ホルモン

筋トレは45分以内が効果的!ストレスホルモン「コルチゾール」とは?

身体づくりを効率よく行うためには何が必要なのか。このことについては経験論から科学的な研究に至るまで、様々なものが検証されてきた。中でもコルチゾールについては、多くのボディビルダーたちが強い関心を寄せている。いわゆる「コルチゾールは敵か? 味方か?」という話題だ。そもそも、どうして高強度のトレーニングを行うと、コルチゾールの体内での分泌が活発になってしまうのか。ここでは、コルチゾールが筋発達にどんなインパクトをもたらし、私たちはこのホルモンとどのように付き合っていけばいいのかを解説していきたい。

<本記事の内容>
コルチゾールとは?
コルチゾールが高いとどうなる?
コルチゾールが低いとどうなる?
コルチゾールによるカタボリック反応
コルチゾールを抑える筋トレのコツ
●45分以内に終わらせる
●セット間の休憩は長めに
●有酸素運動はオフ日に
●夜間の筋トレ
コルチゾールをコントロールする
●コーヒーの代わりに紅茶
●コルチゾールをコントロールするためのサプリメント
●睡眠

生きるためのコルチゾール

コルチゾールは、副腎皮質で作り出されるグルココルチコイド(糖質コルチコイド、ステロイドホルモン)である。身体の多くの細胞には、コルチゾールの受け皿となる受容体が存在していて、この受容体に結合することで様々な働きをすることがわかっている。

例えば、コルチゾールは体内のアドレナリンレベルを上昇させる。これは、コルチゾールがノルアドレナリンをアドレナリンに変換する酵素(PNMT:フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ)に働きかけるからだ。

体内でアドレナリンが上昇すると以下の事柄が起きる。

①エネルギーレベルの上昇
②集中力の向上
③心拍数の増加と血圧の上昇
④筋収縮による筋出力の増加
⑤血流量の増加(それによって筋肉やその他の組織に、活発に酸素が運搬される)

特に身体にストレスがかかると、副腎皮質からコルチゾールが分泌される。コルチゾールには、体内に貯蔵されているエネルギー源を利用しようとする働きがある。そのため、筋肉が分解されやすい環境になるのだ。

血糖値が下がりすぎているときなども、コルチゾールの分泌量は増加する。ここでのコルチゾールは、貯蔵されているグリコーゲンを血中に放出させ、血糖値を正常レベルまで高め、それを維持しようとするのだ。

「逃げるか戦うか」そのような究極の選択が求められるような状況に直面すると、コルチゾールのレベルは上昇する。究極の選択と言うのは大げさかもしれないが、要はストレスがかかることで、コルチゾールの分泌のスイッチがオンになるのだ。

そしてアドレナリンのレベルが増加し、前述した①~⑤のような反応が起きる。体はそれらの反応を起こすことでストレスに対処しようとするのだ。

何千年にも渡って人間が子孫を残してこられたのは、コルチゾールが必要に応じて体内で分泌され、それに呼応して様々な反応が起きたからなのだ。そう考えると、コルチゾールは決して迷惑な物質ではないと思えてくるはずだ。

高値のコルチゾール

ストレスは避けられないものだが、長期間続くものでなければ問題はない。避けたいのは長期にわたって強いストレスがかかり続ける状態だ。慢性的に強いストレスにさらされると、血液中に放出されるコルチゾールのレベルが常に高い状態で維持される。これは健康にとっては有害であり、以下のような懸念がある。

●高血糖
●骨密度の低下
●甲状腺機能の低下
●皮膚の変化(アザや紫色のストレッチマークができやすくなる)
●筋量の減少
●高血圧
●クッシング症候群(高血糖、喉の渇き、頻尿など)

