「ボディビルの筋肉は使えない?やったことある人が筋肉をつければ、パフォーマンスは向上するはずです」。車いすバスケットボールのプレーヤーとして活躍する湯浅剛(ゆあさ・つよし/37)選手は、自身の経験からそう語る。コロナ禍を機にトレーニングを始め、昨年12月の『IFBB男子ワールドカップ車いすボディビル』で優勝に輝いた湯浅選手が語る、パラスポーツにおける筋トレの可能性とは。
【写真】湯浅剛選手のワールドカップでみせたシックスパック腹筋
――湯浅選手は車いすバスケットボールチーム「NO EXCUSE」のプレーヤーとして活躍されています。以前は、長く野球をやっていたと聞きました。
湯浅 はい、小学校低学年から大学4年までやっていました。
――かつての、筋トレをやりすぎると競技に悪影響を及ぼす、といった考えは?
湯浅 ありました。筋肉がついたら動けなくなるんじゃないかと、昔は思っていました。僕は2021年の東京パラリンピックまでは、車いすバスケットボールの強化指定選手に入っていたんです。そのころも補強でやる程度で、ゴリゴリに筋トレするという感じではありませんでした。
ですが、コロナ禍で車いすバスケットボールの活動ができなくなったのを機にトレーニングをやるようになり、バスケットボールの練習、試合でより動けるようになりました。「筋トレばかりやっていても、そんな筋肉は使い物にならない」と言われるんですが、僕の実感としてはそんなことはまったくありません。
――パフォーマンスが向上したのですね。
湯浅 僕は東京パラリンピックには落選して出られませんでした。これからはクラブチームで楽しくバスケットボールができればいいなと思っていました。でも、トレーニングに取り組んだことで身体が強くなり、バスケットボールもうまくなったんです。なぜこういうことが起こったのか、疑問に感じて調べてみたら、「パフォーマンスピラミッド」ってあるじゃないですか。
――個人や組織のパフォーマンス向上のために必要な要素を階層構造で示したモデルですね。
湯浅 そこでは「スキル」が上層にあり、「フィジカル」が下層にあります。つまり、フィジカルが底上げされれば、それに伴ってスキルも向上するんじゃないかと。「ボディビルの筋肉は使えない」とよく言われますが、それは例えばボディビルダーがバスケをやったことがないから動けないだけで、やったことある人が筋肉をつければ、パフォーマンスは向上するはずです。だから今は、筋トレに懐疑的な人たちにもトレーニングを勧めたいと思っています。
――最後に、今後の目標や展望について聞かせください。
湯浅 僕は普段は企業の人事を担当するサラリーマンです。車いすバスケットボールの活動も会社に認められているので、小学校に行って体験教室を開いたりもしています。仕事にプラスアルファでそのような活動もしています。車いすバスケ体験で「楽しかった」というだけではなく、社会モデルや個人モデルなどの障がいに対する考え方を子どもたちに伝えていきたいと思っています。バイアスの少ない子どもたちに伝えていくことで、未来の社会が変わっていくのではないかと考えています。
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取材・文:藤本かずまさ 撮影:中原義史