ピラティスインストラクターの資格を持つ小倉シエカさんとともに、マスタートレーナーの菅原順二さんの解説でピラティスを学ぶ『Yoga&Fitness』本誌好評連載を特別公開。今回のテーマはピラティスを通したポジティブマインドの作り方。ここで紹介したエクササイズを寝る前に続けると、心のネガポジ変換が起こる!?
[初出:『Yoga&Fitness』vol.12]
シエカ 今回のテーマは「ポジティブマインドの作り方」。ポジティブと一口に言っても実はプラス思考オンリーではなく、ネガティブにもポジティブにも転びすぎない「ちょうどいいところ」に持っていける考え方やライフスタイルなのかなと。
菅原 僕はアスリートのパーソナルトレーナーもしていますが、すごいなと誰もが思うトップアスリートでもネガティブな人は意外に多い。でも、すごい人ほどやっぱりコントロールが上手なんですよね。
シエカ 思考のバランスを取るうえで、私はやはり運動が有効かなと思うんです。
菅原 それは間違いない。内向き、内向きに考えすぎず、シンプルに「動く」ことにフォーカスできるから。
シエカ 私も落ち込んだときには、いったん考えるのをやめてウエイトトレーニングをします。落胆や怒りの気持ちでやっても身体は全然変わらないと分かっているから、そこで気持ちの切り替えができるんです。
菅原 シエカさんにとって、ジムは〝心のスイッチング〞ができる場所。そういう場や環境、手段を一つでも持っておくといいですね。その意味でいえば、「違う感覚で脳を埋め尽くす」というのも僕はアリかなと。
シエカ ネガティブ思考で脳がいっぱいなら、いつもとは違う刺激を身体に入れて、いい意味で感覚を分散させてあげるとか?
菅原 そうそう。ドライブやジョギングで「スッキリしてリフレッシュできた」という人はオプティックフロー、つまり流れる景色を視覚がとらえて、脳にとって気持ちのいい情報の書き換えが連続で起こっているからなんですよね。超簡単にその刺激を入れたいなら、「首振り運動」だけでも僕は有効だと思います。
シエカ なるほど、首を左右に振るだけで景色が変わりますからね。私がコンディショニングの指導で参加者の方をポジティブマインドに持っていくときは、時間を割いて胸郭を動かしてもらいます。それもやはり「視界」が関わっていて、胸郭が窮屈だと目線も一定に固まってしまう。そうなると、たいがい悪いことしか考えられなくなるので、視界を広げてもらう意味でも胸郭を動かす、胸を広げることを重視しています。
菅原 そういえば、僕がピラティスの師匠にいつも言われていたのが「幸せは斜め45度上にしかない」。
シエカ 名言ですね! 考えたら、自信がないときって伏し目がちになりますもんね。胸郭を動かすのも、目に映る景色を広げてポジティブにならざるを得ない環境をつくるエクササイズともいえそうです。
菅原 感覚受容器を刺激する動きでは、コロンと転がるローリング系やゴロンと横になる、ペタッとうつ伏せになるというのもお勧めです。
シエカ コロン、ゴロン、ペタッ。その響きだけで癒されます(笑)。考えたら、緊張や興奮しているときって誰かに背中をなでてもらうと安心しますよね。ピラティスのマット系の運動は、ちょっとその皮膚感覚に近い気もします。
菅原 じゃあ、今回はピラティスの動きのなかでも地面にハグしてもらうような(笑)、リラックスできるエクササイズを紹介していきますね。
即効性の高いリフレッシュ動作
ネックローテーション

ネックローテーション
うつ伏せで両膝を立て、両手をおなかに乗せてリラックスした状態から、やさしく、丁寧に首を右に向けていく。

ネックローテーション
後頭部の丸みを使って転がすように、鼻で漢数字の「一」を書くイメージで首を左右に向ける。
首に痛みがない人は、大きくリズミカルに動かしてみましょう。目が疲れる場合は閉じたままでもOKです。
背中や腰まわりの緊張をリセット
ローリング

