であると言える。

「このようなタイプの有酸素運動を継続して取り入れていくことで、トレーニング時間以外でのリカバリーの質が高まります。そうすると、結果としてトレーニング強度を高くすることが可能となります」(近藤)
また、自律神経のバランスを整えるという点でも有酸素運動には恩恵がある。心拍数を高く保つには、交感神経を強く働かせることが必要となるが、当然、この状態は身体に強い負担がかかる。有酸素運動の結果として心肺機能が強化されれば、自律神経に過度の負荷をかけることがなくなり、結果として交感神経と副交感神経のバランスも理想的なものにすることができるというわけだ。

「理想的な有酸素運動の強度や頻度の目安は、1回20分から30分を週に3回といったところです。筋分解というネガティブな影響の受けやすさには個人差もありますので、自分で実践しながら適量を検証していけるといいのではないでしょうか」(近藤)
ココがポイント
脂肪を落とすために有酸素運動をすべきでない
「消化酵素の働きも副交感神経に由来するため、有酸素運動などで自律神経のバランスを整えておかないと、消化吸収にも悪影響が出てくると考えられます」(近藤)
コンディショニングという観点での有酸素運動で、整った身体を作っていこう
有酸素運動については、脂肪減少の側面よりもむしろ、身体の調子を整えるという面に目を向けて取り組んでみたい。

「交感神経を活発にするためには、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンなどが放出されることが必要です。しかしこれらのホルモンが過剰になると、身体を休めるべきときにまで作用してしまい、結果として筋肉の分解が起こります」(川合)
こういった神経伝達物質が適切に機能することは大切だが、無駄に働かせないようにはしておきたい。必要なときにだけ交感神経が活発になるようにするためには、やはりリカバリーに目を向けていく必要がある。それを達成するための手段のひとつとして、有酸素運動が選択肢に挙がってくるというわけだ。

「消化酵素の働きも副交感神経に由来するため、自律神経のバランスを整えておかないと、消化吸収にも悪影響が出てくると考えられます」(近藤)
食べたものがしっかりと消化吸収されることは、増量においても減量においても非常に大切なことである。自分の消化機能に問題があると感じる方は、その原因は自律神経の乱れにあるのではないかと疑ってみてはどうだろうか。
有酸素運動にはさまざまな恩恵があることが分かったが、やり過ぎてしまうのはどうなのだろうか。身体に良い効果があるからといって、1日に何時間も行うのはかえって逆効果になる可能性がある。

「やはり塩梅が大切です。一番良いのは、週に2、3回で1回20分から30分です。エクササイズとして実施しなくても、日常生活の中に有酸素運動的な要素を組み込むこともお勧めです」(近藤)
例えば、普段は電車に乗っている部分を、2駅分だけ歩く日を設けるという形でも、身体には良い影響があるはずだ。
それでは、コンディションを整えるという狙いで有酸素運動を行う際には、その強度はどの程度が良いのだろうか。

「私がお勧めするのは、ギリギリ話しながら続けられる程度の強度です。心拍数で計算するのは難しいので、このような目安で良いと思います」(近藤)
有酸素運動の効果を最大限に得ようとするならば、ウォーキングではやや強度不足ということになる。一定の強度からは、脳由来神経栄養因子(※)も分泌されて認知機能にも良い影響が出てくる。そうすると、やる気やモチベーションの部分も高めていくことができるかもしれない。
※)脳由来神経栄養因子BDNF(Brain-DerivedNeurotrophicFactor)とも呼ばれ、脳の神経細胞が作り出すタンパク質で、神経細胞の成長や再生を促す役割を担う物質。記憶や学習、認知機能の維持など、脳の働きに深く関わっている。
今回紹介したような目的で有酸素運動を行う場合は、朝イチの空腹状態では避けたい。筋肉の分解を避けつつ効果を得たいならば、トレーニング後に糖質を少し補給して身体を回復させて、それから行ってみると良いだろう。
特集「減量の常識を疑う!!」
すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2010~2019年日本選手権9連覇。2016年IFBB世界選手権ボディビル80kg以下級優勝。トレーナーとしては競技者だけでなくアスレティックトレーナーや理学療法士への指導にも携わる
こんどう・たくと
1986年生まれ。宮崎県出身。ミネソタ州立大学アスレティックトレーナー学科でアスレティックトレーナー資格を取得。AZCARE株式会社代表、パーソナルジムNEXPORT代表、オンラインサロン「PLAZ+」主宰。医科学修士、BOCATC、NSCA-CSCS、PRT、DNSET、ビュテイコ呼吸法セラピスト
かわい・とも
1984年生まれ。滋賀県出身。パーソナルトレーニング『PMPerformance』代表兼トレーナー。他にも『AZCAREACADEMY』ゼネラルマネージャーや日本統合療法株式会社・代表取締役を務める。運動の専門家として様々な要望に応える傍ら、運動と栄養を統合したヘルスケアを実践する
取材・文:舟橋位於 撮影:木川将史 Web構成:中村聡美
「単に脂肪を燃やしたり減量を進めたりするための観点ならば、必ずしも有酸素運動は必要ではありません」(近藤)