「筋トレを頑張っているのに成果が出ない」「ケガをしやすい」「続けるのがつらい」。日々筋トレに励む人たちなら、このような悩みに一度はぶつかったことがあるだろう。実は、トレーニングの成果が思うように得られない理由の一つは、自分の体質や状態に合わない方法を続けている可能性にある。
アメリカの金融機関で多忙を極めていたころにメニエール病を患い、治療の過程でアーユルヴェーダと出会った新倉亜希(にいくら・あき)さんは、その伝統医学に基づく体質改善で病気を克服。自然療法の力に感銘を受け、インドのアーユルヴェーダ病院で数年間、修行を積んだ。現在はアーユルヴェーダヘルスコンサルタントとして、プロのアスリートをはじめ多くの人々をサポートしている。
アーユルヴェーダ体質別トレーニング
新倉さんがアスリートに提案するのは、アーユルヴェーダの「体質別トレーニング」だ。約5000年の歴史を持つこの伝統医学の知恵を活かし、自分の身体を深く理解することで、筋トレの効果を最大化し、ケガや不調を防ぐことができると語る。
アーユルヴェーダとは?
アーユルヴェーダは、約5000年前にインドで生まれた伝統医学。宇宙を構成する5つの元素(地、水、火、風、空)が人間の身体や心にも影響を与えると考え、これらのバランスを整えることで健康を維持できると考える。
その中心にあるのが「ドーシャ」と呼ばれる体質の考え方。3つのドーシャ(ヴァータ=風、ピッタ=火と水、カパ=土と水)のうち、どれが優勢かによって体質が決まり、それに応じたアプローチを取ることが自分に合った体調管理になる。肉体だけでなく、思考や性格の傾向もドーシャによって左右される。
「自分の体質を知ること」が筋トレの質を大きく向上させると話す新倉さん。一般的なトレーニング方法は万人向けに設計されているため、便利で誰でも取り入れやすい。しかし、自分の体質に合わない運動を行えば、不調の原因にもなる。まずは専門家による体質診断を受け、自分に最適な方法を見つけよう。
あなたはどのタイプ? 3つのドーシャの特徴
体質は大きく3つのドーシャに分けられるが、実は、ドーシャは1つだけ(ヴァータのみ、ピッタのみ、カパのみ)とは限らず、2つのドーシャを持っていることが多い。ヴァータピッタ、ピッタカパ、カパヴァータ、といったように2つが優勢に出やすい場合は、両方のドーシャのケアが必要となる。
ヴァータ(風のエネルギー)タイプ
行動力と順応性があり、気まぐれなヴァータ。活発的で、変化を好み、適応能力が高く、想像力が豊かで記憶力や理解力がある。体型は痩せ型で、髪や皮膚は乾燥しやすい。筋肉がつきにくく、疲労が溜まりやすいといった特徴も。ヴァータのバランスが崩れると、乾燥、冷え、不安が強くなり、集中力が落ち、気分が変動しやすく衝動的な行動を取りやすい。他のドーシャに比べて骨が弱く、便秘しがち。肉離れしやすい。
注意点: 軽いウエイトで短時間のトレーニングを心がける。一つの種目を長く行うと飽きやすい。
対策: トレーニングは朝一番に行うのが効果的。リカバリーを重視し、筋肉をつくる上で必要な必須アミノ酸を多く含むモリンガティー(※)など栄養価の高い飲み物を取り入れる。疲労を防ぎ、飽きないように種目にバリエーションを持たせる。(※栄養価が非常に高く、抗炎症作用や免疫アップ効果が期待され、ミラクルツリー〈奇跡の木〉と言われるスーパーフード)
ピッタ(火と水のエネルギー)タイプ
熱意があり、知的で目的に向かって突き進むピッタ。情熱的な火と、それを調整する水の力を併せ持つ。挑戦心が強く、集中力が高い、話や行動に無駄がない、リーダータイプ。体型は中肉中背で、日焼けしやすい。体内に熱のエネルギーを多く持っているため暑さに弱く、ピッタのバランスが崩れると「炎症」が起きやすい。下痢をよくする、皮膚疾患、目の充血、胸焼け、ハゲや白髪が目立つ。興奮して不眠になりやすいことも。メンタル面では、ピッタが増えすぎると短気で怒りっぽくなったり、見栄や嫉妬も強くなる。完璧主義がいきすぎてストイックになりすぎるので注意。
注意点: 筋トレは熱を生むので、涼しい時間帯(早朝や日沈後)に行うこと。
対策: 辛いものを控え、炎症を抑えるブラフミーティーを飲む。トレーニング前後にピッタオイルを使って筋肉をケアする。
カパ(土と水のエネルギー)タイプ
寛大で穏やか、安定しているカパ。身体はがっしりしていて筋力、体力、持久力に恵まれている。艶のある強い髪の毛や色白で滑らかな肌を持つ。代謝が遅く、体重が増えやすいのが特徴。カパのバランスが崩れると、物事への執着が強くなり、思考が鈍くなる、大雑把になる、活動意欲を失う、抑うつ状態になることも。複雑すぎたり、急かされたりすると、一気にめんどくさくなってしまう。身体面では眠気が起こり、アレルギー性鼻炎や鼻水、鼻詰まり、喘息や気管支疾患にかかりやすくなる。
注意点:簡単なトレーニングメニューを組み、1日に多くの種目を詰め込みすぎないようにする。
対策:日中のトレーニングがベスト。体重コントロールにはモリンガティーが効果的。
筋トレ前後にオイルケアを!
筋肉を柔らかく保つには、トレーニング前後のオイルケアが重要だと新倉さんは伝えている。筋肉は使い続けると固くなってしまうため、ドーシャ別のオイルを使うことで、ケガを防ぎながら柔軟性を維持することが大切だ。オイルは肌に塗って15分で吸収されるため、運動前と後、両方のケアがお勧め。
ヴァータオイル:筋肉が硬くなりやすく、疲れやすい人に。肉離れを防ぐ
ピッタオイル:炎症を起こしやすい人に
カパオイル:むくみやすく太りやすい人のための緩和オイルとして
アーユルヴェーダの体質診断を通じて自分を知ることは、筋トレだけでなく、生活や仕事の質も上がる。自分の身体のことを知っているようで、意外と知らない、または受け入れていない自分の弱さにも気づかせてくれるのだ。アーユルヴェーダで、自分らしい身体づくりを始めてみてはいかがだろうか?
監修:新倉亜希さん
アーユルヴェーダビューティーカレッジ学長。メニエール病がアーユルヴェーダ医師による治療で全快したことをきっかけに、インドへ渡る。チャクラパニ病院で数年間の修行を経て、アーユルヴェーダ ヘルスコンサルタントのライセンスを取得。沖縄で自然栽培農園を開始し、日本人の体質にあった日本産のアーユルヴェーダプロダクツを開発、リトリート施設「アーユルウェルネスリゾート沖縄」にてアスリート専門プログラムも実施するなど幅広く活動
取材:松本実奈美