今回はプッシュアップ(写真1 -1、1 -2)とベンチプレス(写真1 -3)と何が違うのか、論理的に解説していきたいと思います。
体幹の強化にも効果的なプッシュアップ
エクササイズの分類として、プッシュアップはCKC(Closed Kinetic Chain、閉鎖性運動連鎖)とOKC(Open KineticChain、開放性運動連鎖))いう分類の内、CKCになります。これらの分類の説明として、ごく分かりやすく言うと自身の体重を負荷にするのがCKC、自身の体重が負荷にかからないのがOKCということになります。このことから考えるとベンチプレスは自身の体重でなくバーベルの重さを負荷にするので、分類上OKCということになります。具体的に両者の違いについて表にまとめてみました。
①体幹の筋力アップに効果的なプッシュアップ
ベンチプレスは体幹がベンチ台に固定されているので、体幹の筋の動員率は少なくなります。プッシュアップは体幹を固定しているものがなく、自身の筋力で体幹を固定しないといけないので、体幹の筋の動員率が高くなります。つまり、体幹の筋の動員率が高いということは、スポーツや日常動作の動きに近くなるということです。
②移動能力(ロコモーション)向上に効果的なプッシュアップ
スポーツ動作や日常動作は移動能力(ロコモーション)が必要です。プッシュアップは体幹が上下に移動する(ロコモーション)のに対し、ベンチプレスは体幹がベンチから離れず移動しないので、スポーツ、日常から少しかけ離れた動作といえます。このことからもプッシュアップがスポーツ、日常動作により近くそれらのパフォーマンス向上により効果的であるといえます。
③体幹が安定するベンチプレスに対して不安定なプッシュアップ
特にスポーツは不安定な状態で行われます。ほとんどのスポーツ動作は片手、片足の不安定な動作で行われますが、ベンチプレスは体幹がベンチで安定された状態で行われます。基底支持面とは、身体が安定されている面積のことで、当然基底支持面の小さいプッシュアップの方が、日常動作やスポーツ動作に近く、それらの能力向上に効果的であるといえます。
④負荷の増減が難しいプッシュアップ
プッシュアップは体重の約半分が負荷になります。70㎏の体重の場合、約35㎏のベンチプレスをしているということです。これより負荷を上げるには(写真2-1)のようにバンドを使ったりする方法がありますが、バーベルを使ったベンチプレスより負荷の増大に制限がかかります。
逆に負荷を減らす場合も(写真2-2)のようにベンチの上に手を置いて行う方法もありますが、ダンベルを用いた場合、1㎏刻みで負荷の増減ができるのでこれもプッシュアップは制限が出てきます。
つまり負荷の増減を細かく行うには、バーベルやダンベルの方が便利であるということが分かります。
⑤期待される効果
このことから、日常動作能力やスポーツ動作能力の向上ということにおいてはプッシュアップの方が優れているということになります。ただしボディビル、メンズフィジークなど、非日常的な身体をつくる場合、また、スポーツでも非日常的なパフォーマンスを得るためには、バーベル、ダンベルなどのフリーウエイトも場合によっては必要となるということがいえます。つまり、極論をいうとスーパーマンになるにはバーベルが必要であるということになります。
◆超人になるにはプッシュアップとベンチプレスの両方を行え!
エクササイズの性質でいうと、プッシュアップの方がベンチプレスよりも優れているエクササイズであるといえます。したがって一般のトレーニーはプッシュアップを行うことで、そのエクササイズ効果は充分発揮できるということになります。ただし⑤でもお伝えしたように、ボディビル、メンズフィジークなど、一般的と少しかけ離れた身体をつくるにはやはり、バーベルによるベンチプレスが効果的であるということです。また、人間離れしたパフォーマンスが求められるスポーツ選手も必要に応じてベンチプレスを導入することを勧めます。もし、あなたが機能性も常人離れした身体も両方欲しい場合、迷わずプッシュアップとベンチプレスの両方のエクササイズを行うべきです。
著者プロフィール
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/NSCACSCS/NPO法人JFTA理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF全日本ボディビルディング選手権6位。