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鈴木雅×桂良太郎 ボディメイク業界に警鐘 「骨格」や「素質」という言葉で問題を解決したり逃げたりしがち 必要なのは何か?

鈴木雅×桂良太郎身体の調子を整えるコンディショニングは、アスリートに限らず一般の方にも有効である。そして当然、ボディメイクを志す者にも価値のある情報は多い。今回は、コンディショニングの重要性を日頃から発信しているお2人に、コンディショニングの観点からボディメイクについて考えていただいた。
取材:舟橋位於 撮影:木川将史 取材協力:Best Performance Laboratory [初出:IRONMAN2024年4月号]

発売中の『IRONMAN2024年4月号』に掲載の【鈴木雅×桂良太郎 ボディメイク業界におけるコンディショニングの「誤解」と「重要性」】より、インタビュー内容をお届けします。

【写真】ボディビル元世界チャンピオン・鈴木雅選手の現役時代の肉体美

ボディメイク業界におけるコンディショニングの現状

鈴木雅選手

──桂トレーナーと鈴木さんは個人的に親交があるそうですが、お2人が最初に知り合ったのはいつごろのことなのでしょうか。

桂 私の記憶にあるのは、ゴールドジムに勤めていた2003年のことです。多店舗のトレーナーが1箇所に集まって、技術や理論の研修を受ける機会がありました。そこで鈴木さんを拝見したのが初めての出会いです。それまでに、「鈴木くんというデカい人がいるよ」という噂は聞いていたのですが、実際に会ってみて、とんでもなくデカい人だなと思ったのを昨日のことのように覚えています。

鈴木 私も同じタイミングだと記憶しています。社員の数はそれほど多くなかったので、目立つ人は目立っていたような気がします。

──初めての出会いから、現在に至るまでにどのような交流があったのか教えてください。

鈴木 桂さんのことは、桂さんがゴールドジムを辞めてからも気にしていました。トレーナーとして活躍して、どんどん上に行ってしまったように感じています。私自身はどちらかというとプレイヤーの道へ進んで行った感じです。

桂 この20年くらいは、ジムでお互いに挨拶をし、少し立ち話をするような関係でした。大会が終わるたびに声掛けもしていました。

──20年来のお付き合いがあるということには驚きました。 続きまして、ボディメイク業界のコンディショニングの現状についてお聞きしたいと思います。お2人の目には、現在のボディメイクはどのように映りますか。

鈴木 ボディメイク業界だと、筋肉の緊張を取ることやマッサージがコンディショニングだと思われがちです。静的ストレッチに関しても、出力が下がるという面を意識して、実施しない人も多いです。アスリートのコンディショニングは、最大限にパフォーマンスを出すためのものであるべきなのですが、そこまで考えが至ってはいないのではないかと思います。

──コンディショニングを考える場合は、トレーニングだけでなく他の要素も総合的に満たす必要があると思います。これはボディメイク業界には足りていますか。

鈴木 全体的に足りていないと思います。栄養を例にするならば、「この栄養素を摂ればこれが良くなる」という単純な概念が強くあります。栄養素にはどういった働きがあるかまで考えている業界ではないです。経験による情報や掴みやすい情報が先行し、深いところまで考えが及んでいないイメージです。プレイヤー側からの情報はたくさんあるのですが、そこに20年くらいは、ジムでお互いに挨拶をし、少し立ち話をするような関係でした。大会が終わるたびに声掛けもしていました。

──20年来のお付き合いがあるということには驚きました。 続きまして、ボディメイク業界のコンディショニングの現状についてお聞きしたいと思います。お2人の目には、現在のボディメイクはどのように映りますか。

