トレーニングの取り組み方は十人十色、始めたきっかけや目的ももちろん違う。ここでは、トレーニングに励む愛好家達の軌跡を辿ってみよう。今回紹介するのは、2022年12月3日(土)に開催されたゴールドジムJAPAN CUPでビキニ35歳以上160cm超級4位の尾島悠華(おじま・ゆうか)さん。
「運動は辛いし、めんどくさいし、体育会系の清々しいノリが大嫌いでした。強いて言えば、子どもの頃からダンス系の習い事をしていましたが、ダンスは『運動』というより、その時々の心の内側をダンスを通して表現していた気がします」
学生時代は美術部で運動は苦手。そんな尾島さんが運動を始めたの2011年、東日本大震災がきっかけだった。
「自分を守るためには体力がないといけないと感じ、ジョギングを始めましたが運動歴も基礎体力もなく膝を故障してしまいました。痛みが2年近く続き日常生活にも支障が出てきたため、走ることを断念しました。すると、ボディラインは崩れてメンタル面もネガティブになることが多くなり、もう一度走りたいと思いましたが走るためには筋トレが必要だと知りました。また、当時とあるパーソナルジムの痩せるダイエットプログラムが流行っていて、私のような『無筋ブタ』も筋トレで美しくなった姿を妄想してしまいジムで筋トレを開始しました」
2015年頃から近所のスポーツクラブでパーソナルトレーニングを始めた尾島さん。最初は食事の記録と身体の使い方の指導からだったが、初めはマシンを扱うことができなかったという。
「基礎体力や体幹力などもなく基本の身体の使い方も分からなかったため、立ち方からの指導でほとんどリハビリに近かったと思います。マシンどころの騒ぎではなく、バーベルを担がせてもらえるまで何カ月もかかりました」
そんな尾島さんが身体が変わり、大会出場に挑戦するようになったのは、トレーニング開始から6年後。初出場の大会は2021年マッスルゲート札幌のウーマンズレギンスだった。
「2021年の夏、札幌のゴールドジムで『今のままの格好で出られるコンテストがあるんですけど出ませんか?』と声をかけていただき、この年齢(現在は50代)でまさか“コンテスト”の言葉を耳にするとは思いもよらず、即座にエントリーしました。2021年のゴールドジムJAPAN CUPで出場者の方のレベルの高さに触れ、自分の完成度を微塵も感じられない肉体を恥じ『自分が納得できる身体になるまで肉体を彫刻したい!』と思い今に至ります」
もともとはベジタリアンだった尾島さんが、動物性タンパク質を摂るようになったのはトレーニングを行うためだった。しかし、動物性タンパク質は尾島さんの体質にはあまり合っていないということもあり、食事についてはかなり工夫をしている。
「動物性タンパク質は私の内臓にはきつく、消化にエネルギーが取られてしまいトレーニングの質が下がるので、動物性は魚と卵程度にして、季節の野菜や果物を多くとるように心がけています。また、週に1日は14~16時間の断食を取り入れていて、内臓をリセットするようにしています」
50代という年齢でのボディメイクは、疲労を回復させたり増えた体重を戻すことには時間も労力もかかる。尾島さんにとって理想の身体を作ることは目標ではあるものの、トレーニングを行う本来の目的は「健康でいるため」。このことを忘れずにトレーニングを行っている。
「すぐに筋肉が落ちてしまうことに悩んでいます。いったん増えた体重を減らすのが至難の業なのは、この世代の女性なら分かっていただけるかと......(笑)。もともと筋肉質ではないのでバルクアップにも苦労しています。しかし、苦労の割に上手くいってる感覚がありません。栄養と睡眠が一番のカギだと感じており、疲れているときは何日でも休むようにしています。年齢が大きく関係していると思いますが疲労回復には時間がかかります。健康のためにやっているトレーニングなのに、無理をして身体を壊して寿命を縮める行為にならないよう心と身体の声をしっかり聞いてあげるようにしています」
虚弱体質で生まれ、幼い頃から病院通いが日課だったと話す尾島さんが伝えたいのは、理想の身体は他者と比較するものではないこと。どんな身体であっても病気のない健康体が一番であり、自分にとって居心地の良い身体を見つけてほしいと語った。
「私は、元が『無気力人間』ですぐに挫折をしてしまいます。しかし、病気や仕事などで期限が定められているわけではないなら、自分のペースで気持ちのいい範囲でトレーニングを行っていけばいいのではないかと思います。一番大切なのはどんな身体の形になるかではなく、『心と身体にとって居心地のいい器としての肉体であること』だと思っています。ダイエットやトレーニングは、世間や他者との比較をするためにやるものではないと思っています。どんな服よりも素敵な筋肉を纏い、病気のない軽快な肉体を作れればそれだけで満足なのです。ダイエットでもトレーニングでも、挫折も楽しみのうちと捉えて、たまに上手くいったら自分を褒めてあげればいいと思います」
今後も大会出場は続けていくものの、出場するためにトレーニングをするのではなく「健康第一」でトレーニングを続けると話す。
「増量や減量という体に負担をかける行為は極力避けたいので、競技のみにウエイトを置いた生活はしないようにしますが、年に一度の筋肉の発表会と思って今後も大会には出たいと思います。自分が抱く肉体の美への追求は棺桶に入る寸前まで続けたいと思います」
取材:FITNESS LOVE編集部 撮影:中島康介
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