「そもそもピラティスとは?」株式会社Aulii代表、そしてDK Pilatesマスタートレーナーの辻茜さんに、ピラティスをすることで機能面や身体面などにどのような変化があるのかお聞きしました。また、マシン&家でも実践できるピラティスをご紹介します。
[初出:『Yoga&Fitness』vol.12]
動きから機能性を習得する学習法
ピラティスとは、実は「エクササイズ」ではありません。どのようにしたら身体を機能的に動かせるようになるか、自分の頭と身体とを連携させて習得していくための学習法です。
便宜上、一つひとつのワークに対して名前をつけて「このエクササイズは……」という表現を用いて解説を進めていくこともあります。しかし、運動そのものを目的としているわけではないのです。すべての動作過程に対して、意識的に脳から指令を出すことで動きをコントロールしていくことを目的としたメソッドです。
ピラティスで実践する動きには、特に関節を安定させる役割をもつ骨格筋にアプローチする局面が多くあります。それによってヨガやそのほかのスポーツシーンにおける怪我の予防や、競技におけるパフォーマンスアップにつながっていきます。もちろん日常生活においても、たくさんの変化が感じられるはずです。なかでも、昨今ピラティスに求める変化として最も多いのが姿勢改善です。
私たちの骨格は骨盤を軸に脊柱が上、脚が下に伸び、最上部には頭蓋骨が乗っています。ボディメイクの世界などでよく言われる「体幹」「コア」に値するのが骨盤・脊柱(・頭蓋骨)であり、その中心を為す脊柱に対して状態が整うようなアプローチをしていくことが実際に多いため、ピラティスの効果として姿勢改善が謳われる傾向にあるのだと思われます。
マットとイクイップメント
ピラティスには2種類のワークがあります。マットの上で身ひとつで行うマットピラティスと、専用装置(イクイップメント)を用いたマシンピラティスです。それぞれが異なる目的をもっているわけではなく、いずれも求めるのは機能的な動作の学習と習得です。
そのうえで大きな違いとして挙げられるのは、イクイップメントでは各種スプリングを用いることで動作に抵抗をかける(=身体に負荷を与えることができる)点です。抵抗をかけることで、何ができるようになるかというと……。
動かしにくくなっている部分に関しては、動きを誘導してもらうことによって本来のスムーズな動きを取り戻していくことができます。筋肉量が足りない部分に関しては、必要なぶんのトレーニング効果をもたらしますし、左右同レベルのスプリングを用いたときに「動きやすい」「動きにくい」を感じることで、左右差の存在に気づくことができます。
ときどき「ピラティス初心者はマットから」との言葉を耳にしますが、少々注釈が必要です。用意するものが少なく、実施場所を選ばずに行えるため、マットのほうが着手しやすいという側面は確かにあります。しかし、マットのほうがワークのレベルが低いということはありません。むしろ、イクイップメントを使えばスプリングにより誘導されてコントロールできる動作を、マットではすべて自分の意識で行わねばなりません。
マットとイクイップメントを実施する推奨順などが定められているわけではなく、自由です。ただ、マットにはメソッドの創始者であるジョセフ・ピラティス氏が考案したオリジナルワークがあり、それらをオーダー通りに実施していくことでメソッドの目的は達成できると言われています。
ということを踏まえて、あえて使い分けに言及するとすれば、マットで身体の機能面の現状確認と動作を学習しつつ、イクイップメントで細かな部分の気づきや修正、強化、コントロールの確認などを行なっていく、といったところでしょうか。
ピラティス実施による身体の変化
ピラティスを始めて20年以上経ちますが、続ければ続けるほど身体の動きがスムーズに動けるようになっていると感じます。これは、私の実体験を通じてもお伝えしたいと思う大きな変化です。