ローリング
体育座りのような姿勢を取り、両手で太腿の後ろ側をホールドしたら、背中を軽くカーブさせて後ろにゆっくり転がる。

ローリング
下腹部の収縮を意識しながら、全身がボールになるイメージで前後にコロンコロンとリズミカルに転がる。
後ろに転がる際に、後頭部を床に打ちつけないように注意しましょう。
寝返り動作で硬い背中をほぐす
ベビーロール

ヘビーロール
あお向けで両腕を伸ばし万歳の姿勢に。

ヘビーロール
遠くの物を取りにいくようなイメージで、右腕を先行させながら、身体をゆっくりひねって左方向へ回転させていく。

ヘビーロール
全身を反転させてうつ伏せになったら、逆の手順で元の姿勢に戻る。左右を変えて同様に。
脚を最後まで残しておくことで、より上半身の伸び感と背骨の回旋が得られます。
胸郭を開いて呼吸を深める
フィールグッドアームス

フィールグッドアームス
横向きで寝姿勢になり、両膝を揃えて90度に曲げる。両腕は腕の前に伸ばして手のひらを合わせる。

フィールグッドアームス
左腕をできるだけ遠くへ伸ばすイメージで、円を描くように頭上から反対側の床まで回していく。

フィールグッドアームス
腰から下は動かさず、左腕を大きく1周させたら、逆の手順で元の姿勢に戻る。動きを止めずに360度リズミカルに回し続けてもOK。
肩をぐるぐる回すのではなく、胸から大きく回すイメージで行いましょう。
股関節まわりの筋肉をリラックス
ニーステアリング

ニーステアリング
あお向けで両脚を曲げ、両手を膝の上に置く。下半身に無理な力を入れず、股関節まわりの筋肉をゆるめる。

ニーステアリング
両手で両膝を掴み、大腿骨をくるくる回すイメージで内側から外側に回す。脚力で回すのではなく、脚はなるべく脱力して、腕で誘導する。

ニーステアリング
数回行ったら、同じ要領で外側から内側に回す。
力まずスムーズな円運動になるよう、動作は止めずリズミカルに行いましょう。
深い呼吸や血のめぐりに効く
シングルレッグストレッチ

シングルレッグストレッチ
あお向けで右膝を胸に引きつけ、右手で抱える。左手は足首に置き、左脚を斜め上に伸ばす。

シングルレッグストレッチ
遠くにあるスイッチをつま先で押すイメージでつま先を伸ばしながら、呼吸とともに左右の脚と手をリズミカルに入れ替える。
吐く・吸うの呼吸に合わせてリズミカルに。吐く際は呼吸をすべて吐き切りましょう。
菅原順二(すがはら・じゅんじ)
1978年10月28日、東京都出身。全米公認ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(NSCA・CSCS)/Body Element Pilatesマスタートレーナー/トレーニングスタジオ アランチャ代表。法政大学ラグビー部でプレー後、単身ニュージーランドへ渡りNZISに入学、トレーニング学などを学ぶ。帰国後ピラティスと出会い、マスタートレーナーの資格を取得。パーソナルトレーナーとしてラグビー選手、プロ野球選手などトップアスリートを指導するかたわら、全国を回りピラティス、マスターストレッチ、ボディキー、呼吸法などをレクチャーしている。
パーソナルトレーニングスタジオ アランチャ公式サイト
https://www.arancia78.jp/
シエカ
1979年生まれ。フィットネストレーナー/運動経験ゼロであったが、体形の崩れをきっかけに2007年、27歳で筋力トレーニングを開始。JBBFボディフィットネスに出場し、東京・関東(初代)・東日本(初代)大会チャンピオンとなる。2010年に全日本大会準優勝、11年東アジア選手権代表に選出。現在は、ピラティス、ウエイトトレーニング、筋緊張抑制などを組み合わせたコンディショニング&ボディメイクを行うパーソナル指導を中心に活動中。
取材・文:藤村幸代 撮影:中原義史