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運動能力を飛躍的にあげる!ハイクリーンの正しいやり方とその効果【動画解説付き】

アスリートにとっては必須のトレーニング種目といえる「クイックリフト」。競技パフォーマンスアップに直結するトレーニングであるが、専門的な指導者があまりいないこともあって技術や知識が普及しておらず、まだまだ実施している選手が少ないのが実情だ。ここでは、短期集中連載で2015年全日本ウエイトリフティング選手権大会77kg級チャンピオンの本間智也コーチがクイックリフトの実践方法を解説。第1回目となる今回は基本種目である「ハイクリーン」。

取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 取材協力:Black Ships

1.クイックリフトとは?
2.ハイクリーンのフォームの作り方
3.一連の動作とそのポイント
4.正しい軌道とエラー動作

クイックリフトとは

一般的に「トレーニング」といいう言葉を聞いて連想するのはスクワットやデッドリフト、ベンチプレスなどの種目だと思います。それらは「筋力」を高めるためのエクササイズですが、競技パフォーマンスで求められるのは瞬発力や爆発力といった、いわゆる「パワー」と呼ばれるものです。

例えば、ベンチプレス100 kgを1回挙げられる人がふたりいたとします。ひとりは100kg1回を挙げるのに0.5秒、もうひとりは1秒かかるとしたら、「筋力」は同じでも、「パワー」は0.5秒で挙げられる人のほうが強いということになります。
つまり、「パワー」とは「筋力」にスピードや身体の連動性などの要素が掛け合わさったもので、速く走ったり、高く跳んだり、遠くへ投げたりといった競技パフォーマンスで求められるのが、この「パワー」です。

そうしたパワーを効率よく高められるトレーニングが、今回紹介する「クイックリフト」です。オリンピック種目の「ウエイトリフティング」には、クリーン&ジャークとスナッチの2種目があります。バーベルを瞬時に頭上まで差し上げるウエイトリフティングは、まさに爆発力の塊のような競技です。その2種目の動きを分解して、トレーニング種目に落とし込んだものが「クイックリフト」です。

クイックリフトではもちろん筋力も向上しますが、主に養われるのは下半身から上半身に連動させる爆発力、簡単に言えば「重たいものを楽に挙げる身体の使い方」です。少ない力で大きな推進力を生むのがクイックリフトであり、実施することで効率の良い身体動作を獲得することができます。

そのベースとなるのが「地面から力をもらう」ことです。これはあらゆる競技に当てはまることだと思いますが、人間は地に足をつけて、そこから力をもらっています。例えばボクシング。腕だけを振るパンチと、足で踏み込んで打つパンチ。どちらのほうが破壊力があるか、答えは明白です。

そうした力を地面からもらうためには、しっかりと重心を下半身に落とし、「下半身→上半身」の順番で力を連動させていく必要があります。ここで上半身が力んでしまうと、下半身から伝わってきた力にブレーキがかかり、推進力につなげることはできません。ピッチャーも、上半身がガチガチな状態では速い球は投げられません。

つまり、全ての競技パフォーマンスの根本となる身体の動かし方を習得できるのがクイックリフトです。やや乱暴な表現になるかもしれませんが、個人的にはアスリートにとっては必要不可欠なトレーニングだと思っています。

実際に、私自身もウエイトリフティングをやって身体能力が爆発的に向上しました。高校に入ってからウエイトリフティングを始めたのですが、入学して最初の体力測定では立ち幅跳び2m、垂直跳び50㎝弱、50m走7秒ほどだったのが、3年生のときには立ち幅跳び3m、垂直跳び90㎝、50m走6秒ジャストまで伸びました。こうした効果を体感できる楽しさがクイックリフトにはあります。

ただ、クイックリフトに「難しい」「危なそう」といったイメージを持たれている方もいるかと思います。また、頭上でシャフトをキャッチするには肩周りの柔軟性が必要であるため、「身体が硬くなってから行うのは無理」「トシを取ってからでは始められない」と思っている方も多いでしょう。

私のパーソナルトレーニングのお客様には40代、50代になってからクイックリフトを始められたお客様もたくさんいらっしゃいます。確かにみなさん、始めた当初は肩周りがガチガチになっていました。クイックリフトで重要な筋肉は僧帽筋です。僧帽筋の柔軟性が損なわれると、肩が上まで回らなくなります。

しかし、クイックリフトを行っているうちに次第に柔軟性が出てきて、ずっと肩の痛みに悩まされていたのに「ウエイトリフティングを始めて肩の痛みがなくなった」という方もいらっしゃいます。クイックリフトはケガの予防にも役立つのです。

だから、「難しそう」と構えずに、まずは始めてみてください。日本にはまだクイックリフトを専門的できるトレーナーが少なく、フィットネス業界にも正しい技術や知識が広まっていないっていうのが現状ですが、信頼できるトレーナーのもとで教われば、これほど楽しいものはありません。

今回の連載ではハイクリーン、スナッチ、ハイプルを紹介します。「クイックリフト」にもたくさんの種目があります。その中でも、初心者の方でも入りやすいのがこの3種目です。3種目とも、根本的な身体の使い方は同じです。「重たいものを楽に挙げる身体の使い方」を養えます。

