ボディビル元世界王者・鈴木雅×AZCARE株式会社代表・近藤拓人×PMPerformance代表・川合智監修によるスペシャル対談!
「減量中、筋肉量は落ちて当たり前」と思い込んでいませんか?そこで、筋肉量を残して絞るためにやるべきことを【トレーニング編】【有酸素運動編】【栄養編】【睡眠・ストレス編】【エネルギーフラックス編】の5回に分けてお伝えします。筋肉が削れるのはもはや当たり前じゃない!
ココがポイント
増量期に上げたトレーニング強度は〝死守〞せよ。強度を落とす=筋肉も落ちる
「減量は筋肉量を残すことが大前提なので、強度を下げないことが最も大事です」(鈴木)
減量期は回数を増やすべき?
そして、オフに積極的に休養を取るメリットは?
オフシーズンは使用重量を伸ばすことに注力し、減量中はレップ数を増やして身体を絞り込んでいく。このような考え方は、一見すると理にかなっているように思われるが、効果はあるのだろうか。

「重量を下げた分だけ回数を増やして仕事量を維持する考えもありますが、筋生理学の基本として『全か無かの法則』(※1)があります。やはりある程度の高重量を用いて筋線維への刺激を強くする方が速筋線維も動員しやすく、オールアウトへ導く負荷もかけやすいのではないかと思います」(川合)
※1)全か無かの法則(ぜんかむかのほうそく)細胞が興奮する際、閾値(最小刺激量)を超える刺激が与えられた場合、興奮は最大値まで起こり、それ以上の刺激を加えても興奮の大きさは変化しないという法則
筋肉のサイズを増やしたり維持したりするためには、オフシーズンで扱っていた重量に近い刺激が不可欠だ。そのため、重量を落として回数を増やすという手法では、筋肉量が失われる可能性が高くなると言えるかもしれない。
では種目を変えるのはどうだろうか。

「ボディマップ(※2)が形成できていない人の場合は、種目を変えるとまず動作が安定しません。その動作やその種目の適正重量を見つけるのに時間はかかります。そのような方は種目は変えずに変数を操作することを自分は推奨します」(鈴木)
※2)ボディマップ言葉の通り「身体の地図」。自身の姿勢、身体の大きさや、身体のパーツ(姿勢、関節、筋)が認識できているかという意味
ここまでは、ボディビル的な観点からオフシーズンとオンシーズンのトレーニングを見てきた。1年を通して身体が休まる期間がほとんどないのがボディビルだが、その他のアスリートの世界ではどうなっているのであろうか。

「アスリートの場合は、より長期的な視点で計画を立てることが多いです。10年という長いスパンで考えるならば、定期的に1週間や2週間の休養期間を設けることで、さらに良いパフォーマンスを作っていくことができます」(近藤)
伸び悩みが現れる停滞を打破するには、身体を回復させる期間を意図的に取ると良い。この考え方は、ボディメイクをメインで行う本誌の読者にも当てはまりそうだ。ただし、ボディメイク系競技の場合は、オフとオンのサイクルはとても短い。あまりにも長い期間トレーニングから離れるのは避けるべきだろう。

「ボディビルダーのトレーニングでは、オンシーズンでもオフシーズンでも、強い負荷がかかり続けています。これを回復させる意味でも、休養を積極的に取る意味はあると思います」(近藤)

「人によって調整は変わりますが、普段から20セットを行っている人ならば、12セットにするなど大きく減らしてみても良いですね」(鈴木)
オフとオンの過ごし方についても、改めて考えてみてはどうだろうか。
ココがポイント
使用重量が10%以上落ちたら〝筋肉減少〟はまぬかれない
「オフ期と比べて10%以上も重量や回数が落ちたのであれば、根本からトレーニング内容、食事、生活パターンを見直す必要はあります」(鈴木)
使用重量が落ちてしまうことについて、原因を知って対策を練ろう
減量中にトレーニングの使用重量が落ちる。これは減量を経験したことのあるトレーニーならば、大半の人が直面したことのある問題だろう。中には、オンシーズンでも記録を伸ばせたという話もあるが、全ての人に当てはまる話ではないと思われる。

