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「たくさん練習すれば強くなる。やりすぎたらケガをする」レジェンドたちの失敗から学べ!~トレーニング法再点検~ベンチプレス世界王者・児玉大紀

勢いだけで勝っていた時期より結果的に強くなった

思いついたことは、「これは無理やろ」と思ったことでも、とりあえず1シーズンはやり通します。そして、やり通したときに得たものを積み重ねていきます。ただ、そのなかで成功することは少ないです。本人はよかれと思ってやるんですが、じつは違っていたというのがほとんどです。成功したタイミングで数字は伸びます。反対に、成功しなかったときは停滞しています。細かい作業です。一つずつ修正していかなきゃいけないのですが、そういうことをやっている人が勝っているんです。大雑把に取り組んでいる人は、散るのも早い。1回だけ勝って、そこで辞めてしまったり。長年勝っている選手は、やはり緻密なことをやっています。
調子よくやっていたころは、あまり考えていませんでした。勢いだけでやっていたので。その勢いがなくなってから考えるようになりました。結果的に勢いがなくなってからのほうが強くなりました。僕は世界大会で2階級で6回優勝して、そこからケガをして勝てなくなりました。トップからどん底までを経験しています。
どん底に陥ったときに、僕はもうベンチはできないと思いました。でも、周りのみんながなんとか僕を復活させようとしてくれた。そこでいろんなことが見えるようになりました。勢いがあるときに勝つのは簡単なんです。勢いがなくなって、いろんなことを見つめ直したときに、もう一歩上にいけるのか、それともそこで終わるのか。もう一歩上にいけたら、人に教えるのもうまくなると思います。ある程度、自分のイメージでできていたのが、イメージ通りにいかなくなったときに、その原因を考える。そこで噛み砕いて考えるようになるので、人への伝え方も分かるようになります。K’sGYMのメンバーも、そこから鬼のように強くなっていきました。聞き入れる耳というのも大切です。「こいつを潰してやろう」というつもりで言っている人はいないと思うんです。そこでアドバイスを聞けない人は、そこまでです。上に行きたい人は、何でも聞こうとします。
僕もジムのメンバーに「それは何?」とよく聞きますから。強くなる人は、いい意味で他人のものをパクろうとするものです。

理想と現実とのギャップを埋める作業を続けていく

答えを早く求めるのは無理です。2、3回やっただけでシックリくるはずがない。例えば180度違うことを提案されて、それが最初からうまくできるようなら、その人は天才すぎます。何回もやっているうちに、「ここは使えるな」というポイントを発見できるんです。やっている以上は、重量を上げたい。だから、どうやれば上げられるようになるかを考える。そんな毎日の繰り返しです。
これは体感重量が軽い、でも動きに引っかかりがある、これは引っかからないけど重たく感じるとか、そこを詰めていくんです。そういった作業をやっていくんです。スムーズに動かせるんだけど、
力が入らない。トップは軽いけど、逆にボトムでは重く感じる、など。細かに修正していって、すべてがかみ合ったときには体感重量が急に軽くなるんです。そして「きたな!」と感じたときに、重い重量を持ってみるんです。そういうときは、やっぱり上げられる。それがどこのタイミングで訪れるのかが難しいところです。また調子がいいときに調子に乗って練習していると、ケガをしてしまいます。僕は試したことの感触が掴めるようになって、そこで方向転換して成功したパターンです。これまでにかなりフォームを変えてきました。昔だったら考えられないようなフォームで今はやっています。だから、どこでどうなるか、分からないんです。僕もスムーズに動かせるようになってきたのが去年くらい、その動きを試合に持っていけそうなのが今年から来年にかけてだと思います。何年もかけてものにしていくものです。野球にしても、子どものころからやり続けて、大人になってプロになっても悩んだり考えたりする。考えて考えて、完成に至らないまま引退していく選手がほとんどでしょう。理想通りにできている選手って、いないと思います。どこかに理想と現実とのギャップが生じるはずです。そのギャップを埋める作業を永遠に続けていくんだと思います。


児玉大紀(こだま・だいき)1974 年4月3日、大阪府出身。K's GYM オーナー。フルギア・ノーギアともに現ベンチプレス世界記録保持者。日々ベンチプレスを研究し、多くのメンバーをトップベンチプレッサーに育て上げている。2017 年にはベンチプレッサーでは世界初となるIPF(世界パワーリフティング連盟)殿堂入りを果たしている。
世界ベンチプレス選手権優勝18回、ベストリフターも受賞。ベスト記録(74kg 級)はフルギアベンチプレス300.5kg、 ノーギアベンチプレス220.5kg。


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。


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