コンテスト

「ビキニから転向後のサクセスストーリー」美しい筋肉で頂点に立った新星の話

昨年のジャパンオープン選手権での衝撃的なボディフィットネスデビューから一気に頂点まで駆け上がった大谷美咲選手。その人物像とトレーニングに迫るべく、大谷選手が普段から通う新潟県南魚沼市のMAXトレーニングGYMを訪れた。(IRONMAN2021年11月号から引用)

取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介(大会写真)北岡一浩(トレーニング写真)

大谷美咲、ビキニからボディフィットネスへ駆け上がる

――トレーニング歴はどのくらいになるのでしょうか。
大谷 丸4年です。AYAさんが話題になっているころに「私も何かをやり通したい」と思って、トレーニングをはじめました。
――そのころからすでにコンテストに出てみようという発想があったのですか。
大谷 いえ、コンテストというものを知ったのは2018年になってからです。そこで少し興味を持つようになり、実際に関東オープン選手権を見に行って私もやってみたいと思いました。
――大谷選手は元々はビキニ出身で、同年の横浜オープン大会が初戦になるそうですね。そこでは2位という好成績をおさめました。
大谷 順位をいただけて、これで私もビキニの選手としてやっていけるかもしれないと思いました。
――2戦目となった翌19年の石川選手権では優勝されました。そして同年のオールジャパン選手権では5位になりました。
大谷 結果には悔しさを感じましたが、動画などで客観的に見て順位には納得しました。下半身に対して上半身が弱く、背中の広がりなども意識したことがなかったので、改善の必要性を感じました。
――その際、トレーニング面で最も重視したことは何でしょうか。
大谷 背中に関しては、重量を伸ばすことです。重いものを持って効かせようと思いました。
――「背中に効かせる」感覚はすぐに掴めましたか。
大谷 掴めなかったので、かなり練習しました。私の中で一番ピンときたのは、SNSで海外のマッチョな人がロウイングをやっている動画を見たんです。「背中の筋肉ってこう動くんだ!」と思って、そこから動作をイメージしやすくなりました。
――そして上半身が発達していくにつれて…。
大谷 「私はビキニではないのかな?」と思うようになったんです。だから、最後に昨年のゴールドジムジャパンカップのビキニに出て、そこの評価で決めようと思いました。ただ、エントリーはしたんですが、緊急事態宣言などの影響で出られなくなって。また、石川県の大会に運営のお手伝いに行った際にビキニの選手を見て、「私は違うかな?」とも思いました。今の私がビキニに出ても、きっと予選落ちで終わってしまうだろうと。そう考えるようになり、きっぱりと(ビキニに区切りをつけて)ボディフィットネスに転向することを決めました。
――同様の悩みを抱えるビキニの選手は多いような気がします。
大谷 そうした声はよく聞きます。筋量が増えてきてビキニの基準に合わなくなり、せっかくつけた筋肉を削る選手もいるようです。私は海外のボディフィットネスの選手を見て、すごくきれいだと思ったんです。そこに憧れを抱いたので、すんなりと転向できました。
――本日は肩のトレーニングを拝見しました。種目のセレクト自体はすごくシンプルで、1セットの内容が非常に濃かったです。レストポーズやドロップセットを組み入れ、また肘の角度やレンジを変えたりするなどして、セットの中で可能な限り対象筋を疲労させていくという印象を受けました。
大谷 肩に関しては、最低10回はできる重量からスタートして、そこからできなくなるまでひたすらやり続けるという感じです。回数は数えていません。
――セット数は?
大谷 決めていないです。集中力が切れ、コントロールできなくなって刺激が入らなくなったら、そこで止めます。
――第1種目はサイドレイズでした。この種目は動作は単純なのですが、効かせるとなると難しいものがあります。
大谷 最初は肩の筋肉に効くという感覚が全然分かりませんでした。どのように筋肉が動いているのか考えながらイメージトレーニングを続けて、やっと掴めてきました。最初はやはり僧帽筋に入ってしまうことが多かったです。「サイドレイズは肘で挙げる」とよく言われますが、肘で挙げようとすると僧帽筋に入ってしまうんです。だから今は「肘で挙げる」というイメージではやっていないかもしれません。