「減量に入ると体重が落ちるため、使用重量が低下することは避けられないです。ただ、オフシーズンに使用重量を伸ばしておけば、減量に入ってもある程度の重量の担保ができます」(近藤)
減量中に記録を伸ばせれば、体重あたりの使用重量が上がってどんどん強くなるが、現実的にはそれを目指すのは難しい。ある程度の使用重量の低下は起こるものと受け入れることも大事だ。

「低糖質ダイエットで筋グリコーゲンが減ると、パンプ感が得にくくなります。ボディビルなどは見た目を重視する競技であるので、使用重量の低下よりも、身体の張りや変化に目を向けられると良いのではないでしょうか」(川合)
オフシーズンの重量を扱えたかどうかに着目して内容を評価するのではなく、オールアウトできたかどうかや、パンプしていたかどうかなどの観点で見ていくことが、減量中のトレーニングにおいては大切な要素であると言えそうだ。
減量期に入ってからの戦略として、使用重量が下がる分、レップ数やセット数を増やすことでボリュームを維持する方法が考えられる。しかし疲労管理の観点では、実はこのやり方は推奨できない。

「ボリュームを増やすことで疲労も増えてパフォーマンス低下につながるため、私はそのやり方はしません」(鈴木)

「1セットの質を高めて、セットの中できれいにオールアウトするのが理想です。テクニックの問題からそうすることが難しい場合は、ドロップセットなどを駆使してみても良いです」(近藤)
少ないセット数で追い込み切れるかどうかは、その人の身体の使い方のうまさに依存する部分が大きい。最後のレップまで対象筋から負荷を逃さないで動作を続けられる人もいれば、そうでない人もいるというわけだ。トレーニングの中で正しい身体操作を身につけるのが理想だが、それが難しければ、テクニックを使って追い込んでみても良いだろう。

「オフ期と比べて10%以上も重量や回数が落ちたのであれば、根本からトレーニング内容、食事、生活パターンを見直す必要はありますが、1レップや2レップ程度の減少ならば、今までのやり方を続けたほうが良いと言えるでしょう」(鈴木)
筋量を残せる選手は、重量を扱い続けるのも上手い。オフシーズンに重量を伸ばして、負荷の天井を高めておくことがひとつの答えになるかもしれない。
特集「減量の常識を疑う!!」
すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2010~2019年日本選手権9連覇。2016年IFBB世界選手権ボディビル80kg以下級優勝。トレーナーとしては競技者だけでなくアスレティックトレーナーや理学療法士への指導にも携わる
こんどう・たくと
1986年生まれ。宮崎県出身。ミネソタ州立大学アスレティックトレーナー学科でアスレティックトレーナー資格を取得。AZCARE株式会社代表、パーソナルジムNEXPORT代表、オンラインサロン「PLAZ+」主宰。医科学修士、BOCATC、NSCA-CSCS、PRT、DNSET、ビュテイコ呼吸法セラピスト
かわい・とも
1984年生まれ。滋賀県出身。パーソナルトレーニング『PMPerformance』代表兼トレーナー。他にも『AZCAREACADEMY』ゼネラルマネージャーや日本統合療法株式会社・代表取締役を務める。運動の専門家として様々な要望に応える傍ら、運動と栄養を統合したヘルスケアを実践する
取材・文:舟橋位於 撮影:木川将史 Web構成:中村聡美
「現役時代の経験から『絞るためのトレーニングは効率的ではない』と言えます。筋肉量を残すことが大前提なので、強度を下げないことが最も大事です。強度を維持するためには、単にトレーニングだけを考えるのではなく、休養や栄養などのコンディショニングの面も意識できるようにしておく必要があります」(鈴木)