低値のコルチゾール

コルチゾールが低値になるケースもあるが、あまり一般的ではない。コルチゾールが低値になるのは、たとえば副腎皮質の機能不全など、アジソン病を患っている場合に見られる症状だ。めまいがしたり、感情の起伏が激しかったり、倦怠感や筋力低下、体重減少、皮膚の黒ずみなどが見られるようなら、病院で診察を受けたほうがいいだろう。治療可能な状態なので心配する必要はないが、できるだけ早めに医師の診断を受けて治療しよう。

コルチゾールの変動

コルチゾールのレベルは一定に保たれているわけではなく、一日の中で変動している。一般的には、朝はコルチゾール値が高く、夜になると低値になる傾向がある。日中は仕事や学校、人間関係のストレスなどによって高値になることがあり、他にも運動や食事、体調などによってもコルチゾールは増減する。コルチゾールは免疫機能とも関連している。強いストレスを抱えている人が風邪などの感染症にかかりやすいのはそのためだ。コルチゾール値が高いと免疫機能が落ちるので、菌やウィルスなどに感染しやすくなるのである。

コルチゾールによるカタボリック反応

最近のアスリートなら、コルチゾールという言葉に対しては、真っ先に「カタボリック」を連想するのではないだろうか。テストステロンはアナボリックなホルモン、それに対してコルチゾールはカタボリックなホルモンであると理解されているようだ。ちなみに、カタボリックとは異化分解のことで「壊す」という意味を持っている。

ワークアウトを行っている最中はコルチゾールが優位になる。運動による負荷がストレスになるので、コルチゾール値が上昇するのだ。ワークアウト中にコルチゾールが分泌されると、筋中からエネルギー源が取り出され、それによってさらに運動を継続することが可能になる。

ワークアウトを終えた後は、積極的にタンパク質や炭水化物を摂取して、枯渇したエネルギー源を再貯蔵する。これによって身体はアナボリックな環境になり、筋発達が起きるのだ。

こうしてみると、テストステロンと同じようにコルチゾールもまた、筋発達反応を起こすために必要なホルモンだということがわかる。

それでも、ボディビルダーはコルチゾール値が高くなるのをできるだけ避けようとする。しかし、それも無理のないことかもしれない。

というのも、ワークアウト中、運動のためのエネルギー源を得るために、まずは血中の糖が消費され、次に筋中に蓄えられているグリコーゲンが消費されていく。やがてそれも枯渇してくると、副腎皮質からコルチゾールが大量に放出される。

ここで分泌されたコルチゾールの働きで筋中の組織が分解され、蓄えられていたアミノ酸が取り出される。このアミノ酸は肝臓に送られ、糖が作り出される。いわゆる糖新生が起きるのだ。

このシステムのおかげで血糖値が下がりすぎないように保つことができるのだ、ボディビルダーにとっては、筋肉からアミノ酸が取り出されるというのは我慢がならないのだ。

しかし、筋発達のスイッチを入れるためには、ワークアウトは必須だ。ワークアウトはやりたいがコルチゾール値は高めたくない。では、どうすればいいのだろうか。

コルチゾールを抑えるトレーニングのコツ

ワークアウトでコルチゾールの分泌が高まってしまうのは避けようがない。それでも、できるだけ高値にならないように以下の事柄を頭に入れておくといいだろう。

45分以内に終わらせる

ボディビルダーの多くは高強度トレーニングを積極的に行っていると思うが、ワークアウト時間が45分を超えないようにしたい。

高強度トレーニングは、テストステロンやインスリン様成長因子1、成長ホルモンといったアナボリックホルモンのレベルを高めてくれるが、高強度だけにストレスも大きく、そのためコルチゾールの分泌量も増加してしまうのだ。

ただ、忘れてはならないのは、コルチゾールには脂肪細胞から脂肪酸を取り出して消費するのに貢献する働きもある。そのため、身体づくり目指すアスリートにとって、コルチゾールは一概に「ダメなホルモン」とは言えないのである。

それでも、高強度トレーニングを行うなら45分を限度にたいところだ。それ以上行えばインスリンの分泌が促され、取り出された脂肪酸が再び脂肪細胞に送り込まれる可能性が高まってしまう。

