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トレーニングは「ぶっ飛び」が大事だと、ボディビルのスーパー高校生が日本王者に学んだ大切なこと

2021年8月、愛知県蒲郡市で行われた『マッスルゲート愛知』にて、東京ノービス選手権王者であるなかやまきんに君こと、中山翔二選手らを破って大会史上最多の7冠を達成して衝撃と話題を集めた、2021年全国高校生選手権優勝の坂本陽斗選手。前号では、坂本選手の生い立ちから現在に至るまでの軌跡を追った。そして今号では、その坂本選手のトレーニング、特に苦手部位(種目)と、得意部位におけるさらなるアップデートをするべく、2015~17年全国高校生選手権にて史上初の3連覇を成し遂げた、現日本選手権王者・相澤隼人選手がパーソナルトレーニングという形のもと、フレンチプレス、ベンチプレス、ハックスクワットの3つの種目を行った。トレーニング後には高校生王者同士の初対談も実現。どれも重量を伸ばす、ケガを防止する、そして狙う筋肉を刺激するためのヒントが満載となっている。(月刊ボディビルディング2022年4月号から引用)

取材・文:編集部 撮影:北岡一浩 大会写真:中島康介 取材協力:ゴールドジム町田東京店

スーパー高校生のトレーニングを日本王者がアップデート

今回は、相澤隼人選手がゴールドジムアドバンストレーナーとしても勤務している、町田東京店にて取材を行った。まず、編集部が町田店に入った途端、目の前にはオフ真っ只中の、これでもかというくらいにデカい、現役高校生とは思えない坂本選手の姿が見えた。ちょうど、ストレッチを入念に行っていたところだったが、相澤選手のトレーニング指導を心待ちにしている表情は若者そのものだった。
今回実践したメニューは3種目だ。まずは、坂本選手が今まで肘の痛みに悩んでいたフレンチプレスである。この種目に対して坂本選手は、「あるとき肘が痛くなって、動作中に発生する痛みに対するケアなどに悩んでいるんです」と答えた。相澤選手は、「痛かったらそれを無理に行う必要はない」と答えたが、そのうえで痛みを最小限に抑える方法と、身体の使いかたや関節の位置などを指導した。

