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“トレーニングで男性化する"は大間違い[“筋肉博士”石井直方の筋トレ学]

トレーニングに励む女性が急増する今だからこそ、改めて産む性を持つ女性としての在り方を踏まえ、安全に、楽しく、ライフワークとしてのトレーニングに取り組んでほしい──。そんな思いから、今回はストレートに「女性性」をテーマとし、石井先生に素朴な疑問をたくさんぶつけてみました。

石井 直方(いしい なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学大学院教授、理学博士。
全日本ボディビル選手権優勝(81・83年)、アジアボディビル選手権優勝(82年)ほか、ボディビル競技での輝かしい実績を誇る。トレーニングをテーマに次々にベストセラーを世に送り出す“筋肉博士”。

森 弘子(もり ひろこ)
ソライナ株式会社にて、プロテインや健康食品の企画・開発を行う。
ボディフィットネスでは東京大会4連覇、2016年には8年ぶりに大会に復帰し、関東オープン・フィットネスビキニ163cm超級で優勝を飾る。

 今回は「女性性」~「女性であること」をテーマに、女性にとってのホルモンと筋肉の関係や、月経周期とトレーニングなどの切り口で、さまざまなお話を伺えればと思います。

石井 女性がスポーツパフォーマンスをマックスにもっていくにはどの時期にトレーニングしたらよいかなど、研究報告のいくつかを紹介できればと思っています。

男性ホルモンは筋肉がつきやすく女性ホルモンは脂肪がつきにくい?

 本誌(Woman'sSHAPE)も今年の夏で10年目。先生とのこの対談も10年になるわけですが、開始当初には考えられなかったほど女性の筋トレが盛んになっています。ただ、誤った情報などに流されて、産む性を持っていること自体がトレーニングやスポーツをする上でマイナスだと考えるような雰囲気になるのが私としては嫌だなと思うところもあり、正面から「女性性」を受け止めてみたいと思いました。

石井 そのテーマについて、事前にネットで少し調べてみたのですが、かなり根拠が薄弱なものも多いようですね。実際、何が正しくて、どういうことが言えるのか、言えないのかということは整理しておいたほうがよさそうです。例えば、「男性ホルモンは筋肉を発達させる方向に作用するけれど、女性ホルモンはマイナス方向に作用する。逆に、女性ホルモンは脂肪を増やす働きがあり、男性ホルモンは減らす働きがある」という情報がありますよね。

 トレーニングをする女性が自分の「女性性」を否定したくなる根拠にもなりうる情報ですが、これは正しくないですよね? 女性ホルモンが男性ホルモンの働きにブレーキをかけるということもないですか?

石井 もちろん、大きな間違いです。筋肉を太くする作用でいえば、確かに男性ホルモンのほうが強いですが、女性ホルモンにも筋肉を合成、促進する働きがあります。

 一部の男性トレーニーで「女性ホルモンに似た構造と働きをする大豆イソフラボンを摂取しない」という方もいますが、大豆プロテインなども含めて気にせず摂っていいということですね。

石井 もちろん大丈夫です。とにかく、女性ホルモンは筋肉を減らす、男性ホルモンは増やすということではないですね。男女を問わず、生命にとって必要だからこそ男性ホルモンと女性ホルモンの両方が体の中でつくられているんです。女性の場合、男性ホルモン分泌量は男性の10分の1、20分の1とも言われていますが、両方ちゃんと分泌され、ちゃんと働いているから体も維持できているわけです。

 前回取り上げた「成長ホルモン」にしてもそうですが、私たちは言葉尻だけで短絡的に「男性」対「女性」と二元論的な考え方をしてしまいがちかもしれません。よく「筋トレをすると男性ホルモンが増えて男性的になる」と心配される方もいます。肌がガサガサになるとか、胸が小さくなってしまうとか。

石井 実際にはそういうことはなくて、あくまで量的な差と比率の問題です。男性ホルモンと女性ホルモンの比率はある程度一定していて、そこまで極端に比率が変わらないようにできていると考えられます。

 その比率に個体差はありますか? また、例えば人種によって比率が変わるということは?

石井 女性的な男性や男性的な女性がいるように個体差はある程度推測できますが、人種間の違いなどそこまではわかっていません。ただ人為的に男性ホルモンを増やすようなアナボリックステロイドを多量に打ったりすると、男性ホルモンと女性ホルモンの比率が一定化するように「アロマタイゼーション」という異性化の現象が起きて、女性ホルモンも上がってくるんです。

 アナボリックステロイドを使用した男性で胸が大きくなる現象が起こると聞いたことがあります。

石井 そうですね。男性の場合、男性ホルモンを人為的に増やすとバランスを取ろうとして女性ホルモンが上昇し、「女性化乳房」が起きてしまうということがあります。そうした現象が体内で起きるということは、やはり両方ちゃんとした比率で働く状況を維持するのが大事だということですよね。

 ちなみに、女性が男性ホルモンを増やした場合、両方のホルモンが拮抗して女性ホルモンが増えていくということもありますか?

石井 あるとは思いますが、女性はもともと男性ホルモンの分泌量が少ないので、それを無理して男性並みに上げた場合、そこをはるかに上回る女性ホルモンが出るということはないですね。

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