セット間の休憩は長めに

トレーニングの目的は人それぞれだが、ホルモン分泌の力関係から言えば、セット間休憩は3~5分ほど取るのが良さそうだ。

セット間の休憩時間が長くなるとテストステロンの分泌が促され、一方でコルチゾールは抑制されると言われている。

有酸素運動はオフ日に

高強度トレーニングを行う人は、有酸素運動はワークアウト後ではなくオフ日に行うようにしたい。

高強度トレーニングと有酸素運動を同じ日に行うと、体内での炎症が大きくなると考えられ、炎症が大きくなればコルチゾールの分泌が高まってしまうことになるからだ。

夜間のワークアウト

コルチゾールは1日の間で変動しているが、夜になると低値になる傾向がある。夜にワークアウトする人はその恩恵を受けていると考えていいだろう。つまり、夜のワークアウトであればコルチゾールがもともと低値なので、朝のワークアウトよりも総合的にコルチゾールのレベルを抑制した状態を保つことができるはずだ。

コルチゾールをコントロールする

ストレスがかかるとコルチゾールの分泌は増加する。逆に言えば、ストレスをコントロールできれば、コルチゾールのコントロールも可能ということなのだ。そのためにも以下の事柄をぜひ参考にしてほしい。

コーヒーの代わりに紅茶

多くの人が、ストレス緩和やリラックスという目的でコーヒーを飲んでいる。しかし、次のような事実もあるので覚えておくといいだろう。

研究によると、コーヒーをわずか2杯飲むだけでもコルチゾールは増加するそうだ。コルチゾールを少しでも抑制したいという人は、コーヒーを一日に1杯に制限したり、ハーブティ-など他の飲み物に切り替えたほうがいいかもしれない。

ロンドンの大学では、75人の被験者が6週間にわたって毎日4杯の紅茶を飲み、50分間の高強度運動を行うという実験が行われた。

その結果、被験者のコルチゾールレベルは47%減少したそうだ。ちなみに、比較対象としてプラシーボ飲料を同条件で飲んだグループでは27%の減少が見られた。

この実験は、紅茶がストレス緩和に役立ったことを示している。しかし、紅茶にもカフェインは含まれているわけで、これはどのように解釈すればいいのだろうか。

どうやら、コルチゾールの分泌を左右しているのはカフェインではないようだ。実際、カフェインの錠剤(カフェインサプリメント)を摂取しても、コルチゾールレベルが高まることはなかったのである。

ではなぜコーヒーはコルチゾールの分泌を促すのか。理由はコーヒーに含まれるカフェイン以外の化学物質に原因がありそうだ。いずれにしても、コーヒーを飲むなら量を減らし、代わりにハーブティーや紅茶を飲むようにすれば、コルチゾールのコントロールに役立つのではないだろうか。

その他のアクティビティ

以下のアクティビティもおすすめだ。いずれもストレス緩和に役立ち、コルチゾールコントロールにつながるはずだ。

●セックス
●メディテーション(瞑想)
●ヨガ
●ブリージング(呼吸法を使った呼吸)
●音楽を聴く

食事

血糖値の低下はストレスになる。だから血糖値が低下するとコルチゾールが分泌され、それによって筋肉の異化分解が進み、糖新生を経て糖が血液中に放出される。そのため、できるだけ血糖値を下げないような食事を心がけたい。

血糖値を下げないためには、炭水化物を適度に食べることが必要だ。ただ、減量中は炭水化物の摂取を制限するわけで、どちらを選択するかはその人次第である。

つまり、血糖値の低下でコルチゾールが高値になっても炭水化物は制限するか、もしくはコルチゾールを高値にしないために炭水化物を適度に食べるか。

目的によってその選択は変わってくるはずなので、個人の判断に委ねるしかないだろう。

いくつかアドバイスするなら、朝はコルチゾールレベルが高いので、朝食では炭水化物を多めに食べるのが良さそうだ。また、ワークアウト直後もコルチゾールレベルは高まっているので、このタイミングで炭水化物を含むタンパク質を食べるのもいいだろう。