私はもともとバレリーナとして活動していたため、柔軟性には自信がありました。しかしピラティスに出合ったことで、自分の柔軟性は関節に負担をかけて無理に出していたものだと気づきました。学びを経て、骨格筋を活かしたコントロールのもとで正しく柔軟性をあげていくことができるようになり、長年悩まされていた慢性的な身体の痛みからも解放されました。正直、バレエ現役時代よりも今の身体のほうが心地よいです。
特別な運動習慣がない人が感じる大きな変化としては、今までは筋肉のパワーを使ってグッと力んで動いていたのが、エロンゲーション=身体を引き伸ばしながらしなやかに動作するほうへと切り替わることだと思います。慣れない動きに、ただ「キツい」と感じるのではなく「でも身体が伸びて気持ちがいい」と感じられるようになっていく変化の過程をぜひ味わってほしいです。
セッションの構築
セッションは、熟練度に合わせてレベルを分けて考えることはありますが、上級者だから毎回イクイップメントから始めるというようなルールは存在しません。基本的には、その日の心体の状況に合わせて内容を構築していきます。決めているのは、状態を観察する目的で必ず呼吸から入るということ。
ピラティスでは「呼吸は身体の大掃除」とされ、体内に酸素を取り入れることで血流がまわり身体が動きやすい状況になるばかりか、心のリラクゼーション効果もあります。深呼吸を深めることによって、不要な緊張を解き放つことができます。まず始めに、呼吸を通じて状態を整えてから本編に入っていく。この辺りの流れはヨガとも通ずるものを感じていただけるかと思います。
初心者にオススメピラティスで機能改善!
ピラティスを始めた方も取り組みやすいオススメのピラティスをご紹介 !マシンとマットの両方ご紹介しますので、ぜひ実践し継続してみてください。
ウエストを引き締める
ボウアンドアロー
長座で座り、両腕を鎖骨から伸ばすように広げる。
みぞおちからツイスト。このとき、腕が先行しないように注意。
point
捻るときは腰部と胸部の中間、みぞおちのあたりから。
マシン
スタートポジションを取ったら、肩肘を引き寄せて曲げると同時に上体をツイスト。反対の腕は、引き寄せる力に抵抗するように前方へ。
check
常に腹圧を意識。抜けてくると骨盤と脚が動作するたびにズレてくるので、注意を。
脊柱・体幹の伸展、姿勢改善、肩周辺の安定
コブラ
スタートポジションを取ったら肩甲骨から動作し、床を手で押し込む。胸椎を伸展させて背骨を長く伸ばす。上がるときは息を吸い、戻すときは息を吐く。マシン同様、背骨一つひとつを丁寧に動かすこと。
check
手で床を押し込むと、手首・肘・肩関節に余計な負荷がかかる。肩甲骨からの動作を大切にする。
NG
腹圧が抜けると、腰部と首だけで反りがち。腹圧を高めた状態を保ち、必ず胸から伸展させること。
マシン
①スタートポジションから息を吸い、胸郭の広がりを感じながら胸椎を伸展させ、背骨を長く伸ばす。
②③胸椎伸展と合わせて骨盤を前に押し出すようにして、キャリッジを動かす。元に戻すときは、息を吐きながら。背骨一つひとつを丁寧に動かすこと。
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キャリッジを動かす際、フットバーにかけた手や肩を使って手繰り寄せないこと。
辻茜(つじ・あかね)
株式会社Aulii代表取締役。幼少よりクラシックバレエを始め、松山バレエ学校、同バレエ団を経て、パリに留学。その後渡英。Vienna FestivalBalletにてソリストとして活躍中のケガを機にピラティスに出会う。渡米し、ピラティスをDolly Kelepeczに従事。ネバダ州立大学公認 DKBody Balancing Pilatesを取得。一人一人に合わせたオーダーメイドのクラスを行い、ピラティススタジオの他、行政、企業、バレエスタジオ等でもワークショップするなど、一般の方からダンサー、アスリートまで丁寧な指導を行う。
取材・文:鈴木彩乃 撮影:中原義史
-ピラティス, ヨガ
-ピラティス, 辻茜, 自宅でできる身体を整えるピラティス