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特別支援学校の先生が体重59㎏級でベンチプレス172.5㎏成功 超パワー型ベンチプレス」という新しい解

2026年5月、ポーランドにて開催された「IPF世界ベンチプレス選手権」男子59㎏級(クラシック)で172.5㎏の挙上に成功し、優勝をつかんだ濱口柊選手の競技歴はわずか3年足らず。特別支援学校教員として働きながら、限られた時間の中で世界一の座を射止めた。圧倒的な練習量、独自のフォーム理論、59㎏級で勝つための肉体改造。短期間で世界のトップへと駆け上がった濱口選手の強さの核心に迫る。

取材・文:池田光咲 試合写真:WhiteLightsMedia Web構成:中村聡美

2026年5月、ポーランドにて開催された「IPF世界ベンチプレス選手権」男子59㎏級(クラシック)で172.5㎏の挙上に成功し世界チャンピオンとなった

競技歴3年でつかんだ世界一の座

━━同階級の180kgという世界記録保持者である田中玲星選手を破り、世界チャンピオンとなりました。ズバリ、勝利の要因は?

濱口 高密度な練習量です。短時間でたくさん練習をする中で、自分に合うフォームや力の出し方を探していった結果だと思います。

━━競技歴は3年にも満たないそうですが、ベンチプレスを始めたきっかけはなんだったのでしょう。

濱口 社会人になってジムに入会しました。最初はベンチプレス60kgぐらいだったのですが、毎週10kgずつ伸びていきました。そこから数年して、ジムでトレーニングをしていたときに、声をかけていただいたのがきっかけです。「強いから大会に出てみないか」と言われ、そこで初めてベンチプレスの大会があることを知りました。デビュー戦は岐阜県の非公式大会でしたね。

━━当時から高重量を扱えていたのですか?

濱口 声をかけられた頃は、ルールを意識しないで140kgを3回ほど挙げていたと思います。ただ、競技ルールには全く則っていません。胸で止める、合図を聞く、お尻を浮かせない。そこに合わせていくと、最初は思うように挙がらず苦戦した記憶があります。

━━本格的に大会を目指してからの記録の伸びは、とても速かった印象です。

濱口 筋トレを始めて、100kgまでは比較的早かったのですが、150kg〜160kgへ進むところで最初の大きな壁がありました。ここで短時間ながら量をこなす練習に取り組み始めたことで、壁を打ち破ることができました。(具体的な記録推移はグラフ参照)

軽量級には珍しい『超パワー型ベンチプレス』

━━濱口選手のベンチプレスは、技術の集約というより、筋力で押し切る印象があります。

濱口 自分でもパワー型だと思っています。本当は胸椎を立てて、高いアーチを組むフォームに憧れがあります。ただ、僕は柔軟性や身体操作があまり得意ではありません。そこを無理に追いかけるより、自分が一番力を出せる型を見つけようと思いました。その結果、『超パワー型ベンチプレス』に着地しました。

━━濱口選手にとって最も力を出せる型とは?

濱口 少し独特かもしれませんが、脊柱起立筋に力をためる意識があります。脚の力を背中の縦ラインに集め、そこから一気に押すイメージです。練習ではお尻が浮くようなベンチプレスを多く行っているのですが、これは全身を使って高重量とボリュームをこなすため。ただ、試合では当然ルール内で挙げなければいけないので、試合が近づくにつれ、お尻をつけたフォームに切り替えていきます。

━━練習用のフォームと試合用のフォームを分けているのですね。

濱口 練習では全身を使って量をこなすことを重視しています。高重量で力を出す練習に始まり、筋肥大を狙う中重量、スピードや連動性を意識する低重量。これらを1回の練習で全てこなしています。自分の中では1レップごとにフォームも確認しながら取り組むようにしています。(詳しいメニューは下記表参照)

━━闇雲に量をこなしているわけではないのですね。

濱口 練習ではお尻を浮かすことが多いので、外から見ると勢いで挙げているだけに見えるかもしれませんが、1レップずつかなり考えています。僕は、量をやることで技術も磨かれるという考えです。

コンディション調整と肉体改造が実力に噛み合った

━━短期間で筋力を伸ばす上で、特に大切だと感じた取り組みを教えてください。

濱口 目的に合わせて適切なアプローチを行うことです。例えば僕が最初に意識をしていたのは、練習量をこなすための体力づくり。試合出場を決めた頃、強い選手に勝つには普通のやり方では足りないと思い、まず心肺機能を高めるための走り込みを取り入れました。それからバーベルや軽い重量でとにかく回数を重ね、筋持久力を養ったんです。ここでベンチプレスの基盤ができたと思います。

━━最近では補助種目も取り入れているそうですが、これはどのような目的で?

