女性ホルモン(エストロゲン)と密接に関わっている臓器、それは副腎。女性ホルモンを語るとき必ずセットで考えなければいけないのが副腎なのです。現代人のほとんどが陥っているという「副腎疲労」のメカニズムと対処法を伺いました。
[初出:Woman'sSHAPE vol.31]取材・文_宮部史 撮影_小畑円香 写真提供_岡部友 Web構成_中村聡美

女性ホルモンと副腎の関係
岡部 女性ホルモン(エストロゲン)のほとんどは卵巣から分泌されていますが、じつは「副腎」という臓器でも女性ホルモンは作られ分泌されています。面白いことに、女性の身体でも男性ホルモン(テストステロン)は作られていますし、男性の身体でも女性ホルモンは作られています。「卵巣がないのにどうやって?」と思うかもしれませんが、その答えが副腎なんです。副腎は性ホルモンの「バックアップ」を担っている臓器と言えます。
━━副腎でも作られているということは、女性が閉経して更年期に入っても、女性ホルモンはなくなるわけじゃないんですね?
岡部 その通りです。副腎のバックアップのおかげで、更年期になってからも性ホルモンの恩恵を受けていられるんですよ。更年期を過ぎると卵巣の機能はガクンと落ちて最終的にゼロになり工場停止のような状態になります。それでも私たちが女性ホルモンの恩恵を完全に失わずに済むのは、副腎が頑張ってくれているから。ちなみに、女性が一生の間に出す女性ホルモンの総量は、たった「ティースプーン1杯分」と言われています。超微量ですが、それが出続けていることが若さや健康の維持には欠かせないんです。
━━ 一生でティースプーン1杯……そんなに少ないんですね。
岡部 女性ホルモンの分泌がスムーズにいかない原因には、ストレスや卵巣機能障害がありますが、自分でコントロールできないことも多い。そんなときバックアップたる副腎が活躍してくれればよいのですが、現代人のほとんどが「副腎疲労」を抱えています。副腎疲労とは、慢性的なストレスで副腎機能が低下した状態のこと。これが大きな問題です。加えて、そもそも女性ホルモンは、それ単体では語れません。女性ホルモンに限らず、ホルモン同士はすべて密接に関係しています。女性ホルモン、甲状腺ホルモン、ストレスホルモン……たくさんホルモンはありますけど、Aホルモンがでなければ、Bホルモンが多く分泌されるとか、Bホルモンを土台にCホルモンが作られるとか、身体のなかでお互いにコミュニケーションをとって分泌されています。
女性ホルモンはいちばん最後に作られる
岡部 副腎では約50種類のホルモンが作られているんですが、そのなかにも上流・中流・下流があって、女性ホルモンは下流にあたります。かなり雑な説明ですが、まず原材料となるコレステロールを基にDHEA-S(DHEAの塩酸塩。デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)が作られて、それを基にテストステロンとエストロゲンが作られる、といった工程です。前述したように、ホルモン生成・分泌はコミュニケーションで行われているので、そのホルモン単独で分泌されるわけではなく「このホルモンが作られたから次にこのホルモンが作られる」といったフローです。そうした作業のなかで、女性ホルモンは男性ホルモンよりもあと、いちばん最後に作られます。副腎はストレスに対抗するために「コルチゾール」というホルモンも作っています。私たちは日々ストレスにさらされていますが、副腎からすれば「生き残ること」が最優先事項です。すると、ホルモンの材料をすべてコルチゾールの生成に回してしまい、性ホルモンを作る余裕がなくなってしまう。これを「ホルモン・スティール(横取り)」と呼んだりします。
副腎の位置

