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若者に広がる薬物使用の実態に警鐘! ナチュラルボディビルダー・久野圭一が語るドーピング対策とナチュラルの真価

ドーピングを撲滅せよ!ナチュラルボディビルの矜持

現在JBBFの選手権大会を中心に活躍する久野選手は、自身のSNSで強くドーピングを批判している。選手として、そしてトレーナーとして、アンチドーピングについて思うところを厳しくかつ率直な言葉で語っていただいた。

[初出:IRONMAN2024年12月号]

ユーザーが圧倒的に増え続けている現状を見て

ドーピングをしている人が爆発的に増えている現状があると思います。その中でも、若年層の使用が多く目に留まります。
ドーピングが増え始めた時期と僕が考えるのは、日本人がフィジークのプロ選手として活動し始めたころからです。ステロイドユーザーの方たちが脚光を浴びるようになり、スターであり憧れるような存在として認知され始めたタイミングですね。それ以前と比べて、肌感ではありますが、ジムでも「いるな」と思うことが増えました。

また、SNSを通して禁止薬物の使用を目にする機会も明らかに多くなりました。
若年層の薬物使用に関しては、20代に加えて学生の使用も散見されます。インスタグラムを見ていると、おすすめとしてそのような情報が出てくることがあります。

その中には、あからさまに「何㎎投与」、「何種類使っています」のような文面も見られます。そしてYouTubeに僅かではありますが同じような内容をアップする人も存在します。このことから分かるのは、YouTubeに動画をアップするのは氷山の一角であり、その後ろにはもっと沢山のステロイドユーザーたちがいるということです。

ドーピングについての情報が何もなければ、そもそも薬物を使用しようという考えには至りません。そういった意味では、フィジークプロの活動が引き起こした悪影響は計り知れません。「使えば僕もこういう風になれるんだ」と思う人が増えてしまうのは、プロの凄く発達した筋肉を見れば自然の成り行きです。

薬物が蔓延してきている状況でさらに危険と考えるのは、そもそも、「ドーピングは悪である」という認識がないまま禁止薬物に手を出している人が増えているのではないかという点です。ドーピングは、健康面においてもスポーツの公平性という面においても、絶対に悪の存在です。しかし、それでも目標のために悪を受け入れて薬物を使用するという意見については、まだ言っている意味を理解することはできます。
問題なのは、悪であるかどうかすら分かっておらず、覚悟もないままドーピングに手を出す人たちです。ドーピング関連のビジネスをやっている方たちも同じで、この悪の認識がないのではないかと思います。

少し話は変わりますが、ステロイドユーザーによるトレーナー活動も問題に思います。
クライアントはそのトレーナーの体に憧れて依頼をしますが、薬物の使用を隠している限り、優良誤認の状態にありますよね。身体を作ったのがトレーニングテクニックや効果的なサプリメントで、それについて指導やアドバイスをするなら良いですが、現実的にはそうでないことの方が多いはずです。法律の定義は分かりませんが、詐欺に近い行為のように思われます。競技に関しては、ユーザーがナチュラルの大会に出て優勝していくというケースもごく稀にあるようです。頑張って取り組んできた側からすると、メダルを盗まれたようなものですよね。SNSのDMでそのような訴えを受けたこともあります。

地方大会では検査がないことがほとんどなので、使った選手が優勝することがあるようですが、検査があろうがなかろうが、JBBFはルールでドーピングを禁止しているわけですから、定めていることには従わないといけないと思います。ドーピング違反をして優勝したとして、果たして本当に喜べるのでしょうか。

世界大会で受けた印象

ボディビルやマスキュラーフィジークのカテゴリーだとドーピングが強く目立ちますが、フィジークのカテゴリーではそこまで目につかなかった印象です。もちろん薬を入れている人もいるのかもしれませんが、そのことで不利を感じるほどではありませんでした。

僕が勝てなかったのは、単純に実力不足だったからだと思います。近年のフィジークの世界選手権は、身体のサイズが大きければ必ず勝てるというものではなくなってきています。ナチュラルの僕ですら、デカすぎて負けたなんてことを言われたくらいです。ジュラシックカップで審査員の辻本先生がおっしゃっていたのですが、IFBBエリートリーグの国際大会の傾向もナチュラルの身体を好むように変わりつつあるようです。これはとても良いことだと思います。

トレーナー目線から考えるドーピングの在り方

薬物を使いながらトレーナーをしている方の中にはクライアントに対して、「そろそろ使わないと勝てないよ」とか「月何万円で打ちませんか」というような提案をする人がいると聞きました。これは、すごい人がいるからその人の元で頑張ろうと思って何も知らずにやってきた人の気持ちを裏切る行為だと思います。おそらく、仕入れてきた薬をクライアントにサブスクのような形で販売すると儲かるのでしょう。そうしてトレーナーがさらにユーザー人口を増やしていることは大きな問題です。

昨年には、コンテスト会場に禁止薬物が持ち込まれ、忘れ物として見つかってドーピング違反になった事件がありました。どういう事情があったかまでは分かりませんが、選手がたくさんいた場所で受け渡しが行われていたんじゃないかと邪推してしまいます。そうでなければ、わざわざ大会会場に薬物を持ってくる意味がないはずですから。真相は分かりませんけどね。