サプリメント

コルチゾールのコントロールにサプリメントを活用するなら、以下の成分を含む商品を試してみよう。

●ビタミンD:コルチゾールがノルアドレナリンをアドレナリンに変換する際の作用力を弱める働きがビタミンDにはあるため、アドレナリンによる作用の緩和が期待できる。
また、ビタミンDには疲労感を軽減する作用もあるので、ストレスが大きいと感じる人は積極的に利用するといいだろう。
●マグネシウム:ワークアウト後に摂取することで、身体を落ち着かせるのに役立つ。
●グルタミン:グルタミンにはコルチゾールのレベルを抑制し、異化分解作用を軽減する働きがあることがこれまでの研究で示されている。
●ロジオラ(ハーブ):ロジオラは、コルチゾールレベルを低下させる働きがあるとされるハーブだ。サプリメント商品も多く出回っているので、興味がある人は試してみるといいだろう。
●ニンニク:ニンニクにはコルチゾールを抑制し、テストステロンを高める効果があることが複数の研究で確認されている。
料理でニンニクを使うのもいいが、手っ取り早く摂取するならニンニクのサプリメントを利用するのがいい。サプリメントなら臭いを気にすることなく、しかも毎日定期的に摂取できる。
●ビタミンC:コルチゾールを抑制し、テストステロンを高めるならビタミンCは欠かさず摂取したい。研究では、ビタミンCを十分に摂っていると、体内テストステロンが20%も増加することが示されている。
ビタミンCの身体への働きはコルチゾールの抑制だけにとどまらず、数え切れないほどたくさんある。そのようなメリットを見越して、たとえ過剰に摂ったとしても、ビタミンCは水溶性なので尿中に排せつされる。体内にとどまって毒性を発揮するような心配はない。
●クロミウム:クロミウムには三拍子がそろっていて、血糖値のバランス調整、コルチゾールの高値抑制、体重減少などに役立つとされている。さらにコレステロール値を下げるのにも役立つことが研究で示されている。
●イチョウ葉エキス:中国では漢方薬として古くから用いられてきたイチョウ葉エキスだが、血圧の上昇やコルチゾールの分泌を抑制する働きがあることが多くの研究で示されている。

睡眠

コルチゾールのレベルを下げるために良質の睡眠を十分に取りたい。

GABA(γ-アミノ酪酸)は、睡眠の質を上げるのに役立つ成分とされている。日ごろから眠りが浅く感じる人は、GABAのサプリメントを利用してみるのもひとつの方法だろう。深いレム睡眠が得られるようになり、体内時計を正常にリセットすることが期待できる。

ストレス管理

ストレスフリーの生活を送ることなど、現代社会では不可能かもしれない。それでも、できるだけストレスを溜めず、コルチゾールを極端に高めないようにするための努力はできるはずだ。

様々な要因で気持ちが落ち込んでしまう気うつの状態はコルチゾールを高める。そんなときは瞑想やヨガなどを積極的に行って身体にかかるストレスを緩和し、少しでも気持ちが明るくなるように心がけてみよう。

結論

私たちは筋肉づくりを第一に考えているが、それでも、コルチゾールが敵かどうかを問うことはあまり意味がないような気がする。

そもそも、生体にとって常に有害なものなら最初から備わっていないわけで、ここで解説したコルチゾールの大切な役割を考えれば、完全に、人工的に排除することはしてはならないのだ。

確かにコルチゾールが高値なら筋発達にはマイナスかもしれないが、コルチゾールの役割を理解し、コントロールの仕方がわかれば、必要以上に恐れることはないのである。

ワークアウトを見直し、食事やサプリメントを工夫し、良質の睡眠を心がける。私たちが筋発達を促すために行ってきたことの全てが、コルチゾールのコントロールに役立つことなのである。

文:Verna Fisher 翻訳:ゴンズプロダクション

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佐藤奈々子選手
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