「誰かが僕を見たときに、あの人は一般的な普通のトレーニーだと、そう思ってもらえるのが理想です」。昨年12月に東京で開催された『IFBB男子ワールドカップ』の車いすボディビルで優勝した湯浅剛(ゆあさ・つよし/37)選手はそう語る。しかし、現状のフィットネス環境は、車いすユーザーにとって「障がいだらけ」だとも。湯浅選手が考える、理想のフィットネス環境とは? そして、その実現のために必要なこととは何なのか。
――車いすユーザーの方がトレーニングを始めるとなると、まずは利用可能な施設を探すところから始めなければいけません。湯浅選手の目から見て、車いすユーザーにとってのフィットネス環境というものは、どのようなものなのでしょうか。
湯浅「障がい」の考え方には、「個人モデル」と「社会モデル」というものがあります。例えばビルに入ろうとしても、そこには階段しかなかったら、僕は2階には上がれません。僕が歩けないから、僕に障がいがあるから2階に上がれない。これが「個人モデル」という考え方です。一方の「社会モデル」は、このビルには階段しかないということこそが障がいだ、という考え方です。もしエレベーターがあれば、僕は問題なく2階に行けます。障がいを作り出しているのは個人ではなく環境であるという捉え方です。目が悪くなった人が眼鏡をかけずに生活すると、いろんなところに障がいが出てくるはずです。でも、眼鏡というツールを使うことで、その障がいは解消されます。簡単に言うと、そういうことです。
――なるほど、分かりやすいです。
湯浅 これは国連でも取り入れられていることなのですが、例えば僕個人の身体の状態と社会環境がミスマッチを起こしたときに「障がい」というものが生み出されるという考え方です。その観点で言うと、僕らがフィットネス系の施設にアプローチしようとすると、そこは障がいだらけなんです。そうした環境が少しずつ変わっていくことで、車いすユーザーでもフィットネスを楽しめる、より健康になれる社会になっていけばいいなと強く思います。今日も僕は一人でこのジム(ゴールドジム曳舟東京)まで来て、一人でトレーニングをしました。この店舗はエレベーターもあり、エリアもフラットで、障がいがないんです。誰かが僕を見たときに、あの人は一般的な普通のトレーニーだと、そう思ってもらえるのが理想です。
――湯浅選手の実感としては、そうした環境は変わってきているのでしょうか。
湯浅 この15年ほどでかなり変わってきたと思います。健常者のころ、友だちとよくバドミントンをやったり遊んだりしていた体育館があったのですが、車いすユーザーになってからバスケットボールの自主練習をしようとその施設に行ったら、使用を断られたんです。僕からすると、自分自身は何も変わっていません。車いすに乗って同じ場所に行っただけなんです。でも、床を傷つけるなどの理由で使用できませんでした。
今ではこういったことは、なくなってきました。公共の施設はかなり変わってきたと感じています。ただ、民間のフィットネスのエリアは、健康な人がよりハードにトレーニングを取り組む場所、と感じることも少なくありません。こうしたジムこそ健康インフラとして、もっといろんな人たちが活用できる場所になってほしいというのが、僕の願いです。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中原義史