
もり・ひろこボディフィットネス東京大会4連覇、日本代表としてアジア大会などの国際大会に出場。トレーナーとして活動する一方、フィットネスジムのコンサルティング、サプリメント開発を行う。
※Woman's SHAPE&Sports vol.32に掲載された「森弘子に学ぶ!女性のための栄養学 vol.16 キノコは筋肉量アップに貢献する」をWEB用に編集したものです。
低カロリーながら多様な機能性を持つキノコは、健康維持や疾病予防の観点で注目の食材です。旨味成分のグアニル酸を豊富に含むため、肉・魚の旨味イノシン酸や野菜や昆布の旨味グルタミン酸と掛け合わせることで深い味わいを生む食材でもあります。今回は、そうしたキノコの機能性と身体作りをサポートするおいしい食べ方をご紹介します。
筋肉の合成に不可欠!? β-グルカンの力
日本で食用として栽培されているキノコは、シイタケ、エノキタケ、シメジ類、マイタケ、ナメコ、マッシュルームなどおよそ10数種類あります。総じてビタミンB類やカリウムなどのミネラルと食物繊維が豊富ですが、なかでも発酵性食物繊維(水溶性と不溶性に分類される食物繊維の中でも腸内細菌によって発酵されやすいタイプの食物繊維)「β-グルカン」を多く含むことがキノコ類の大きな魅力です。
β-グルカンを多く含む食品といえばキノコの他に大麦があります。キノコ由来と大麦由来のβ-グルカンは分子構造が異なり、生理作用にもそれぞれの特徴があります。
研究報告を概観すると、大麦由来のβ-グルカンについては血中コレステロール値を下げる働きや、生活習慣病予防に関する報告が目立ちますが、キノコ由来のβ-グルカンについては、免疫細胞の活性化や抗腫瘍効果に焦点が当てられたものが多く見受けられます。β-グルカンはキノコの細胞壁に含まれています。
古くから民間伝承の形で、霊芝・アガリクス茸・マイタケ・シイタケなどのキノコは、さまざまな疾患に有用と考えられていましたが、1960年代に国立がんセンターなどの研究によってシイタケの抽出物(レンチナン)に免疫賦活作用があり、抗腫瘍効果を示すことが発見され医療に応用されるようになりました。キノコの抗腫瘍効果に関する最新の研究・論文では、従来の「免疫を高める」という段階から、「がん細胞が作り出す免疫抑制状態を解除する(ブレーキを外す)」具体的なメカニズムの解明や、新たな抗酸化物質(エルゴチオネイン)によるがんリスク低下の疫学調査へと進展しています。近年では、マイタケやエノキタケといった身近な食用キノコが持つ免疫機能の増強作用や抗アレルギー作用が臨床レベルでも実証されています。
気になるのは日常よく食べるキノコ類のβ-グルカンの含有量ですが、最も含有量が多いのはマイタケ(25g/100g)で、ついでシイタケ(23・7g/100g)、ブナシメジ(18・3g/100g)、エリンギ(18g/100g)が続きます(※1)。しかしながらキノコの細胞壁は硬いため、細胞壁を壊して摂取すると吸収がスムーズになります。そこでおすすめなのが、キノコを冷凍することです。細胞の中の水分が凍り、細胞壁を強く押して細胞壁が壊れるため、機能成分が吸収しやすくなります。
さて、β-グルカンが大腸に届くとビフィズス菌や酪酸菌などの善玉菌のエサとなります。善玉菌がβ-グルカンを発酵・分解することで、酢酸・プロピオン酸・酪酸といった「短鎖脂肪酸」が生み出されます。
この短鎖脂肪酸と骨格筋の関わりに近年焦点が当てられています。短鎖脂肪酸は腸内環境を整えるだけでなく、全身の代謝や免疫機能の調整、脂肪の蓄積防止など、健康維持において非常に重要な役割を果たすことが知られていますが、筋タンパク質の合成の促進や、筋肉の萎縮を誘導する炎症を抑制する作用があるということも分かってきました(※2)。日本人の高齢サルコペニア患者を対象とした研究では、腸内の短鎖脂肪酸(特に酪酸やプロピオン酸)を産生する腸内細菌の割合が、筋肉量や筋力と深く関連していることが報告されています(※3)。
また短鎖脂肪酸は、筋肉におけるエネルギー代謝にも関連して、運動時の疲労に予防的に働くと考えられています(※4)。
キノコが筋肉を修復する!?「ポリアミン」
キノコの機能性において注目したい成分に「ポリアミン」があります。ポリアミンはキノコのほか、納豆などの発酵食品や大豆製品に多く含まれます。
ポリアミンは老化防止の鍵を握る物質と考えられています(※5)。体内のあらゆる細胞の中で生成され、細胞分裂や細胞増殖を促進します。本来、体内で作られる物質ですが年齢とともに著しく減少するため、食事で摂取することが求められます。