濱口 今年の全日本選手権後からナローベンチプレス、ディップス、懸垂などを取り入れ始めました。ナローベンチは三頭筋、ディップスは背中や肩の前部・三頭筋の強化を目的としています。補助種目は疲労を残しすぎない範囲で行うようにしています。基本的にベンチプレスに必要な筋力はベンチで養うのが一番早いとは思うので。停滞を感じたときに補助種目を行うイメージです。

ほとんどベンチプレスだけにも関わらず、胸・背中の厚みがすごい(写真提供:本人)

━━補助種目を取り入れたことで、肉体面に変化はありましたか?

濱口 59kg級では、限られた体重の中でどれだけ筋肉量を高められるかが大切です。そこで体脂肪を落とし、筋肉量を増やす肉体改造に取り組みました。普通に考えると、体重を落とせば重量も落ちてしまいますが、僕は重量が大きく落ちなかったので、結果的には成長できていたと思います。

━━これまでも実力はあったものの、強敵・田中玲星選手からの白星はありませんでした。今回の世界選手権ではこれまでと何が違ったのでしょうか?

濱口 以前は短期間で体重を合わせようとして、試合当日の出力が落ちる感覚がありました。そのため今回は、事前に体重を合わせ、検量後に過度な水分や糖質の摂取をしないようにしたんです。結果、コンディションがハマりました。また、試合フォームに切り替える時期も少し早めたことで、焦らずに試合の感覚をつかめました。

限られた時間で世界を狙う

━━特別支援学校の教員として働きながら、世界一を目指す日々だったと思います。練習時間はどのように確保していたのですか。

濱口 基本的には早朝に練習を行なっていました。仕事もあり、時間は限られているので試合前は週4〜5回、普段は週3〜4回は頻度の目安です。本当はもっとやりたいのですが、今の生活の中でできる方法を探しています。

特別支援学校の教員として働きながら、深夜や早朝の時間を活用してトレーニングに励んでいる(写真提供:本人)

━━社会人トレーニーにとっては、非常に現実的な悩みでもあります。

濱口 僕は計画を細かく決め過ぎるより、その日に状況に合わせて練習を組み立てるタイプです。仕事柄、次いつジムに行けるかも分からない状況なので、1回の練習で可能な限りのボリュームをこなす。性格的にも、ルーティンワークより、自分が嫌にならずに続けられる形の方が合っています。

━━リカバリー面で意識していることは?

濱口 睡眠の質はかなり意識しています。早朝の練習で睡眠時間は長く取れないことがあるからこそ、寝る前にスマートフォンを見すぎない、室温を整える、朝日を浴びる、カフェインを遅い時間に取らない、湯船に浸かる。そういった基本を大切にしています。次の日にやることを決めてからベッドに入るのも、ストレスを減らす意味で意識しています。

━━3年で世界一というスピード感は、読者にも希望を与えます。

濱口 才能だけではなく、自分に合う方法を探し続けた結果だと思っています。

━━今も試行錯誤は続いている?

濱口 これが完成形とは思っていません。だからこそ、まだ伸び代はあると思っています。

━━今後の目標を教えてください。

濱口 まずは59kg級で世界記録(クラシック)を更新すること。誰かに勝つというより、記録にこだわっています。世界記録を取るまでは59㎏級でやりたいですね。まずは目標達成に向けて、これからも日々の練習を積み上げていきます。そしていずれは3種のパワーリフティングにも挑戦する日が来るかもしれません!

はまぐち・しゅう
1996年11月9日生まれ、岐阜県岐阜市出身。身長162cm。ベンチプレス59㎏級。高校時代は陸上競技のやり投げに取り組み、岐阜市大会で優勝。2021年ごろから本格的にトレーニングを開始し、2023年9月に非公式大会でベンチプレス競技デビュー。2026年の世界大会で優勝を果たした。現在は特別支援学校の教員として働きながら、深夜や早朝の時間を活用してトレーニングに励んでいる。

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