ホルモン

筋肉の発達に欠かせないテストステロンと運動の関係を解説|テストステロン連載(3/4)

筋肉の発達には、男性ホルモンであるテストステロンが大きく関わっています。運動でうまくテストステロンの値を高めることができれば、筋肥大を効率よく狙えるでしょう。一方で、運動の種類によってはテストステロンが下がってしまうこともあります。

今回は、有名な4種類の運動について、テストステロンとの関係に触れながら解説します。ぜひ、ご自身のトレーニングを見直すきっかけにしてくださいね。

<この記事の内容>
ウエイトトレーニング
・・・ウエイトトレーニングとテストステロンの関係
有酸素運動
・・・有酸素運動とテストステロンの関係
HIIT
・・・HIITとテストステロンの関係
ヨガ・ストレッチ
・・・ヨガ・ストレッチとテストステロンの関係
まとめ

ウエイトトレーニング

ウエイトトレーニング(レジスタンストレーニング)は、筋肉を増やす運動として最も有名なものです。強い負荷を筋肉に与え、その負荷に対する適応を引き出すことで、少しずつ筋肉量を増やしていくのがウエイトトレーニングの特徴です。ウエイトトレーニングを行うと、体の中ではさまざまな化学反応が生じます。その中の1つに、テストステロンのような男性ホルモンの分泌が刺激されることがあります。

ウエイトトレーニングとテストステロンの関係

ウエイトトレーニングとテストステロンの関係について調べられた研究はたくさんあります。それらの中から、重要なものについていくつか解説します。

・大きな筋肉を活動させるとテストステロンが増加する
テストステロンを効率良く分泌させるためには、いわゆる大筋群をターゲットにしたトレーニングが有効です。大胸筋、広背筋、大腿四頭筋などがその候補になるでしょう。デンマークの研究者が2001年に発表した論文では、アームカール単体のトレーニングと、それにレッグエクステンションとレッグプレスを追加したトレーニングの効果が調べられました。その結果、アームカール単体では目立ったテストステロンの値の上昇が見られなかったのに対し、脚のトレーニングを組み合わせた場合には、顕著な増加が見られることが分かりました(引用1)。ジムでトレーニングする場合には、特定の部位に偏ったメニューを組まないようにすることが重要だと言えそうです。

・マシンよりもフリーウエイトの方が効果がある可能性もある
同じ部位を鍛えるトレーニングでも、マシンを使って行うより、バーベルやダンベルなどのフリーウエイトを使った方がテストステロンの値が上昇する可能性があります。ある実験では、バーベルを使ったスクワットとレッグプレスのそれぞれを行った後の、血中ホルモン濃度が調べられました。その結果、運動を終えた直後の血中テストステロン濃度は、バーベルスクワットの方がレッグプレスよりも高いことが分かりました(引用2)。論文の中では、フリーウエイトを使ったトレーニングでは、バランスを取るための筋肉の活動も必要となるため、それによってより多くのテストステロンの分泌が見られたのではないかと結論付けています。テストステロンという観点でトレーニングを考える場合は、1種目程度はフリーウエイトを組み込んだメニューを作ると良いのではないでしょうか。

・平常時のテストステロン量を上げる効果は薄い
ウエイトトレーニングを継続的に行っている人は、そうでない人と比べて常にテストステロンの値が高いようなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実はこれは正しくないとする研究があります。確かに、ウエイトトレーニングはテストステロンの分泌を強く促すタイプの運動ですが、その効果はトレーニング直後に最も高くなり、それ以降は低下していきます。被験者に16週にわたってウエイトトレーニングを行わせた後、非運動時の血中テストステロン濃度を調べた研究では、介入前後で変化がなかったことが分かっています(引用3)。ウエイトトレーニングは有用な運動ではありますが、過度に期待することがないようにしましょう。

有酸素運動

テストステロン

有酸素運動は、年齢や性別に関係なく、比較的誰でも気軽に取り組みやすい運動様式です。強度を自身で変えることも容易なので、トレーニングレベルに合わせて細かく調整することができる点も魅力でしょう。低強度のものならばウォーキング、高強度のものとしては、マラソンや有酸素マシンを使った運動がその代表例です。