体内に存在するポリアミンは20種類以上あり、新陳代謝や細胞の生まれ変わりに関わるものはスペルミン、スペルミジン、プトレシンの3種類です。この中でもスペルミジンは、日常よく食べるシイタケ・マイタケ・ナメコ・ブナシメジ・エリンギ・エノキ・マッシュルームすべてに含まれます(※6)。

そして、スペルミジンは筋肉においてタンパク質の合成を促進し、筋萎縮を抑える重要な働きを持ちます。慶應義塾大学と佐藤製薬の共同研究によれば、スペルミジンの筋肉内投与により筋肉の萎縮の進行を抑えて筋肉の再生を促進、再生した筋線維の太さの顕著な増大が認められたということです(※7)。
骨と筋肉に!キノコ由来のビタミンD
シイタケに含まれる「エルゴステロール」という成分は、紫外線に当たることでビタミンD2に変化します。市販の干しシイタケだけでなく、生のシイタケを調理する前に30分~1時間ほど天日干しにするだけでもビタミンDを増やす効果があります。
ビタミンDは、腸管からのカルシウム吸収を促進し、骨の代謝を正常に保つために不可欠な栄養素です。不足すると骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高まります。食事から摂取する、あるいは皮膚に存在するプロビタミンD3が日光に当たることで体内に供給されます。
驚いたことに、日本人の約98%がビタミンD不足に該当すると報告されています(※8)。美容や紫外線対策のために日光を浴びる機会が減少したことや、食生活の欧米化により植物由来のビタミンD、つまりキノコ類の摂取が減少したことが主な原因とされています。
ビタミンDは骨代謝だけでなく骨格筋にも関わります。骨格筋細胞にはビタミンDの受容体が発現しており、ビタミンDはVDR(ビタミンDレセプター)を介して骨格筋での役割を果たしていると考えられています(※9)。国立研究開発法人国立長寿医療研究センターと複数の大学の共同研究は、血中ビタミンD量の不足は、将来的なサルコペニア罹患率を上昇させることや、筋線維内ビタミンDシグナル伝達の低下が筋力低下と直接的に関連していることなどを明らかにしています。また、立命館大学の研究では、高齢者を対象とした横断調査において、血中のビタミンD濃度と四肢の筋肉および骨量との間に有意な関係性が認められたということです。単回のレジスタンス運動の実施によりビタミンD受容体の発現が骨格筋において増加したことから、ビタミンDが筋量の調節に関わっている可能性が示唆されています(※10)。
※1「食用きのこにおけるβ-グルカンについての一考察」(新潟県立大学)
※2「The histone deacetylase inhibitor butyrate improves metabolism and reduces muscle atrophy during aging」(2015)。酪酸がヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を阻害することで、加齢に伴う筋萎縮を軽減し、代謝を改善することをマウスモデルで証明した論文。酸化ストレスのマーカーを減らし、筋肉量の維持に寄与することが示されました
※3 順天堂大学大学院医学研究科(2025年発表)
※4 日本栄養・食糧学会誌 第76巻第5号 305‒312(2023)「骨格筋と腸のクロストーク“筋腸連関”からみる代謝,運動の機能制御」青井渉(2023年6月14日受付;2023年7月31日受理)
※5 きのこ類の加熱前後のポリアミン含有量の変化 遠藤 千鶴, 西堀 尚良 平成23年度日本調理科学会
※6 抗老化とポリアミンに関する研究には「加齢によるスペルミン分解活性化機構解明と新規抗老化物質の創出」植村武史 城西大学 がある
※7 2025年6月13~15日に開催された「第25回抗加齢医学会総会」において発表
※8 東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座 2023
※9「日本人のビタミンD 栄養の現状と骨および筋肉における役割」津川 尚子(大阪樟蔭女子大学健康栄養学部健康栄養学科公衆衛生学)
※10「ビタミンDと運動併用による筋肥大メカニズムの解明と新たなサルコペニア予防法の開発」立命館大学 研究代表者 藤田 聡
キノコの調理

正しい下処理で栄養を逃さず、よりおいしく!
