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「好きな物は揚げ物」この筋肉美を持つのはなんと72歳の現役ボディビルダー!

 

世界中で見ても健康寿命が長い国、いわゆる『長寿国』日本。海外から見て、昔から日本人は「よく働く」などと言われている。世界では男性70歳、女性は73歳が平均寿命というデータがある中、日本人は80歳を超えても仕事に精力的に打ち込む方々は多い。それはトレーニングについても同様なのかもしれない。長寿国の日本におけるマスターズ選手が、どのような日常を送り、日々ウエイトトレーニングに取り組んでいるのかを取材した。

取材・文・撮影:月刊ボディビルディング編集部 大会写真:中島康介

Close up Masters・三部 博(日本マスターズ選手権70歳以上級)

59歳からの挑戦

今回取材に伺ったのは、神奈川県横浜市南区にある『横浜マリントレーニングジム(以後YMTG)』所属のマスターズ70歳クラスの選手、三部博選手だ。三部選手が本格的にウエイトトレーニングを開始したのは57歳のとき。そして、ボディビル競技出場のきっかけとなったのが、YMTG所属の2013年に神奈川県選手権で優勝した、友人の原哲矢選手に大会に誘われたことだった。トレーニング開始当初は胸のトレーニングばかりを行っていたのもあり、ベンチプレス大会への出場を目指していたが、原選手に「減量できたら一緒に神奈川県オープン大会に出ませんか?」と。その言葉をきっかけに三部選手は09年、59歳という年齢で初めてボディビル大会に出場することに。
結果は、神奈川県オープン大会にて原選手が2位、三部選手は8位に入賞を果たした。59歳という還暦目前の年齢ながらも、若い選手と混ざって、しかもオープン大会のレベルが高い神奈川県でいきなり8位に。そして、三部選手はここからボディビル競技にのめり込み、今日までコンスタントに大会に出場するようになっていった。「初めての大会に出て楽しさを覚えた」と三部選手から言葉が出たが、まさに大会に出る楽しさというのは、ステージに立ったものだけが得られる感想なのだ。また、初めての大会ではポージング練習はまともに行っておらず、三部選手自身も反省点として挙げていた。そのこともあって、翌年からはYMTGの谷澤一矢会長のもと真摯に取り組み始めた。
今に至るまでに三部選手自身、身体の成長は感じているといが、経験の中でケガをすることも多かったという。19年には左肩のケガでトレーニングでの感覚が上手く掴めなかったりしたことも。そんなことがあって、肩のケガを経験後にストレッチやウォームアップ、ケアを入念にするようになった。
大会初優勝は10年の神奈川県クラス別選手権60㎏以下級で、その後12年、16年も優勝している。最近では、21年関東マスターズ選手権70歳以上級優勝、日本マスターズ選手権70歳以上級準優勝など、日本のマスターズカテゴリーでもトップを駆け巡る有力選手だ。また、今年も日本マスターズ選手権には出場予定で、今後は80歳以上級でも活躍したいと抱負を語った。

好きな物は揚げ物

三部選手がなぜ、ボディビル競技に取り組んでいるかというと一言、「健康のため」と答えてくれた。増量や減量において大きな体重変化が伴うこともあるこの競技に、なぜ健康のため取り組むのか。世間一般の意見では、「絞ると風邪をひく」、「ウエイトトレーニングはケガをする」などと言われることも多いボディビル競技。さらには、大きな減量幅が苦になることも。しかし、三部選手はそういう意見に対して、「僕、そもそも大きな幅の減量はしないんです」と、減量は苦しくなく、大きく絞っても過去に10kg程度だったという。「前に日本クラス別選手権に55kg以下級で出たときは52.5kgまで瞬間的に落としました。そのときはさすがにキツかったですが、めったにやらない」と話し、普段は60kg以下級の出場がメインになる。また、ケガを防止する意味で、フォームが乱れるような無理な重量を扱うことはしない。
減量方法は特筆するほどのものではなく、いたって普通である。期間は約2カ月で、オフには炭水化物に白米を1食300g食べているが、減量期にはそれをオートミールに変更し1日180g食べる。減量末期には1日90gまで減らす。また、メニューの内容は、オートミール、野菜、鶏胸肉が食卓に並ぶ。鶏胸肉は朝、昼、晩と1日450g程度食べる。タンパク質摂取量はプロテインを含め、1日120g程度摂っているが、そこはしっかりと計算しているわけではなく、「120g摂ることを心掛けている」ことを念頭に置いているとのこと。トレーニング前に空腹なときは、餅に餡子をつけて食べることもある。サプリメントは、以前はよく分からないままいろいろと摂っていたそうだが、現在はアンチドーピングの観点からEAAとプロテインのみの2種類を摂取しているそうだ。ちなみにトレーニング後はプロテインのみを摂取しているとのこと。