――相澤選手が実際坂本選手のトレーニングをチェックして感じたこととは。
相澤 全体的に動作自体は上手でした。これは、坂本選手のトレーニング歴も関係していることだと思います。また、一つひとつの動作のクオリティも高かったです。
――坂本選手は中学生からウエイトトレーニングを始めました。
相澤 私と同じ年齢くらいからウエイトトレーニングを始めたこともあって、私は坂本選手より3年くらいのアドバンテージがありますが、それを踏まえても上手だったと思います。そこから改善できる部分は、クセなのかもしれませんが、全体的に身体が“開く”形で動作しているように感じました。踏ん張る人、それは私も含めて言いますが、背面部がすごく強くなります。そこに表面が負けてしまうと、力の発揮が弱くなったり、全体がアンバランスになってしまいます。なので、身体を“開かないようにする”ということを意識する。そこが注意すべきポイントだと思いました。
――フレンチプレスの動作の中で、肘の痛みがあって上手く取組めていなかったということでしたが、今日相澤選手に指導をしていただいてみてどうだったんでしょうか。
坂本 最初に申し上げると、僕の中の弱点部位が上腕三頭筋で、そのこともあってモストマスキュラーポーズを行うことをためらいました。ケガをしていると思っていて、しばらく取り組んでいませんでしたが、今回ここに来てフレンチプレスをやってみたら、痛くなかったんです! 治っちゃったんです! 今日、相澤選手に教えていただいたことを踏まえて、どんどんと熟練度を高めていけば自ずと上腕三頭筋も成長してくれるのかなと思いました。
相澤 すごい能力ですね。『進撃の巨人』みたいに、時間が経てば治っちゃうみたいな(笑)。
坂本 なんなんですかね(笑)。ケガしてなかったのかもしれません! さっき行ったとき1、2セット目が痛かったくらいでした。何かが「ポン」とはまったような感じです。それは、相澤選手に肩関節や腹圧などの指導をしていただく中で、動作の意識をしっかり行うことでフレンチプレスが完璧なフォームになったかと思います。
――フレンチプレスは手軽に行える種目として広く行われています。しかし、肘が痛くて重い重量ではできないという方も多くいます。そういう方に対して、どのようなアプローチをしていけば良いのでしょうか。
相澤 前提として、なぜフレンチプレスで肘が痛くなるのかを考えなければいけません。プレスダウン、ライイングエクステンション、フレンチプレスのそれぞれで動作を考えたときに、肩関節が完全にはまる形になるのがフレンチプレス。逆に言えばライイングエクステンションは肩関節の屈曲、伸展動作がありますし、プレスダウンも肩を挙上したりと、負荷を上手く“逃がす”ことができます。フレンチプレスはそれができず、肘関節のみの動作となるので、そもそも重量を扱いにくくなるんです。
 つまり、肩関節の柔軟性が硬い状態だと肘関節が優位の動作になるので、まずは肩関節周りの柔軟性を高めること。しかし、肩関節の柔軟性を確保できても身体が開いてしまって腹圧が抜けると、今度はそれで肘に負担がかかってしまいます。なので、腹圧をかけながら行わないといけないのと同時に、身体のコンディショニングを行う必要があります。フレンチプレスがなぜ肘が痛くなるか、その理由を探したうえで取組む必要があります。
運動処方を行うのであれば、EZバー、またはロープで行うことも考えることができます。例えば、ロープなら肩関節が外旋して脇が締まる形になるので、肩関節の動きが出しやすくなります。ただ、外旋すればするほど肘の屈曲が強くなるので肘に負担がかかってきます。ですが、脇を締めて体幹部を固める形で行えるということではケーブルを使ったフレンチプレスを最初に行い意識を作ったうえで、EZバーなどに移行するのが良いかと思います。
――何ごとも順番を追っていくことが大事だということですね。
相澤 そうですね。そして、痛い理由を追求することも必要です。トレーナーに見てもらったときに、必要な関節がしっかり働いていないことや、腹圧が抜けているとか、様々なことを指摘されます。まずは、言われたことを考えてフォームを直すこと。それが行えたうえで重量を上げていくこと、これが大事になります。
――先にも坂本選手が述べたように、「何かがはまった」とは、どこがどんな感じなんでしょうか。
坂本 そもそもフレンチプレスのやり方を知らなかっただけでした。でも、今回一度やり方を聞いて、1回でやり方を覚えられました。それが“はまった”ということなのかもしれません。僕の中で大きくならない部位というのは、知らないことが多いだけだと思うので、勉強していけば大きくなっていくのかなと今回思いました。
――坂本選手のフレンチプレスでの動作を見て、良かった点と良くなかった点を教えてください。
相澤 良かった点は、根性があるということです。それと良くなかった点と言いますか、改善点はスタートから身体が開いてしまっていて、そのまま動作をしていること。そして胸椎が上に上がってしまって、肩甲骨と首で支えている状態でした。また、腕が後ろに行き過ぎていて肘関節だけで動作をしています。
改善方法は、身体の前側をしっかり固めることによって、前を固めた状態でも肩関節が屈曲できる状態を作る。それにより、ライイングエクステンションのように動作ができるので、上腕三頭筋長頭の動きが出てきますし、肘の痛みが軽減されます。しかし、これは踏ん張りが効かなくなるので、今の根性むき出しのぶっ飛んだ動きはできなくなります。でも、その中でもぶっ飛べば良いと思います。
――成長するには、結局ぶっ飛びが大事?
相澤 そうです。「ぶっ飛ぶ」という感覚は忘れてはいけません。そのうえでフォームを大事にします。でも、ぶっ飛びすぎると身体がぶっ飛んでしまいます(笑)。

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