――チーティングを使う際は初動だけを助ける?
大谷 そうです。そこからは肩の筋肉で挙げていき、挙げたところで捕まえた負荷を逃がさないようにしながら下ろしていくようなイメージです。
――第2種目はワンハンドのダンベルショルダープレスでした。ワンハンドでやる狙いは?
大谷 私はプレス系の種目が苦手で、ショルダープレスで刺激が入る感覚が掴めずに悩んでいたら、ジムのオーナーの金山(武志)さんがワンハンドでやると入るとアドバイスしてくれたんです。以来、ずっとワンハンドでやっています。
――その次がフロントレイズでした。これも難しい種目です。
大谷 下ろしているときに抜けないようにする意識が難しいです。スピードが速すぎると完全に抜けてしまいます。挙げたときに少し絞って(肩関節内旋して)収縮させて、その負荷が抜けないように意識しながら下ろすようにしています。
――最後はリアレイズでした。これはサイドレイズやフロントレイズ以上に効かせるのが困難な種目と言えます。
大谷 かなり練習したんですが、今でも苦手な種目です。ちゃんと入る日と入らない日があります。挙げるときに入ってないような感覚があるんです。そこで入らなければ下ろすときも全く入りません。
――ちなみに、どのようなことをして練習したのでしょう。
大谷 ひたすらやる、です。動画などで動作を見ただけでは掴めないので、ひたすらやり込んで、意識を集中して感覚を掴むしかありませんでした。
――例えば1セット目では入っていたのに、3セット目では入らなくなるようなこともあるのですか。
大谷 あります。だから入っているときは、抜けてしまうとまた分からなくなるので、その負荷を逃さないようにひたすらやり続けます。一度入ったら、もう逃したくないんです。
――こうした組み方は自分で編み出したのですか?
大谷 私はトップ選手のトレーニングを見たことがなく、周囲にも競技に出ている選手はいません。だから、皆さんがどのようにレップ数とかセット数とかを組んでいるのか、どのくらい追い込んでいるのかも分からないんです。そんななかでトレーニングを続けてきたら、自然と今のようなスタイルになりました。
――トレーニングは何分割で組んでいるのですか?
大谷 「脚」「背中」「胸」「肩」「ハムと殿部」です。順番は決めていません。その日に調子が良くてトレーニングができそうな部位をやるようにしています。ボディフィットネスに転向してからは特に背中を大きくしたかったので優先的にやるようにしました。ビキニでは腕があまり必要なかったので、腕の日は作っていません。ただ、ボディフィットネスでは腕も必要になってくるので、他の部位と組み合わせてやるようにはしていたんですが、まだそこまで本格的にはできていないです。今後は腕も強化していきたいので、分割をどうしようかと考えています。現状では胸の日や肩の日に組み込みたいと思っています。
――種目の選択についてはどうでしょう。
大谷 あまり細かくは考えてないのですが、脚の日だったらスクワット、胸の日だったらベンチプレスと重量を扱える種目を最初に持ってくるようにしています。デッドリフトは毎回のトレーニングではやらないのですが、やるときは背中の第1種目に持ってきます。レップ数は10回を基本にしていて、セット数はできるだけ、少なくても5セットはやります。
――今年のジャパンオープンでは衝撃的なボディフィットネスデビューを飾りました。
大谷 関東選手権に出るか、それともジャパンオープンにするかで迷っているときに村山彩乃ちゃんに相談したら、「出るんだったら大きい大会のほうがいい」と勧められたんです。たくさんの選手が出場する大会で、自分がどのように評価されるかを見てみたいと思いました。
――女子フィジークの村山選手も19年のジャパンオープンに出場していきなり優勝をしました。
大谷 じゃあ次は私がジャパンオープンで優勝したいな、という気持ちもありました。新潟でフィットネス競技をやっている選手として、ビキニの山本早織ちゃん、女子フィジークの彩乃ちゃんとは交流があるんです。