有酸素運動とテストステロンの関係

有酸素運動がテストステロンに及ぼす影響についても、多くの研究があります。ウエイトトレーニングはテストステロンを高めるのに有効な運動であることをすでに解説しましたが、実は、有酸素運動にもテストステロンを高める効果があることが分かっています。

・高強度でテストステロンの値が上昇する
有酸素運動と一口に言っても、その中には息が上がるほど強度の高いものから、苦労せずに長時間続けられるようなものまでさまざまです。有酸素運動にテストステロンを高める効果を望む場合は、強度をある程度高く設定する必要があることが分かっています。運動全体のボリューム(仕事量)を同じにした上で、高強度、中強度、低強度の有酸素運動を被験者に実施させたところ、高強度運動においてのみ、血中テストステロン濃度の上昇が見られたという報告があります(引用4)。このことより、テストステロンの分泌に重要なのは、運動全体の時間や量ではなく、強度だということが言えるでしょう。

・女性でもテストステロンが増える
ウエイトトレーニングでは、男女問わずテストステロンの値が上昇しますが、有酸素運動でも同じような結果が得られることが分かっています。女性被験者に、完全に疲労するまで(平均75分)有酸素運動を行わせ、運動後の血中テストステロン量を調べた実験があります。その結果、運動後30分、60分、90分の時点でテストステロン量が運動前よりも多くなることが分かりました(引用5)。一方で、運動後24時間の時点では、運動前よりもテストステロン量が減ることも分かりました(引用5)。この結果を踏まえると、高強度のウエイトトレーニングに取り組むのが難しい女性でも、有酸素運動を取り入れることで、テストステロンの値を高くできると言えそうですね。

HIIT

テストステロン

HIITは、高強度インターバルトレーニングとも呼ばれるタイプの運動で、英語表記である”High Intensity interval training”の略称です。HIITの特徴は、短時間の高強度運動を休息を挟みながら複数回行う様式にあります。エルゴメーターを用いてHIITを行うならば、1分間の全力運動と2分間の低強度運動を交互に5回程度繰り返す方法がその一例です。HIITは比較的短時間で終えられるにも関わらず、長時間の有酸素運動と同等かそれ以上の心肺機能の発達が見られる点が特徴です(引用6)。また近年、HIITもテストステロン量に影響を与えることが分かってきています。

HIITとテストステロンの関係

前述の通り、HIITにはさまざまな効能があり、その中には、テストステロンの値に関わるものもあります。HIITがテストステロンの値を高めたことを示す研究のいくつかを紹介します。

イギリスの研究者が行った実験では、平均年齢60歳のマスターズアスリートに対するHIITの効果が調べられました。持久的運動を行っている男性アスリートを対象に、6週間にわたって合計9回のHIITを行わせたところ、運動中の出力上昇や、遊離テストステロン(たんぱく質と結合していないタイプのテストステロン)値の上昇が観察されました(引用7)。別の研究では、同様に高齢男性を対象にHIITを行わせたところ、血中テストステロンの総量が増加することが分かりました(引用8)。これら2つの研究結果を合わせて考えると、HIITを行うことにより、テストステロンが上昇する効果が見込めると言えるでしょう。

HIITは、休息を挟みながら高強度の運動を繰り返すタイプの様式の総称であるため、さまざまな種目を取り入れてメニューを構成することができます。エルゴメーターやトレッドミルを用いたものだけでなく、大きな動きを伴う自重エクササイズを組み合わせたサーキットトレーニングのようなものもHIITと呼べるでしょう。中国の研究者は、異なる様式のHIITがテストステロンに与える影響を調べる研究を2022年に行っています。実験の中では、有酸素運動に特化したタイプのHIITと、ウエイトトレーニングを組み合わせたタイプのHIITの効果が比較されました。その結果、心肺機能を表す指標は有酸素運動タイプのHIITで上昇したことと、テストステロンの値には両者で違いがなかったことが分かりました(引用9)。このことは、HIITでテストステロンの上昇を狙う際には、無理にウエイトトレーニングを内容に組み込む必要はないことを示唆していると考えられます。