僕が経営するジムに関して言うと、選手ではなく一般の方が多いので、ドーピングの話をすることはないです。ただ、お客様は、僕がYouTubeでドーピングについて発信しているものを見てくださっています。

アンチドーピングの理想は業界からの完全なる撲滅

アンチドーピングの究極の理想は、ユーザーとナチュラルの棲み分け等ではなく、ドーピングが完全になくなることです。治療のための使用を除き、競技力向上を狙うアナボリックステロイドやそれに準ずる薬物の使用・所持・売買の禁止を法律で決めることが理想です。将来的にこのような方向に進めば良いですが、現段階では難しいので、棲み分けをすることが手始めだと思います。JBBFやサマスタのようなアンチドーピング団体には、ユーザーは絶対に出場してはいけません。

ユーザーの身体を見て格好良いと感じる人もいると思いますが、僕自身はJBBFの選手の方がずっと格好良いと思っています。この部分に関しては好みの問題もあると思いますが、ジュラシックカップの盛り上がりを見て、「ああいう身体になりたい」と思った人も少なくないでしょう。チケットの売れ行きや同時視聴者数から考えるに、ナチュラルもどんどん盛り返していると言えると思います。この辺りは、木澤(大祐)さん、合戸(孝二)さん、KENTOくんや運営の方々の尽力の賜物ですので感謝しています。

コンテストに出資するスポンサーにしても、アンチドーピング団体の方がイメージは良く、気持ち良くお金を出せると思います。
結論として、ナチュラルボディビルを盛り上げていくことこそが、最大のアンチドーピングにつながるのではないかと思います。ドーピングの悪い点を教育することも大事ですが、ナチュラル団体の良さを効果的にアピールしていくことも有効だと思います。正々堂々と気持ち良く戦える場所がナチュラルであることを、広くおすすめしていきたいというのが僕のスタンスです。

ステロイド等の副作用で、体型が崩れたり健康被害が出たりすることは広く知れ渡っています。一方で、JBBFでは63歳になる合戸さんが今でもすごい身体を披露しています。健康で長く続けられることはナチュラルボディビルの良いところですし、そこを考えると、命を削るような薬物の使用は、全く合理的な選択ではないと思います。さらに言えば、使ったところで全員がスターになれるわけではなく、ただ身体を壊して終わるだけの人も多いはずです。

僕がドーピング対策で気をつけていること

ドーピング検査は、オールジャパンで2回、それとジュラシックカップでの簡易検査を1回受けました。抜き打ち検査については対象になったことはありません。

ドーピング対策では、dinxを活用しています。これは、サプリメントや処方薬の中に禁止薬物が入っていないかを調べられるアプリです。

それに加えて、病院に行って薬をもらう際には、スポーツファーマシストにも内容について聞くようにしています。「僕はボディビル(フィジーク)をやっているのですが、この薬は大丈夫ですか」と聞くと、スポーツファーマシストの方が調べて、「この薬は大丈夫です」というように回答してくれます。スポーツファーマシストのいる薬局に行くのが一番良いですが、在籍のある薬局に電話をしても教えてもらえます。

サプリメントに関しては、選手は海外製品の使用は控えるべきだと思っています。基本的には何が成分に入っているか分からないと考えた方が良いです。プロテイン、クレアチン、グルタミンのような単品の製品なら大丈夫だと思いますが、プレワークアウトなどのコンプレックス系は危険と思った方が良いでしょう。

現在の僕のサプリメンテーションは、プロテイン、クレアチン、グルタミン、マルチビタミンミネラル、BCAA、EAAのみです。
インフォームドチョイスの付いているものなら良いと思いますが、そうではないよく分からないものには手を出さないことをおすすめします。JBBFの講習会でもサプリメントの話があるはずなので、ダメと言われているものは選手は摂ってはいけません。

ナチュラルで頑張る読者に伝えたいこと

ドーピングなしでも、トレーニングのやり方を突き詰めることで筋肉は発達します。しかし、中にはトレーニングを少しやったけどなかなか筋肉がつかず、すぐに諦めて薬に走る方もいます。
トレーニングは奥深いです。まるで宇宙のような広がりがあり、それにまだ気づいていないだけかもしれません。「やっているけど筋肉がつかない」のではなく「うまくトレーニングができていない」ということを理解すべきです。

副作用や失うものなしに、薬で格好良い身体が手に入ると思ってはいけません。そういった安易なドーピング思考に付け込もうとする悪い業者もたくさんいます。

ナチュラルで身体を作ることは、達成感や楽しさにつながります。そうして身に付けた筋肉こそが、本当の財産であるはずです。僕も17年のトレーニング歴で、今まさにそれを感じています。

取材・文:舟橋位於 大会写真:中島康介

ひさの・けいいち

1982年10月12日生まれ、東京都出身。身長172㎝、体重72kg(オン)80kg(オフ)。2017年10月に株式会社キーフィジークを設立。パーソナルトレーニングジム「キーフィット」など3店舗を運営。2019・2021年オールジャパン選手権メンズフィジーク40歳未満172㎝以下級連覇。ジュラシックカップ2024ではグランドクラスで8位。

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