①水洗いはせず、気になる汚れはキッチンペーパーやふきんで拭く。袋入りのナメコはサッと水洗いか湯通しを。酸味につながるので余分なぬめりは取ります。
②キノコの軸の部分は旨味が多いので、石づきの部分だけを切り落としましょう。
③なるべく手で割く。エリンギは手で縦に割くと味しみが良い。ブナシメジやマイタケも手でほぐす。調理する際、金属の包丁を使うと「金気(かなけ)」と呼ばれる金属イオンが移り、えぐみや苦味の原因となることがあります。
④旨味成分は60~70度で増加します。煮る・茹でる際は水から弱火で。
⑤下処理をしたきのこの保存は密封・冷凍保存がおすすめ。冷凍で細胞が壊れ、旨味成分グアニル酸が出やすくなり美味しさが増す。使うときは凍ったままで調理。
⑥マイタケはタンパク質分解酵素=プロテアーゼ活性が高いので、脂肪が少なく硬い肉を柔らかく調理できます。食肉との味の相性も良くさまざまな肉料理に活躍します。茶碗蒸しに生のマイタケを入れると卵=たんぱく質が固まらないので避けましょう。
ボディメイクのためのキノコレシピ
鶏胸肉とキノコの無水カレー

クリーンな素材を食材の旨みで味わい深く
【材料】(2~3人分)
鶏胸肉…2枚、トマト缶…1缶、キャベツ…半玉、玉ねぎ…1個、マイタケ・ブナシメジ・エノキ…各1パック、カレー粉…大さじ2、すりおろしニンニク・すりおろし生姜・ウスターソース・ケチャップ…各大さじ1、塩…5~7g
【作り方】
1.野菜を一口大に切る。きのこ類は石づきを落として手で割く。
2.鍋にトマト缶と野菜、キノコを入れ、その上に鶏肉を(丸ごと皮目を上にして)置き、ニンニク、生姜、ウスターソース、ケチャップ、塩を加える。
3.2の鍋にぴったりと蓋をして、弱めの中火で1時間くらい加熱する。
4.(野菜から出る水分で調理できるが)途中で水分の状態を確認し水気がなくなっていたら水を足す。1時間ほど加熱したら、肉をホロホロに崩し、カレー粉を加えて全体を混ぜ合わせる。
キノコハンバーグ

満足感高くカロリー低め、冷えても固くなりません
【材料】(2人分)
牛赤身ひき肉…200g、玉ねぎ(みじん切り)…1/4個、キノコ…100g、パン粉・牛乳…各大さじ5、塩・こしょう・ナツメグ…各少々、溶き卵…1個分、オリーブオイル…大さじ1
【作り方】
1.玉ねぎを炒めて、粗熱をとる。パン粉を牛乳に浸す。
2.キノコを好みの大きさに刻む。プロセッサーで荒く刻んでも良い。
3.ボウルにひき肉を入れ、肉の粒がなくなるまでしっかりと練る。
4.3に塩、こしょう、ナツメグを加え、少し粘り気がでるまで練る。
5.4に1の玉ねぎと牛乳に浸したパン粉と2のキノコ、溶き卵を加えてよく混ぜる。
6.肉だねを等分し、丸みのある楕円に整えて表面をなめらかにする。
7.熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、ハンバーグを並べて中火で3分焼く。
8.ハンバーグをひっくり返し、さらに3分焼く。再びひっくり返して蓋をし、弱火で5分蒸し焼きしたら火を止め、そのまま5分置く。
文・写真・レシピ_森 弘子