ヨガ・ストレッチ

テストステロン

ヨガやストレッチのような比較的負担の少ない運動は、女性や高齢者でも気軽に取り組むことができるため人気です。一見すると、その効果は激しい運動に劣るように思われますが、実は、このような静的な運動にもホルモン分泌を刺激する効果のあることが分かっています。

ヨガ・ストレッチとテストステロンの関係

日本の研究者は2020年に、ヨガによってテストステロンやストレスホルモンであるコルチゾールの値が変化するかを調べる実験を行いました。ヨガ経験のない男性被験者に90分間のヨガを行わせ、その後に唾液中のホルモン量を調べたところ、テストステロンが増加傾向にあったことと、コルチゾール量が有意に低下したことが分かりました(引用10)。ストレッチに関しては、直接男性ホルモンに影響を与えるという報告はないですが、副交感神経が刺激されてリラックスすることが、体内のホルモンバランスに良い影響を与える可能性はありそうです。

怪我等の理由で激しい運動ができない方は、負担の少ないヨガ等に取り組んでみると、テストステロンの分泌に良い効果を得られるのではないでしょうか。

まとめ

今回は、ウエイトトレーニング、有酸素運動、HIIT、ヨガ・ストレッチの4種類のエクササイズとテストステロンの関係について解説しました。多少の差はあるものの、どの運動もテストステロンに関係するという研究結果がありました。

自身の体の状態や好みに合った運動を選択して取り組んでみましょう。テストステロンの分泌を促す効果は、基本的には運動の直後に見られるという論文が多いです。そのため、継続してテストステロンの値を高めたいと考えるならば、運動も継続できるようにすると良いでしょう。

執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)

1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師

東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。

引用1. Hansen S, Kvorning T, Kjaer M, Sjøgaard G. The effect of short-term strength training on human skeletal muscle: the importance of physiologically elevated hormone levels. Scand J Med Sci Sports. 2001 Dec;11(6):347-54.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11782267/

引用2. Shaner AA, Vingren JL, Hatfield DL, Budnar RG Jr, Duplanty AA, Hill DW. The acute hormonal response to free weight and machine weight resistance exercise. J Strength Cond Res. 2014 Apr;28(4):1032-40.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24276305/

引用3. Nicklas BJ, Ryan AJ, Treuth MM, Harman SM, Blackman MR, Hurley BF, Rogers MA. Testosterone, growth hormone and IGF-I responses to acute and chronic resistive exercise in men aged 55-70 years. Int J Sports Med. 1995 Oct;16(7):445-50.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8550252/

引用4. Jezová D, Vigas M, Tatár P, Kvetnanský R, Nazar K, Kaciuba-Uścilko H, Kozlowski S. Plasma testosterone and catecholamine responses to physical exercise of different intensities in men. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1985;54(1):62-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4018056/

引用5. ckney AC, Willett HN. Testosterone Responses to Intensive, Prolonged Endurance Exercise in Women. Endocrines. 2020 Dec;1(2):119-124.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33251528/

引用6. Cao M, Quan M, Zhuang J. Effect of High-Intensity Interval Training versus Moderate-Intensity Continuous Training on Cardiorespiratory Fitness in Children and Adolescents: A Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2019 Apr 30;16(9):1533.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31052205/

引用7. Herbert P, Hayes LD, Sculthorpe NF, Grace FM. HIIT produces increases in muscle power and free testosterone in male masters athletes. Endocr Connect. 2017 Oct;6(7):430-436.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28794164/

引用8. Hayes LD, Herbert P, Sculthorpe NF, Grace FM. Exercise training improves free testosterone in lifelong sedentary aging men. Endocr Connect. 2017 Jul;6(5):306-310.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28515052/

引用9. Mao J, Wang T, Zhang L, Li Q, Bo S. Comparison of the acute physiological and perceptual responses between resistance-type and cycling high-intensity interval training. Front Physiol. 2022 Sep 9;13:986920.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36160857/

引用10. Eda N, Ito H, Akama T. Beneficial Effects of Yoga Stretching on Salivary Stress Hormones and Parasympathetic Nerve Activity. J Sports Sci Med. 2020 Nov 19;19(4):695-702.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33239943/

 

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佐藤奈々子選手
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