食事の一例。減量期には白米がオートミールに変わる。また、毎昼食後はヨーグルト100gにきな粉とハチミツをかけて食べている

三部選手はトンカツや天丼などの揚げ物が好きで、減量中は控えるが、それを大会前日に食べて油分や炭水化物でコンディションアップを図る。これについては、身体が張る効果を得るよりも、しっかりステージ上で動くための栄養源になっている。同じ60歳以上の選手で、日本選手権優勝も果たした合戸孝二選手も、大会前日までトレーニングを行い、その後大会会場に向かう新幹線の中から脂物、炭水化物などを食べるが、萎みきった身体を張らせる理由で何でも食べている。三部選手は少し理由は違えど、ディプリートを行った身体に揚げ物もなど多くの炭水化物や脂質を取り入れることは、大会当日の様々なコンディションアップには欠かせないということを結果を出して証明しているのが両選手の身体を見れば分かるはずだ。
減量は三部選手には苦ではないと先に述べたが、奥様からはいろいろと言われることがあるそう。しかしながら、ボディビルに取り組む上でのサポートは大きく、食事面では三部選手の減量中の栄養面や、絞ることを考慮した手料理で三部選手を支えている。
年間を通して食事内容は大きく変わらず、オフは炭水化物の量が増えるくらいだ。これは、現在のボディビル、フィットネス競技シーンで取組んでいる人も多い『リーンバルクアップ』と同じものである。一昔前はオフには脂肪も増やしてでも食事を取り、筋出力を発揮して筋肥大効果を得る『ダーティーバルクアップ』が流行していたが、減量幅の大きさによる減量期間の長さゆえのストレスが大きい。それに対して、前者は年間を通して皮下の筋肉のコンディションが分かりやすく、減量期間を多く取る必要もないことから、最近では行っている選手も多い。そんなリーンバルクアップを、三部選手は競技開始当初から自ずと行っていたのだった。
また、三部選手は、営業職として企業で働いていたころ、たまにスポーツクラブに行っていたそうだ。しかし、現在のように決まった日に何をやるかなどは決めず、通う頻度も少なかった。また、バックボーンとして格闘技をずっとやってきたそうだが、当時はウエイトなどには触れなかった。しかし、身体を動かすことを以前から行っていたことが、今の大会時における素晴らしいコンディションに貢献しているとも言えるだろう。 
三部選手は年間を通して大きく食事を変えないと先に述べたが、生活スケジュールも同様だ。朝は6時半からテレビ体操を行い、その後お風呂に浸かる。それが終わると朝食を取り、11時前まで自宅で過ごす。12~2時くらいまでトレーニングを行い、帰って遅めの昼食を取り、後は自由に時間を過ごす。トレーニングのオフは普段通っているスポーツクラブが休館日の水曜日となる。生活スケジュールからして、朝のテレビ体操は全身の血流を良くして、関節を動かすウォームアップになるため、1日の始まりには最高だ。そして、自由に過ごせる時間を持つことでリラックスもでき、身体を休めながら筋肉の成長を促すことが可能となる。日本人は忙しく毎日を過ごす中で、三部選手のように日々の生活の中でリラックスできる時間を持てることは、競技者、トレーニーには必要である。結果、筋肉に良い影響をもたらすことが期待できるだろう。


トレーニングルーティーン
月:上半身(胸を中心に、肩、腕)
火:下半身
木:上半身(背中)
金:下半身
水・土・日:オフ
自身の課題点として、内転筋の張り出しが弱いことを挙げていた。そのため以前のメニューに加え、ワイドデッドリフトに昨年の大会後から取り組んでいる。

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佐藤奈々子選手
佐藤奈々子選手