「第2の青春が来たと思っています」
愛知県名古屋市西区にある『サン・ワークアウトジム』に所属する、布目元子(ぬのめ・もとこ/74)さん。“国内最高齢の女子フィジーク選手(女性ボディビルダー)”としてテレビや新聞で話題の女性だ。布目さんが筋トレを始めたのは65歳。その後、パワーリフティングの大会で優勝。そして、女子フィジークの道へ。その飽くなき挑戦の人生を追った。
きっかけはダイエットで始めた『ダンベル体操』
布目さんがボディメイクの世界に触れるきっかけとなったのは、当時勤めていた春日井製菓の直属の上司である高瀬恵造(たかせ・けいぞう/69)さんに「痩せたい」と相談したことだった。高瀬さんは現役のボディビルダーであり、パーソナルトレーナーとしても数々の表彰選手を輩出しているボディメイクのプロフェッショナルである。布目さんは、当時の自分を振り返る。
「高瀬さんに提案されたのは『ダンベル体操』でした。私は30年近く変形性股関節症に悩んでいたため、整体の先生とも相談しながら週に1回のダンベル体操で身体を運動に慣れさせることからスタートしました。マッサージや鍼を受けながら体操を始めて半年が経ったころ、強張った筋肉がほどけて徐々に動くようになってきました」
ダンベル体操はごく軽量のダンベルを体操動作に用いることで、無理なく身体への負荷を増やすものだ。ダイエット効果とともに骨粗しょう症を予防する効果もあり、医療機関やリハビリ施設でも行われている。
「トレーニング頻度と重量を少しずつ増やすとともに食事改善に取り組んだところ、身体がどんどん動くようになり体型も締まってスリムになっていきました。それがうれしくて、毎日トレーニングに熱中するようになりました」
布目さんの情熱と上がり続ける使用重量を見た高瀬トレーナーは、今後の方針を話し合った結果、パワーリフティングの大会出場を提案。布目さんはなんと、初大会で年齢別優勝を飾った。
「自分でも驚きました。当時の記録は、ベンチプレスが35kg、スクワットが55kg、デッドリフトが70kgです。そのころには身体もかなり絞れていて、トレーニングを始める前は145cmで58kgだった体重が44kgになっていました。スリムになったと色んな方に褒められたのがうれしくて、さらに自分を磨こうと今度は女子フィジークに挑戦することにしました」
そして2018年、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)の愛知県大会に出場。39kgまで絞り上げた身体で3位入賞を果たした。
「68歳で人生で初めてビキニを着ました(笑)。その年からは毎年、大会に出場し続けています。2022年には、松任谷由実さんの『春よ、来い』に合わせたフリーポーズで150人の出場者の方々の中からベストポーザー賞をいただくこともできました」
振り付けが覚えられず、泣きながら練習を重ねた末の表彰だったという。なぜそこまで没頭できるのか。布目さんは、とてもシンプルな動機だと語る。
いくつになっても美しく輝きたい
「私がトレーニングに熱中するのは、本当に単純なことです。『痩せたね』『きれいになったね』と褒められるのがうれしい。女性はいくつになってもそういう言葉がうれしいものです。一言そう言われればそれだけで元気が出る。もっともっと頑張れます」
布目さんは現在、週に5日をジムでトレーニングに励む。好きなトレーニング部位は背中。懸垂を10回、ラットプルダウンやマシンロウイングは50kgを挙げる。“戦友”となった高瀬トレーナーとのセッションは阿吽の呼吸だ。競技は今後も続けていくと語る。
「女子フィジークの出場は今年で4回目になりますが、本当に楽しいです。娘のような年齢の方達と競うことで学ぶことがたくさんあります。皆、年齢に関わらずとても仲良くしてくれて、メイクを教えてくれたり、この前はつけまつ毛を頂きました。第2の青春が来たと思っています。毎日がとても充実しています」
テレビや新聞に取り上げられたことで、競技者でない人々からも「元気をもらった」と声をかけられるようになったこともうれしいという。布目さんは、今後成し遂げていきたい目標について語ってくれた。
「ボディメイクとの出会い、高瀬さんを始めとした皆様との出会いに感謝しながら、さらに自分を輝かせていきたいです。女子フィジークにも男性競技のようにマスターズカテゴリー(40歳以上の年齢別)ができれば挑戦したい。これからさらに年齢を重ねて身体が辛くなることもあるかもしれませんが、健康に気をつけながら自分に喝を入れて生涯トレーニングに励んでいきたいと思います」
取材:にしかわ花 写真提供:高瀬恵造・布目元子
『IRONMAN』『FITNESS LOVE』『月刊ボディビルディング』寄稿。広告・コピーライティング・SNS運用も行うマルチライター。ジュラシックアカデミーでボディメイクに奮闘している。