フィットネス HYROX

道がなければ、作ればいい――“義足の冒険家”が切り拓く、HYROXの新たな可能性【HYROX WARRIORS no.27】

世界的に話題のフィットネスレース「HYROX(※)」で活躍する選手に迫るコーナー。第27回は、HYROX Chiba・Adaptive(身体的制約のあるアスリート)部門で、見事準優勝に輝いた鈴木隆太(すずき・りゅうた/44)さんを紹介する。

※「HYROX(ハイロックス)」とは、ランニングとフィットネス種目を組み合わせた新しいスタイルの競技。1kmのランニングと、8種目のファンクショナルトレーニング(機能的全身運動)を交互に繰り返すことで、筋力や持久力だけではなく、さまざまなフィットネスに関する能力が問われる。

【写真】ハンディキャップを感じさせない跳躍の瞬間の鈴木さん
鈴木隆太さん

自ら切り拓く「義足での挑戦」――HYROXへの期待

「HYROXの存在を知った瞬間、直感的に“これは自分が今までやってきたことにピッタリの競技だ!”と感じました」

1kmのランと、ファンクショナルトレーニングを交互に繰り出すフォーマットは、義足であれば聞いただけでも躊躇してしまいそうなところだが、鈴木さんにとっては、まさに自分の培ってきたフィジカルと精神力を試す絶好の舞台だったと話す。

「日本において、義足でこの過酷なレースに挑む人間がまだほとんどいないのであれば、『自分が最初の道を作ろう』という強い決意が芽生えました。不安は全くなく、単純に楽しそうというワクワク感だけでした」

アスリートとして勝ち負けや記録を追求する人も、純粋に限界への挑戦やHYROXの空間を楽しみたい人も、全員が同じフィニッシュラインというゴールを目指して走る。

その一体感とリスペクトに満ちた競技空間の魅力に、挑戦前から強く惹きつけられていた。

工夫を凝らした準備と得意種目での手応え

レースに向けたトレーニングでは、限られた環境のなかで工夫を凝らしながら準備を進めた。

「ウォールボールやファーマーズキャリーはブロックを使って練習することもありました。スクワットやランジは自重やダンベルを使って徹底的に強化していましたが、ほとんどの機材は大会で初めて触れました」

多くの人は、HYROXに出場するためには特別なトレーニングを十分に積まなくてはいけないと勘違いしているが、制限時間がなく、自分の体力に合わせて挑戦できる完走率99%以上のレース。

鈴木さんは義足でありながらも、特別なトレーニングではなく、日頃のトレーニングで培った基礎体力を信じて挑んだ。脚力だけでなく全身の連動性と力強い体幹が求められる種目が多い中、スレッドプッシュとスレッドプルには大きな手応えを感じたと話す。

「漁師経験があるので、仕事でロープを引いたり、非常に重いものを引っ張ったり、引き上げたりする作業を日常的に行っていました。そのため、スレッドプルの『重いものをロープで引く』という動作には比較的馴染みがありました」

スレッドプッシュに関しても、力仕事に加え、普段からバイクに乗っていて、重いバイクを押して動かすこともあるため、『重いものを押す』という動作自体にはそれほど不安はなかったと話す。

「むしろ、レース前に一番心配していたのは、バーピーブロードジャンプとサンドバッグランジでした」

スタート前に訪れた、まさかのアクシデント

バーピーブロードジャンプは、ジャンプして前に進む種目のため、義足の選手にとっては大きな負担となる。

「バーピーブロードジャンプは、両足を揃えてジャンプし、両足を揃えて着地する必要があります。片脚が義足の自分にとっては、単純に跳ぶこと以上に『左右の足を揃えて正確に動作する』ことにかなり意識を使うため、身体的にも精神的にも消耗する種目でした」

また、サンドバッグランジに関しても、義足側とのバランスを取りながら動作することで、健足である右脚への負担が非常に大きくなるため、かなり警戒していたと話す。

「実は、大会当日にウォーミングアップエリアで本番用のサンドバッグを初めて触り、実際にランジをやってみたところ、義足側の太ももが攣ってしまいました」

当初の一番の目標は、タイムや順位ではなく、まず完走。そのため、『100%の力を出し切るレース』から『確実にゴールするレース』に切り替え、レース全体を70〜80%程度に抑えて走り切れるよう、力を配分しながらレースを進めた。

苦しみを凌駕する熱量――仲間と共に駆け抜けた最高の瞬間

それでもレースは苦難の連続だった。特に苦しめられたのは最終種目のウォールボール。

「全身の酸素が枯渇し、足が重くなる局面はまさに自分との戦いでした。それでもキツかった瞬間を含め、レース中のあらゆる一瞬一瞬が『楽しかった!』と心から思えるものでした」

準備期間におけるコーチとの密なやり取りはもちろん、大会当日にサイドから声をかけ続けてくれた仲間とのやり取りは、精神的に本当に大きな支えとなった。

仲間と一緒に戦っているという実感が、自分の限界を押し広げ、苦しさの先にある達成感と会場の熱気が、その痛みさえも喜びに変えてくれた。

「まだいける」、プロの舞台へ

「過酷なレースを走り切った時、私の心と体に真っ先に湧き上がってきたのは『自分はまだいける』という確固たる手応えと確信でした。

挑戦する前以上にHYROXという競技が大好きになり、自分自身の無限の可能性を再確認することができました」

今後、日本で開催されるHYROXの大会にはすべて出場し、最終的には必ず「プロ」のカテゴリーまで挑戦すると、高らかに宣言する鈴木さん。

さらにその先には、トライアスロンへの挑戦という新たな夢も広がっている。

「これからHYROXに挑もうか迷っている人へ伝えたいのは、『まずは純粋に楽しむ気持ちで、一歩を踏み出してみてほしい』ということです。

冒険は、いつだって最初の一歩から始まります。その一歩の先には、まだ自分も知らない可能性や、新しい景色が待っていると思います」

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文:林健太 写真提供:鈴木隆太

執筆者:林健太
パーソナルトレーナー、専門学校講師、ライティングなど幅広く活動するマルチフィットネストレーナー。日本初開催のHYROX横浜はシングルプロで出場。

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