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「超回復」が教えてくれる筋発達のベストタイミング

筋発達というのは思いどおりにはいかないものだ。じれったくて叫びたくなる。しかし、それはみんなわかっているし、経験していることだ。わかってはいるが、どうしても不満が募ってしまうのである。このことは、コンテストに出場する人だけでなく、健康のため、あるいは趣味で身体づくりをしている人にも共通したことだ。誰だって、できることなら目に見える結果を得たいのである。現代人は、とにかくスピード重視だ。だから1分でも早く目的地に着くために特急や快速の電車に乗るし、手早く済ませたいときはファーストフードも利用する。しかし、身体づくりはそういうわけにいかない。努力と忍耐が求められるものなのだ。

文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション

超回復とは何か

超回復については、その言葉ぐらいは聞いたことがあるだろう。超回復は決して難しい理屈ではない。わかりやすく説明すると以下のような感じだ。

まず、現在の自分のフィットネスレベルや筋肉の発達具合を基本のベースラインだとする。当然、目標はこのベースラインよりもできるだけ上にいくことだ。具体的に言うなら、身体能力や筋量を現時点よりも増やすことである。さて、実際にワークアウトを開始してみる。すると、一時的だが身体能力はベースラインよりも下がり、筋力も弱くなってしまう。もちろんこれは当然のことだ。何しろトレーニングというものは筋肉に負荷をかけて痛めつける行為なのだから。

ワークアウトを終えたら、今度は疲労回復を促す。まずは低下した身体能力と筋肉の状態をマイナスからベースラインのゼロにまで戻さなければならない。そのために十分な食事、そして睡眠などの休養が必要になる。マイナスだった身体能力と筋肉の状態がベースラインまで戻り、その後、さらに身体を休ませることで超回復の領域に入る。

この超回復のピークに達したタイミングで次回のワークアウトを行う。この段階では、身体能力と筋肉の状態はベースラインよりもプラスの領域に達しているので、前回よりも強い強度でのワークアウトが可能になる。このサイクルの繰り返しが、超回復を利用した筋発達である。ただ、覚えておくべきことは、ワークアウトを行って、マイナスの領域からベースラインに戻し、さらに超回復の領域に達するまでにかかる時間には個人差があるということだ。

また、長く休めばいいというものではない。休みすぎれば超回復は終了してしまい、身体能力と筋肉の状態は再びベースラインにまで戻ってしまうのだ。そのタイミングでワークアウトを行っても、結局は同じ場所で足踏みをすることになる。それでも、オーバートレーニングに陥る心配はないのでまだマシなのかもしれない。ただ、そんな足踏み状態がいつまでも続けば、トレーニング意欲は低下してしまうだろう。どのタイミングで次のワークアウトを行うのがベストか。それは超回復によって身体能力と筋肉の状態が最もピークに達しているときだ。筋肉の疲労も回復しているので、次のワークアウトを行うにはまさにドンピシャのタイミングなのである。

身体に起こる3段階の反応

筋発達を促すための超回復の理論には、汎適応性症候群が反映されている。汎適応性症候群は、カナダの物理学者、ハンス・セリエ博士によって1936年に初めて紹介された。博士によると、ストレスがかかると、身体は以下の3つの段階を経て反応を起こすという。
■第1期:警告期
身体にストレスがかかったことで、体内では様々な変化が起き始める。例えば内臓の不調、体温の低下、組織によっては萎縮が起きる場合もある。これらの反応は、ストレスがかかっていることを体のあちこちに警告するためのものだ。筋発達に関連させるなら、対象筋に強い負荷がかかり、筋線維がダメージを負い、筋力が低下し、筋肉痛が起きるなどの反応がこの時期に相当する。
■第2期:抵抗期
身体はストレスにやられっぱなしではない。ストレスに対抗しようと抵抗力を少しずつ高めていく。抵抗力が高まることで、不調だった内臓も正常に機能するようになり、警告期に起きていた変化も緩和されていく。筋発達に関連させるなら、筋肉がストレスに対して抵抗できる状態になったということ。つまり、筋力が増し、筋量が増えている時期である。
■第3期:疲弊期
ストレスに対して身体が十分に抵抗できている間は問題ない。しかし、強いストレスが継続してかかり続けると、身体の抵抗力は徐々に弱まっていく。そのうち、ストレスのほうが抵抗力に勝るようになると、警告期に起きたような反応が再び起きるようになる。筋発達に関連させるなら、高強度のトレーニングを長期間にわたって続けていると、いずれ疲労回復が十分に行われなくなる。その結果、オーバートレーニングになって様々な不調が見られるようになる。超回復の目的は、簡単に言うとこういうことだ。筋肉にかかる負荷が適切なら、筋肉はその負荷に抵抗することができ、さらに適応することができる。つまり、筋発達が起きるのは、先の汎適応性症候群で言うなら第2期の抵抗期である。この抵抗期をできるだけ長く維持するために、超回復のタイミングを逃さないようにしてトレーニングを続けていく。これが筋発達を得るための最も効率のよいトレーニングだと言える。

超回復までの期間

前回のワークアウトから次回のワークアウトまでに、どれだけの日数を空けるべきかは個人差がある。つまり、超回復を得るまでの時間は人それぞれ異なっているため、一概に答えを出すことはできないのだ。しかし、先に解説した「疲弊期」に入ってしまうのはできるだけ避けたい。そうすることでオーバートレーニングを避けられるし、ケガの予防にもつながるからだ。

超回復までにどれくらいかかるかは、ワークアウトの量や強度によって変化するものだ。実際に行ったワークアウトと自分の疲労回復能力を考慮して、次のワークアウトをいつにするかが決められれば理想的だが、これを正確に把握するのは難しい。それでも、試行錯誤を繰り返していくうちに、少しずつそのタイミングが見えてくるはずだ。ちなみに、超回復タイミングがよくわからないうち迷いがちだが、その場合は、無理にトレーニング日を早めてしまうよりもオフ日にしたほうが賢明だ。これはあくまでも一般的なことだが、高強度のワークアウトを行ったら次回のワークアウトまでに3、4日間は空けることが勧められている。

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執筆者:William Litz
カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。


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