鈴木 ボディメイク業界だと、筋肉の緊張を取ることやマッサージがコンディショニングだと思われがちです。静的ストレッチに関しても、出力が下がるという面を意識して、実施しない人も多いです。アスリートのコンディショニングは、最大限にパフォーマンスを出すためのものであるべきなのですが、そこまで考えが至ってはいないのではないかと思います。専門家の意見が加わった議論が進んでいない印象です。ボディメイク業界では何かを言い切る人が多いですが、もっと広い視野で物事を考えた方が良いではないのかと思います。

──鈴木さんのお話を踏まえて、桂さんはボディメイク業界についてはどのように考えますか。

桂 私は様々な競技のプロアスリートやオリンピック日本代表選手のコンディショニングを担当することが多いのですが、トップアスリートを取り囲む環境には、ドクター、メディカル、コンディショニングコーチ、ストレングスコーチ、メンタルコーチ、栄養士、アナリストなどからなるチームが存在します。そして、これらの多業種の専門家が協業して選手のサポートにつきます。ボディメイク業界にはこのような高度専門家による多業種連携という形があまりないため、さまざまな専門家の意見を聞く中で自分のリテラシーを向上させる機会を持つことが比較的難しいのではないかと思います。自分の師匠とする方の意見だけを盲信してしまう状況になりやすいようにも思います。そこには、アスレティックトレーナーという立場からスポーツ医科学的に観て、懐疑的にならざるを得ないアプローチも少なくはありません。

ボディメイクに限った話ではないですが、現状を正しく把握した上で目標に向かうということが大切です。カーナビと同じで、現在地が分からなければ、目的地に正確に辿り着くことはできません。まず、現在の自身の身体はどのような「機能不全」を有しているのかを最初に把握することが必要です。「痛みがないからトレーニングしても大丈夫」ということではありません。病院で診察をせずに薬をもらう人はいないのに、トレーニングに関しては、適切な動きの評価なしにトレーニングを始めてしまう人が本当に多いと思います。結果的に、潜在的な機能不全を見逃してしまい「トレーニングの中で身体を痛めてしまう」、「なぜかこの部位には効きにくい」といった事象が発生します。「ウエイトトレーニングをするための身体の準備ができているのかを最初にスクリーニングする」ということが、コンテストに勝つためにも、健康的にフィットネスを続けるためにも重要なのです。

──他競技では、専門家の意見を聞く機会が多いとのことでした。ボディビルのトップにはこのような思想はあると思われますか。

鈴木 今でこそ、色々な情報をキャッチしたり自ら学びに行ったりする選手も現れてきていますが、その割合は少ないと思われます。このことは、環境面が充実していないことと、個人の意識が足りないことの両方によると感じます。新しいことを吸収するには、それまでの自分を否定して、変わっていく必要があります。私自身は、今の知識がある状態でプレイヤーに戻れたら、もっと効率良くできるのではと思っています。

──鈴木さんが色々な情報を受け入れるようになったきっかけはどのようなところにありましたか。

鈴木 単純に、もっと筋肉に対しての強度を上げたいと思ったことです。ケガをしないようにトレーニングしたいということや、効かせられないところに効かせたいということもありました。そうすると、身体のことを知ると同時に、自分の動きも変えていかないといけなかったです。

──桂さんは、どのようなタイミングでトータルコンディショニングが大事だと気づかれましたか。

桂 2007年に渡米した時の経験が、コンディショニングや機能的アプローチに目を向けた最初のきっかけでした。最大筋力の向上や筋肥大はパフォーマンスを高める上でもちろん重要なことではありますが、それ以前に、大前提として身体に備えていなければならないもっと重要な機能がある、ということを知りました。いわゆる運動制御理論や非線形運動学習理論などの動作習得や身体操作における最も根源的な学問との出会いです。スペインのサッカーチームバルセロナやイングランドサッカー協会をはじめ、現在世界の様々なスポーツの団体や協会では、これらの理論に基づく様々なコンディショニングガイドラインが策定されているほどになっています。

──お2人のお話から、視野を広く持ち、さまざまな意見を吸収することが大事だと分かりました。

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