私は高校のころからウエイトリフティングを続け、いまだに飽きることがありません。今も指導者として、日々研究を続けています。シンプルな動作の中に追求すべくポイントがたくさんあり、終わりが見えません。この「終わりが見えない」ところもクイックリフトの魅力です。まさに“沼”です。読者のみなさんもこの連載を機に、どっぷりと沼にはまっていただければと思います。

ハイクリーンのフォームの作り方

①足幅を合わせる

個人差はあるが、足幅は肩幅より少し広いぐらい

②手幅を合わせてバーを握る

グリップは手のひらに遊びができないくらいの力加減で。「手の中でぶらさげる」というイメージ。強く握ると腕が力んでしまうので注意

グリップについて

始めたばかりのころは親指を上から巻く「オーバーグリップ」で。ただし、このグリップは重たい重量を持つようになると抜けやすくなる。握力の強さを要求されない競技をやっているのならば、ストラップを使ってもOK


慣れてきたら、親指に人差し指、中指をかける「フックグリップ」で。外れにくいグリップではあるが、慣れないうちは親指が痛くなるのでフォームに集中できないというデメリットも

手幅について

手幅は立ち上がったときにバーベルが恥骨より少し下の高さにくる位置に

手幅が広すぎる例。これではバーの位置が高すぎる

手幅が狭すぎる例。これではセカンドプル(次項参照)の局面でバーが恥骨に当たって痛みが生じる

③バーベルを寄せて腰を落とす

自分の方向にバーベルを引き寄せると同時に重心を下げて腰を落として胸を張る。動作中、胸の張りを解く瞬間は一瞬たりとも存在しない。重心は足裏全体に

一連の動作とそのポイント。「けん玉を一番近い軌道で入れる」イメージで「上下の動き」を

①ファーストプル(下半身に力を溜める)

しっかりと胸を張る。この「胸を張る」ことで骨盤がほどよく前傾し、重心を落とせるようになる。重心は足裏全体に。腕はリラックス。腕が力んでいると下半身に重心を落とせない。肩は前に出さない

上半身の姿勢は崩さずに、足裏全体でしっかりと地面をとらえたまま踏み込んで、デッドリフトの要領でゆっくりと引き上げる。これは、ジャンプする際の「溜め」の動作と同様。バーは膝を通過するまではスローに引き上げる

②セカンドプル(真下に踏み込んで真上に伸びる)

バーが膝を通過したら真下に踏み込んで真上に伸びる。股関節と膝関節を伸展させて上方向に爆発させる。身体は後ろにいきすぎないように。あくまで「真下に踏み込んで真上に伸びる」。このとき「股関節で弾いてバーベルを挙げる」と解釈されがちだが、これは股関節が伸展してバーに当たっているだけ。バーの軌道はあくまで鉛直方向で、身体から離れないように。股関節で弾くとバーが身体から離れてしまう

③キャッチ(「股関節に乗せる」イメージでバーをキャッチ)

肩を返して肘を引いてバーをキャッチする。バーを「受け止める」というよりも「股関節に乗せる」。動作全体としては、持ち手から一番近い軌道でけん玉を入れるイメージ

下ろすときは「逆再生」で

正しい軌道とエラー動作

その他の注意点
・パワーラックで行う場合は、バーベルを落とすことができないので「キャッチ」まで行わなくてもよい。セカンドプルまで練習し、プラットフォームなどバーベルを落とせる練習環境で行う際に「キャッチ」までつなげていく
・シューズは必ずしもカカトの高いウエイトリフティングシューズでなくても大丈夫。ただしウエイトリフティングシューズのほうが地面をとらえやすい
・扱う重量はレベルに応じて。始めたばかりで20㎏のオリンピックシャフトが重たい場合は、木製のスティックなどでもよい

スタートでお尻の位置が高い

お尻の位置が高いと膝が伸びてしまい、下半身に力を溜めることができない。すると、上半身で煽って引き上げることになり、バーの軌道が「上下の動き」ではなく「前後の動き」になってしまう

バーベルの位置が離れている

バーベルの位置が離れていると、その距離の分だけ力が伝わりづらくなる。例えばアームカールの動作の場合、身体から肘が離れると同じ重量でも重たく感じるが、それと同様

バーが身体が離れる

バーが膝を超えてから身体から離れると、股関節で弾いて上げることになる。バーは膝を超えてから下半身にしっかりと乗せていくように

肘で引いていない

セカンドプルでは肘でバーを引く。肘で引かないと、返すときに肘が支点になってしまい、バーが身体が離れてしまう。初心者や我流で練習している人にこのパターンが多い。キャッチの際には「バーが降ってくる」状態になり、鎖骨を痛める原因となる。肘で引いて肩を返してキャッチすること

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本間智也(ほんま・ともや)
1986年4月24日生まれ。身長176cm、体重75kg。山形県出身。クイックリフト&ウエイトリフティングコーチ、パーソナルトレーナー。レスリング、競輪、水泳、スキーモーグルなどの日本代表選手の指導も行う。
主な戦績:
2009 アジアウエイトリフティング選手権 日本代表
2015全日本ウエイトリフティング選手権大会77kg級 優勝
自己ベスト スナッチ146kg クリーン&ジャーク180kg
トレーニングに関する質問、依頼などはインスタグラムDMより受付中。
https://www.instagram.com/tomo0117wl/


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。


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