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「筋肉は意識してはいけない?」効率的なスクワット、トレーニングを行う方法

「ボディビルダーの筋肉は使えない」という言葉を未だに耳にすることがありますが、結論としては「それは間違いであり、正解である」と言えます。そのように言われる理由は以前にもこの連載で紹介したようにいくつかありますが、その中の一つに「脳は筋肉を意識して動かすことが苦手で、動作単位で身体を動かすことが得意である」ということです。

筋肉は意識してはいけないのか?

ボディメイクの指導現場でよく言われているキューイング(口頭指示)は「上腕二頭筋を意識して」とか「大胸筋の収縮を感じながら」というものがあります。これは、筋肉にとってそのエクササイズの動きに対して必要以上の神経を動員させてしまう原因となります。いわゆる「必要以上の力み」です。また、脳にとって筋肉を意識することは苦手なことなので、筋肉を無理矢理意識することで神経の混乱を起こし、筋肉が固まってしまったり、スムーズに動けなかったり、パフォーマンス(出力)が上がらないという実験結果も報告されています。
それでは、トレーニングにおいて筋肉を意識することは間違いなのでしょうか? 実をいうとそうでもないことが言われています。「筋肉を意識する」と筋電図活動は活発になることが報告されているので、リハビリや局所的な筋肥大には有効だと言えます。
しかし前記のように、動作に必要のない神経も動員されるため、力みが生じ身体全体のパフォーマンスは低下するということです。パフォーマンスが低下するということは、筋電図の活動は上がるけど、発揮される筋力は低下してしまうということになります。
もっと具体的に言うと、ベンチプレスの際に、大胸筋を意識すると筋電図活動は活発になるが、高重量は挙がりにくくなるということです。トレーニングを行ったことがある方なら、誰でも思い当たる節があるのではないでしょうか? 以上をまとめると
①筋肉を意識すると筋肉の活動が上がる(筋肥大や筋のセパレーション、デフィニションを獲得することに有効)
②筋肉を意識せずに動きに焦点を置くと、筋出力が上がる(筋力向上に有効)ということが言えると思います。
よくインターネット上で議論されている、高重量を扱った方が良いのか? 重量ではなく筋肉を意識した方が良いのか?という質問に対しては、スポーツパフォーマンス向上が目的であれば前者であり、ボディメイクに関しては筋肥大、筋力の両方が必要であることから、両方必要であるということが言えると思います。つまりどちらの意見も間違いではなく、目的によって変わるということです。
以上のことからも、冒頭で述べた「ボディビルダーの筋肉は使えない」ということも、ただ単に優先順位の問題であると言えます。少々前置きは長くなりましたが、この連載はファンクショナルトレーニングについてのものなので、今回は前者の動きを意識して、スポーツに特化させた『バーベルドロップスクワット』について紹介していきます。注意点は
①ゆっくり行うのではなく、反発を利用して素早く立ち上がる。
②筋肉を意識するのではなく、動きを意識する。
③立ち上がった際は身体を直立させる。
という以上の3点です。それでは解説していきましょう。

バーベルドロップスクワットの行い方

最初にバーを担ぎます。このときのバーの位置は首のすぐ下、いわゆるハイバーです。そのまま骨盤を直立させ真っすぐに立ちます(写真1)。このとき、骨盤底と横隔膜の位置を平行にすることで、腹腔内圧がかかります。写真2のように腰を反った姿勢は腹腔内圧がかかりにくいので、腰が緊張して身体が硬くなる原因になります。
その姿勢から重力でバーベルが落下するように自然にしゃがみ込みます(写真3)。スピードは重力に逆らわず、自然にしゃがみこめるスピードで行います。ボトムポジションに来たら止まらずに筋肉の張力を利用して、反発をもらって素早く立ち上がり、スタートポジションの位置に戻ります。イメージは足が宙に浮かないジャンプです。
このスクワットは「筋肉は一度引き伸ばされてから素早く強い力を発揮する」というストレッチ『ショートニングサイクル(SSC)』という機能を使います。正しく自然にしゃがむことができると、写真3のように、下腿と体幹が平行のポジションになるのが理想的なフォームになります。写真4のように体幹が必要以上に反ったり、写真5のように身体が倒れすぎていては、これは自然なフォームと言えず必要以上に筋肉に負荷がかかった「必要以上の力み」が生まれる姿勢になるので注意が必要です。
筋肉を意識するボディメイクに重点を置いたスクワットは、筋肉に血液が滞留して、身体が一時的に重く感じるのに対して、このドロップスクワットを行った後の身体は軽くなります。なぜなら腹圧が上がり、筋肉の自然な収縮(SSC)で筋肉の中の不要な老廃物(乳酸)が除去される効果があるからです。動いても疲れがたまらず、正しく動くことで逆にパフォーマンスが向上する。
これがスポーツにとって必要な動きの要素で、機能的なスクワットのメカニズムと言えます。同じスクワツトでも目的によってフォームやスピードを変えることも必要になってくるのではないでしょうか?


著者プロフィール
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/NSCACSCS/NPO法人JFTA理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF全日本ボディビルディング選手権6位。

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