――ジャパンオープンでは本当に優勝されました。
大谷 想像していた以上に高い評価をいただけて、自分でも驚いています。私はやはり(ビキニよりも)ボディフィットネスのほうが合っているんだと思いました。
――ボディフィットネスとビキニとでは求められる絞り具合も変わってくるかと思います。
大谷 そこがすごく難しくて、最初はよく分かりませんでした。とりあえずビキニのころよりも絞ろうと。ボディフィットネスのトップ選手を間近で見たことがなかったので、そこは勘を頼りに進めるしかなかったです。
――感覚としては、絞れるところまで絞るという感じ?
大谷 いえ、バキバキになりすぎるのも良くないと思ったので、あまり絞りすぎないようにしました。
――その「絞りすぎずに少し残す」というのも不安なものがあります。
大谷 そうなんです。その不安感はありました。実際に、ジャパンオープンに出て「もう少し絞ってもよかったのかな?」と感じたので、次のオールジャパンに向けては500gほど絞ってみました。
―― オールジャパンではご自身のクラスは出場者1名でしたが、トップ選手を間近で見られるいい機会になったと思います。
大谷 私が想像していたよりもトップ選手の方々の身体は大きかったです。また、皆さんしっかりと絞られているという印象を受けました。だから、私もそこから(グラチャンに向けて)さらに絞ってみました。
――ボディフィットネス転向以降、全てオール1位票で優勝を飾ってきました。
大谷 とてもうれしいです。ただ、あまりにも怒涛すぎて、現実についていけていない部分もあります。私の中ではまだパーフェクトな状態でステージに立ったという感覚はないんです。トップ選手の方々と比べると、私は大胸筋と腕は明らかに劣っていたと思います。
――しかしながら、今回ビキニからボディフィットネスに移って、見事なサクセスストーリーを作り上げました。転向を悩んでいるビキニの選手に向けてアドバイスがあるとすれば?
大谷 まずは自分の理想は何か、自分は何を目指しているのかというところが大事だと思います。ビキニのトップ選手の身体に憧れているのならば、 そのままビキニを続けるべきだと思います。目指しているところが自分の理想ではない、もっとバルキーなほうが好きなど、(ビキニに)違和感を覚えるようになったのなら、(転向も)視野に入れたほうがいいかもしれません。
――今回、日本一になり、来年以降は違う次元の闘いが待っていると思います。
大谷 追われる立場というのはかなり大変だと思います。連覇されている方は本当にすごいと思います。あまり連覇については意識しすぎないほうがいいのかもしれないですが、それを目指さないことには目標がなくなってしまいます。チャレンジャーとしての気持ちは忘れないようにしたいです。ただ、次の目標になると、やはり「連覇」になります。
――来年以降、ボディフィットネスの選手が増えてくるかもしれません。
大谷 競技人口が増えてさらにこの競技が盛り上がってくれたらいいなと思っています。私はボディ フィットネスの控え室で選手の皆さんの身体を見たときに、「素晴らしい筋肉美だ」と思ったんです。皆さんきれいに筋肉がついて、その上でしっかりと絞れている。なんて美しいんだろうと感動しました。こうしたボディフィットネスの魅力をより多くの人に伝えられればという気持ちはあります。


おおたに・みさき
1987年9月7日生まれ。新潟県出身。身長158㎝、体重49kg(オン)54kg(オフ)。
主な戦績:
2018 横浜オープンボディビル・フィジーク・ビキニ大会 
ビキニフィットネス40歳以下級 2位
2019 石川県選手権ビキニフィットネス35歳未満級&オーバーオール 優勝
オールジャパンビキニフィットネス35歳未満158cm以下級 5位
2021 ジャパンオープン選手権ボディフィットネス 優勝
オールジャパン選手権ボディフィットネス35歳未満級 優勝
JBBF FITNESS JAPAN GRAND CHAMPIONSHIPS 2021 優勝


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

◀トップページに戻る

-コンテスト
-, , ,




佐藤奈々子選手
佐藤奈々子選手