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シェイプアップには糖質が絶対に欠かせない!(前編)[“筋肉博士”石井直方の筋トレ学]

定期的にジムへ通い、計画的なトレーニングを継続して行うのが誰しもの理想ですが、現実は必ずしもそうはいかないもの。今回はそんな壁にぶつかりがちな日常生活でのトレーニング、さらに切っても切れない食事とサプリメントについて石井先生にお聞きしました。
取材・文_長谷川亮

低糖質ダイエットのメリット、デメリット

 低糖質ダイエットが話題になっていますが、トレーニングをして体作りするためには糖質は大切だと考えられます。そこで本日は体作りにおける糖質の役割と、低糖質ダイエットのメリット、デメリットを巡ってお話を伺いたいと思います。

石井 ダイエット=脂肪を落とすには、摂取カロリーを減らしてエネルギー収支をマイナスにしなくてはいけません。そのマイナスするカロリーを糖質と脂質のどちらを減らした方がいいのかという議論は昔からありました。脂肪を落としたいのだから直感的には脂質を減らした方がいいと思うのですけど、糖質と脂質でどちらを減らした方が脂肪が減るかを長期間追いかけたところ、糖質をカットした方が効果が早いことが分かりました。

 効果が早い?

石井 ハーバードのグループが長期間の追跡をして、1年間ずっとダイエットを続けた場合は糖質を減らすのも脂質を減らすのも、効果は大体同じぐらいくらいなのです。ただ糖質をカットした方が効果の現れ方は早いことが判明しました。減量開始後最初の3、4ヵ月は糖質カットの方が脂肪が早く落ちる。でも1年という長いスパンで見た時は結果的には同じぐらいの減量幅なのです。

糖化ストレスの原因

石井 糖質が忌避されるもう一つの理由に「糖化ストレス」が挙げられます。これは体の中の糖質が増えて血糖値の高い状態が持続してしまうと、糖がタンパク質と結合し、タンパク質が糖化される。その糖化されたタンパク質は最終的にAGEという物質になります。これを終末糖化産物と言います。糖化してそれが長い時間かけて反応が進んだ結果、不可逆的な最終産物になる訳です。これがいろんな病気の原因となったり、老化そのものの原因になるということがかなりハッキリ分かってきました。血管を作っているコラーゲンなどが糖化して最終的には弾性のない変性したものになってしまいます。そうすると血管も固くなるし、皮膚のコラーゲンがそうなれば皮膚が固くなってシワができたり、外観上の老化にも糖質がすごく関係しているということが分かったのです。血糖が上がらないよう糖質をなるべく抑えようとか、糖の代わりにエネルギー源としては脂肪酸を使うのがよいという流れも生じてきたのです。こうした栄養学と医学的な観点から低糖質ダイエットが後押しされる状況になりました。つまり血糖が上がる状況をなるべく作らないようにして肥満や老化を回避しようというのが糖質を忌避する考え方のベースにありますね。

 糖化ストレスはエネルギーとして消費できなかった余剰分の糖で起こると考えていいですか?

石井 はい。体の中の糖質が高い状態をある程度持続してしまうと、体のいろいろなところに糖が結合してしまい、最終的には悪さをすると。今のところ糖化ストレスが体の中で強いか弱いかを判断する指標としてよく使われるのが、健康診断でよく出てくるヘモグロビンA1cというものです。これは糖化ヘモグロビンといって、赤血球のヘモグロビンに糖が結合してしまった状態を言います。これがあるレベル以上高いということは、体の中の糖質、血糖が高い状態がキープされている訳です。ヘモグロビンに限らず体内のいろんなところに糖の悪さが及んでいる可能性があることを示しているので、健康診断でA1cが高い場合は糖質に気を付けることが必要です。

糖質の役割

 糖質制限がメディアでキャッチーに取り上げられたせいで極端に糖質を悪者扱いする方も見受けますが、それでは、糖質を過剰に排除した場合の弊害について教えてください。

石井 脳の神経細胞は糖質しかエネルギー源として使えません。脂質が使えないのです。ですから糖質を極端にカットしてしまうと脳神経の働きが悪くなってしまう。そうすると脳の働きが低下してボーっとしてしまったり、下手をすると認知症のリスクを高めてしまうことが指摘されます。脳の神経細胞を活性化するためにはある程度の糖質は必要で、1日あたり140~170gぐらいの糖質は摂らないと脳の正常な働きは保てません。つまり1日あたりの総摂取カロリーのうち600~700キロカロリー分ぐらいは糖質で摂りましょうということです。1日のエネルギー所要量からすると、3分の1ぐらいは糖質から摂るべきという考えもあります。糖尿病の場合には血糖が上がることが命にも関わったもりしますので、もう少し厳しい糖質制限をすることがありますが、1日600~700キロカロリーぐらいは糖質から摂りましょうというのが一番穏やかな糖質制限の考えだと思います。しかし理論的に糖質をゼロにすることは無理なのです。またどんな食品でも糖質は含まれているので、たとえばご飯やパンだけでなく、極力糖質を避けても、食べているものの中には必ず糖質が含まれています。肉を食べたって、肉の中にはそれこそグリコーゲンも貯まっていたりするので糖質はある訳です。例えば「私は完全に糖質をカットしてます」と言いながら、結局1日食べたものを考えると糖質を140gぐらい摂っているということもあります(笑)。ただ、本当にサプリメントだけ、糖質0のプロテインだけでそれをお湯に溶かして、ビタミンはビタミン剤で摂って、そういう糖質を全く摂らない食事をした場合、おそらく様々な弊害が出てくると思います。

 一般的に推奨される食事摂取基準では、60%が炭水化物で糖質から、脂質とタンパク質が20%ずつという形になっています。

石井 従来の栄養学的なバランスとしてはそういうことで、糖質を1日140~170gにしてしまうと全体の30~40%になるので、推奨されている糖質の割合からすると半分から3分の2ぐらいになります。その辺りが糖質をカットする場合の一番下の辺りかなという感じです。

 野菜で食べても人参など根菜類には糖が含まれていますね。

石井 低糖質ダイエットで成功した人っていうのは本人は糖質を完全にカットしてると主張するかもしれないですけど、ちゃんと糖質は摂取していると思われます。それが、糖質を減らした最初のうちだけ効果的に作用しているわけです。

石井 直方(いしい なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学大学院教授、理学博士。
全日本ボディビル選手権優勝(81・83年)、アジアボディビル選手権優勝(82年)ほか、ボディビル競技での輝かしい実績を誇る。トレーニングをテーマに次々にベストセラーを世に送り出す“筋肉博士”。

森 弘子(もり ひろこ)
ソライナ株式会社にて、プロテインや健康食品の企画・開発を行う。ボディフィットネスでは東京大会4連覇、2016年には8年ぶりに大会に復帰し、関東オープン・フィットネスビキニ163cm超級で優勝を飾る。

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佐藤奈々子選手
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