「副腎では約50種類のホルモンが作られているんですが、そのなかにも上流・中流・下流があって、女性ホルモンは下流にあたります。ストレスに対抗するために「コルチゾール」というホルモンも作っていて、ストレスが多いとホルモンの材料をすべてコルチゾールの生成に回してしまい、性ホルモンを作る余裕がなくなってしまう」(岡部さん)
━━ストレスがあると、ホルモンが横取りされてしまう。だから生理不順になったりするんですね。
岡部 一理あります。しかも、脳の中でストレスを感じる部位と、卵巣に刺激を与える部位は隣同士にあります。ストレスで脳がバグると、すぐに卵巣機能にも影響が出る。脳を整えれば(ストレスが減れば)、卵巣機能が上がる人もいますが、根本的には副腎というバックアップ機能を正常に保っておく必要があります。
筋トレで若返りホルモンが生成される
━━具体的に、副腎を元気にするにはどうしたらいいんでしょうか?
岡部 ストレスを減らすのがいちばんですが、そこはなかなかコントロールできない。となったとき重要なのが「DHEA-S」です。エストロゲン、テストステロン(性ホルモン)の基になるプレホルモンで「若返りホルモン」とか「元気の源ホルモン」なんて言われていて年齢とともに減っていきます。DHEA-Sの値が極端に低い人って症状だけを見ると鬱病と似ているので、もし「鬱病かも」と思ってメンタルクリニックへ行って薬を処方されても、一向に症状が改善されないという人がいたら、一度DHEA-Sの値を調べてみるといいかもしれません。男性の更年期障害にもまったく同じことが言えます。それくらいやる気や活力に影響するホルモン。そして、DHEA-Sを高めるために最も有効なのが実は「筋トレ」なんです。
━━素晴らしい!有酸素運動はダメなんですか?
岡部 有酸素運動も健康にはいいですが、DHEA-Sや成長ホルモンの分泌を助けるなら、筋肉に負荷をかける筋トレの方が圧倒的に効率がいい。一般の人が筋トレで自前のDHEA-Sを増やすのは、若返りのための最強手段と言えますね。サプリメントで補う方法もあります。ホルモンなのでドーピング検査に引っかかる可能性があるため、アスリートなどは注意が必要です。
━━ちょっとだけ話はそれますが、生理中に筋トレってしていいんですよね?
岡部 もちろんです。生理中っていちばんエストロゲンが低いとき。ホルモンバランスが男性に近づく時期なので、体調に問題なければ運動は可能です。生理中のほうが記録が出たりしますから。PMSが酷いとかじゃなければ、運動はぜひしてください。
━━食事についてはどうでしょう。よく「コレステロールを下げろ」と言われますが、ホルモンの原材料でもあります。
岡部 そこも大きな誤解がある部分です。コレステロールはすべてのホルモンの原材料。原材料がなければ工場は稼働できません。今の健康診断の基準はかなり厳しめに設定されていますが、下げすぎると逆にホルモン枯渇を招くリスクがあります。数値にこだわりすぎて好きなものを我慢し、そのストレスでコルチゾールが大量生成されてしまうなら、多少の数値は気にせず楽しく食べたほうが健康にいい、という考え方もあります。
━━「健康のために」と必死になることが、逆にストレスになって副腎を疲れさせているとしたら、本末転倒ですね。
岡部 まさに。ストレスをどう捉えるか、という「アクセプタンス(受け入れ)」の概念も重要です。生理前にイライラしたり、やる気が出なかったりするのは、ホルモンの材料が不足しているサインかもしれない。そこで自分を責めるのではなく、「今はそういう時期だ」と受け入れる。抗おうとすればするほどそれはストレスとなって副腎にダメージを与えます。
━━健康でいることって、本当にストレスとの闘いですね……。
岡部友が考える究極のストレスとは
岡部 私たち日本人は根が真面目なので「身体に良い」とされているものに従おうとするんですよ。でもこれ「健康宗教」っていう言葉があって。健康になれって誰に言われた?みたいな。たとえば病気になったらなったでそのときが寿命と考えている人に「玄米は身体にいいですよ」と言っても響きませんよね。でもそういう考え方の人のほうがストレスがない生き方をしていて、世の中的には不健康とされるライフスタイルだったとしても、長寿だったりする。健康をビジネスにしている私が言ったらダメですが、健康のために食事に気を遣いすぎて、そのストレスと実際に病気を防げる可能性を比べると、案外割に合わないという考えもあります。私の場合はそれをわかったうえで数%の効果、可能性だとしても身体に良いものを選びたいし、第三者からみればストイックすぎる食事ルーティンでも、そのほうが体調がよくて、ストレスを感じないんですよね。ただ前述の意見も理解しているので、普通にみんなと食べるときはありますし、どちらにせよ食事は楽しんでいますよ。

━━優先順位をどこに置くかということですよね。
岡部 そうですね。究極のストレスって、身の回りのことが自分でできないことだと思うんです。私も、今SPICEUPFITNESSに通ってくださっているお客様も、年齢を重ねてきて、見た目以上に「最後まで自分の足で歩き、自分の面倒を自分で見られること」が目標に変わってきました。そのためには筋肉が必要です。筋肉があれば、身の回りのことができるし代謝も上がる。20年後の自分を想像してみてください。一人でトイレに行けない、身の回りのことができないストレスは、想像を絶するものです。
━━そう考えると、今のうちから筋肉を貯金しておくことは、未来のストレス対策でもあるわけですね。
岡部 はい。老後の「勝ち組」の条件は、じつはシンプルだと思っています。「友達がいること」「筋肉があること」「最低限のご飯が買えるお金があること」。この3つが揃っていれば、人生の終盤をかなり高いQOLで過ごせます。ジムに通い、仲間と喋り、筋肉を鍛えている女性たちは、まさにこの「勝ち組」の道を歩んでいるんじゃないかな。
━━なるほど。女性ホルモンだけの話かと思っていましたが、最終的には「どう生きるか」「どう老いるか」という哲学的な話につながりました。
岡部 身体は全部つながっていますからね。朝日を浴びてセロトニンを作り、夜にメラトニンに変えて深く眠る。その眠っている間に成長ホルモンが身体を修復してくれる。この基本的なリズムを整え、材料となる良質な脂質とタンパク質を摂り、適度に筋肉を動かす。そして何より、自分を追い込みすぎない。これが副腎を救い、結果として女性ホルモンを味方につける唯一の方法です。
━━副腎を労わることが、女性としての美しさや健康を守る伴だということがよくわかりました。今日から自分の〝副腎の声〞を聴いてみたいと思います。
岡部 完璧を目指さず、まずは自分の身体を頑張って支えてくれている副腎の存在を知り、必要であれば実際にホルモン値を可視化するところから始めてみてください。副腎を専門的に診ているクリニックへ行けば血液検査でわかりますよ
おかべ・とも
1985年12月6日生まれ、神奈川県出身。株式会社ヴィーナスジャパン代表取締役。分子整合栄養アドバイザー。高校卒業後、アメリカで運動生理学、解剖学を学び、フロリダ大学在学中に、プロアスリートに指導できるスポーツトレーナーが保持する資格NSCA-CSCSを取得。女性専門ジム「SPICEUP FITNESS」を東京、大阪、名古屋の5店舗で運営。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演し大きな反響を呼んだ。IG:@tomo_fitness













