名古屋で初めての開催となったスポルテックカップ2021。本大会ビキニフィットネスで優勝したのは『マッスルハウスジム』で合戸孝二選手から指導を受けている片平愛子選手。大会の振り返りと共に片平選手の軌跡を追った。
取材・文:IM 編集部 撮影:中島康介 取材協力:マッスルハウスジム
日本トップレベルの大会「スポルテックカップ2021」にて接戦を制した片平愛子選手のトレーニング歴はまだ浅い。
「3年前から体力づくりで24時間ジムに通い始めました」
ビキニフィットネスに出会ったのは、トレーニングをはじめてからわずか3ヵ月後のことだった。
「ジムで指導してくれていた方が静岡県のメンズフィジーク大会に出場するので応援に行ったのですが、そこでゲストポーズをしていた安井友梨選手を見て私もこうなりたいと思ったんです」
片平選手は小学3年生と6年生の息子を持つシングルマザーで日々の生活に追われていた。
「毎日同じことの繰り返しで自分自身を認めてあげる時間や、毎日の楽しみもほとんどありませんでした。だから、30代になってからでも挑戦できるビキニ競技を頑張ろうと思いました」
本格的に競技に取り組むことを決めた片平選手は24時間ジムと並行して、合戸孝二選手に指導を仰ぐために『マッスルハウスジム』の門を叩く。
「合戸さんのジムまでは車で往復2時間掛かるんですけど、ビキニ競技を真剣にやるならば時間を惜しまずに頑張ろうと決めました」
片平選手が最初に訪れたときのことを合戸選手はこう振り返る。
「身長も高くてプロポーションも良かったからいけるなって思ったけど、お腹を見せてもらったら思わず絶句しちゃったよ(笑)」
3年前の片平選手は現在の絞れた身体からは想像することができない脂肪の乗った身体をしていた。そのときに合戸選手から言われたことを片平選手は今でも覚えている。
「愛子ちゃんがこれまでやってきたトレーニングは健康管理だ。身体づくりの筋トレではない」
マッスルハウスジムに週3日通うようになり、本格的に身体を追い込むトレーニングを経験する。片平選手は学生時代に陸上部で短距離をしていたため追い込むことには慣れていたが、トレーニングが思うようにできなくて涙を流すこともあったと言う。合戸選手はそういった「負けず嫌い」な性格が片平選手の強さだと分析する。
「とにかく自分に負けたくないんです。子どもを持ちながら競技をしている人は同じだと思いますが、ジムに行けない日もあります。だからジムに行けるときには自分が納得する内容をやり遂げたいんです。あとは学生時代に陸上競技で結果を残すまでやらなかったことを後悔しているのもあり、ビキニフィットネス競技はとにかく最後まで納得のいくまで頑張って、自分自身を認めたいという思いが強いです」
2019年には合戸さんの指導を週4日に増やし、静岡県ビキニフィットネス選手権でオーバーオール優勝を果たし、オールジャパン選手権ではJBBFの大会デビュー年にも関わらず、5位入賞を達成した。2020年はコロナ禍の影響で、大会が中止となり、今回のスポルテックカップ2021は1年半ぶりの大会出場となった。しかし2月から十分な期間を設けた調整もうまくいかず、大会2週間前には合戸選手から大会出場を止められてしまう。
「2020年に大会がなかったこともあり、なかなか減量のスイッチが入らなくて、甘い仕上がりでした。すると、合戸さんから『出ない方がいいんじゃない』って言われて……。でもどうしても頑張りたかったので、『頑張ります』って押し通して、そこから必死にやりました。有酸素を増やして、食事もほとんど炭水化物をカットして。最後の追い込みって感じでした。あまり良くないのは分かっているんですけど、元々計画的にやるのが苦手で、直前に仕上げるタイプなんです」
スポルテックカップでは、2位の松木真美選手との接戦を制し優勝。ステージを振り返る。
「トレーニングは合戸さんを信じてやってきたので、あとは必死にポージングするだけでした。結果が出たときはホッとしました。絞りはまだまだ課題だったとは思います」
片平選手の合戸選手への信頼は厚い。
「身体づくりはメンタル面の弱い部分がそのまま身体に現れてしまうものだと思うんです。だから身体だけでなく、メンタル面の弱さも見抜いて、そこまで突いてくれる合戸さんに指導を受けて、私は強くなることができました」
片平選手は合戸選手からかけてもらった言葉で大切にしているものがあるという。
「『大会に合わせて身体づくりをするのではなく、日々の生活に大会がある』この言葉はとても印象的で、日常にあるトレーニングを頑張って好きになる。そうすることで継続が楽しくなり、日々の自分を好きになることができました。強くなることができたんです。
ただ、合戸さんからは『マッスルハウスに来たときはそこらへんにいる普通の女の子だったけど、今は強いおじさんみたいだ。前の方が良かった』って言われますね(笑)」
スポルテックカップ優勝を手にした片平選手。次なる目標はオールジャパン選手権での優勝。そして憧れの安井選手とグランドチャンピオンシップスの舞台で戦うこと。合戸イズムを継承したシングルマザーの挑戦は続く。