世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第29回は、管理栄養士の申泰鎮(しん・てじん/27)さんを紹介する。
※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。
HYROX挑戦のきっかけ
「怪我でコンタクトスポーツを断念せざるを得なくなった時、次なる挑戦の舞台として出会ったのがHYROXでした」
2025年夏にタッチラグビーで左小指を脱臼し、約半年に及ぶリハビリを終えたばかりの申さん。
高校時代のボクシングや長年続けてきたウェイトトレーニングの経験を生かせる新たな挑戦として、HYROXへの出場を決意した。
また申さんは、管理栄養士として当メディア『FITNESS LOVE』で栄養に関する記事を執筆している。情報を発信する立場だからこそ、自分自身も競技に挑戦し、実体験を今後の発信に生かしたいという思いもあった。
「出場前はワークアウト種目よりも、8回の1kmランを最後まで安定したペースで走り切れるかという不安の方が大きかったです」
工夫を重ねた準備と、自分の強みを再確認したトレーニング期間
レースに向けた準備では、ランニングとワークアウトを組み合わせた実戦形式のトレーニングを重ねた。しかし、準備期間の途中で膝を痛め、思うように走れない時期もあった。
「ランニングが十分にできない期間は、膝への負担が少ないスキーとローを多めに取り入れ、心肺機能を落とさないように工夫しました」
また、HYROX特有の“心拍数が上がり疲労した状態で再び走る”状況を再現するトレーニング、『コンプロマイズドラン』を導入。限界の中でも足を止めずに動き続ける粘り強さを養った。
その結果、ランニングが十分にできない時期に多く取り入れていたスキーやロー、そしてトレーニングを重ねて手応えを得ていたスレッドプルが、本番で自身を支える大きな強みとなった。
苦しみを凌駕する熱量――仲間と共に駆け抜けた最高の瞬間
レース全体を通して最も過酷だったのは、最終種目のウォールボールだった。
「体力が完全に底をついている中、投げたボールがセンサーにうまく反応せず、最終的に28回もノーレップになりました。身体的にも精神的にも一番きつい局面でした」
しかし、そんな極限状態を支えたのが、会場全体を包み込む圧倒的な熱気と仲間の応援だった。
「観客との距離が近く、色々な場所から届く声援に背中を押されました。苦しいタイミングで仲間から声をかけてもらったおかげで、課題だった後半のランニングでも足を止めずに走り切ることができました。『きついけれど楽しい』と思える一体感こそが、HYROXの最大の魅力です」
知識と経験を掛け合わせてさらなる高みへ
過酷なレースを走り抜き、目標としていた「サブ90」を達成した申さん。今回の挑戦を経て、身体的にも精神的にも大きな変化と成長を実感している。
「トレーニングを通して長時間動き続ける体力がついただけでなく、怪我を通して自分の身体の状態に合わせて調整することの重要性を学びました。そして何より、自分の強みと課題が明確になりました」
今後は走力をさらに高め、より安定したパフォーマンスを目指して挑戦を継続していく。
「今回、自分自身が競技者としてHYROXを経験したことで、知識だけでなく競技者としてのリアルな視点が加わりました。今後はこの経験を生かし、競技に役立つ栄養やコンディショニングについて、より実践的な発信を続けていきたいです」
『HYROXに興味はあるけれど、自分にできるか分からない』という人にも、申さんの挑戦は一歩踏み出すきっかけを与えてくれる。苦しさの中にも楽しさを見出し、自分なりの工夫で課題を乗り越えていく。その姿勢こそ、HYROXの魅力を体現しているのかもしれない。
管理栄養士としての「知識」と、競技者としての「経験」。その両方を武器に、申さんはこれからもHYROXと栄養の可能性を追求していく。
レース前に何を食べる?管理栄養士が解説する「HYROX(ハイロックス) レース前の栄養補給」
文:林健太 写真提供:申泰鎮
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。日本初開催のHYROX横浜はシングルプロで出場。











