ボディビル世界王者・鈴木雅流、筋トレコンディションアップ術大公開!!

なぜケガをしたのか、なぜ動かない部位があるのか、なぜ「弱点部位」というものができてしまうのか。鈴木雅選手は試合から少し距離を置いたのを機に、これらの事象と深く向き合うようになったという。「コンディショニング」は見落とされがちな分野ではあるが、筋肉をつけていく上でも重要な要素。鈴木選手が考えるコンディショニングの総論と、自身が実践している一例を紹介してもらった。

取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩

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「コンディショニング」といえばケガをしないためのケアなどのイメージがあると思いますが、これは筋肉をつけていく上でも非常に重要なファクターになります。

筋肉をつけるには、まずトレーニングの強度を上げる必要があります。「強度を上げる」とは「負荷・回数を伸ばす」ことになりますが、それらを永遠に伸ばし続けるのは不可能です。どこかで頭打ちになったり、ケガが増えたりするものです。そこで重要になってくるのが、「効率的なフォーム」。例えば、ベテラントレーニーの方と、まだそれほど歴が長くない若いトレーニーの方がいるとします。若い方はベンチプレスで150kg、一方のベテランの方は100kgでやっていたとします。そのお二人のどちらが筋量があるかといえば、ベテランの方のほうがあるというケースが非常に多いです。なぜそのような結果になるのか。

大きな要因のひとつが、長いトレーニングの中で習得してきた「効率的なフォーム」です。では、その「効率的なフォーム」とは何か。それはアイアンマンで連載してきた「アップデート術」でも解説してきた通り、「解剖学・生理学・力学」がベースになっています。鉛直方向にしっかりとバーベルを挙上して、効率的に筋肉に負荷を与える。これが「効率的なフォーム」の大きな要素です。

しかし、そのフォームがなかなかできないという方が多いのが実情です。それは、動き自体がちゃんとできていないという点に原因があります。動かせない部位があったり、関節が動いている感覚を掴めていなかったり、そういうケースが多々あります。

例えば、股関節を屈曲させる際に、ヒンジ動作を行ったとします。そこで多いのが、股関節ではなく腰椎が屈曲して骨盤が後傾するケースです。

そうなってしまう原因のひとつが「可動性(モビリティ)・安定性(スタビリティ)」ができていないことにあります。これはすごく大切な要素で、動作をする際、安定させるべき関節もあれば、可動させないといけない関節もあります。股関節が硬く、足首も硬い人が歩くときにどうなるかといえば、膝で代償動作をしようとします。すると、何かの弾みで膝を痛めてしまうことがあります。また、肩や手首が硬いと、肘で動きを出そうとして、その結果、肘に負担がかかっていきます。

ベンチプレスをやる際にはアーチを作ります。そのときのアーチの作り方は人それぞれです。そこでは胸椎を伸展させますが、それによって肩甲骨が下がったり、肩関節が伸展したりして、胸の筋肉が伸張しすくなります。

ここで胸椎の伸展ができない人もいます。これは私もそうなのですが、胸椎が硬く、腰椎が伸展してしまうのです。腰椎が伸展すると、身体が反った過伸展の形になります。腹圧が入らず、結果、腰を痛めてしまいます。また、バーを下ろしたときに下部肋骨が開き、負荷が抜けやすくなります。

腰椎や骨盤周りが安定していないと、腹圧が入らずに肩に負担がかかります。逆にいえば、それらが安定すれば肋骨も開かず、胸に効きやすくなります。

股関節も可動が出せなければ、しっかりとしたリーチが作れません。足関節は可動させ足底を安定させないと、重心がカカトばかり踏んでしまい過伸展につながります。手関節も安定させないと、手首が返ったり、肘が下がったりして重量が逃げてしまいます。さらに、肩甲骨や肩周りが安定しないと肩が前に出て、肩に負担がかかります。

またベンチプレスで言うと、挙げるときにつま先立ちになる人がいます。その原因はハムストリングや殿筋の柔軟性が乏しいことにあります。それらの筋肉が硬いと、身体の背面が使えなくなります。

前面には力が入るんですが、重さを持って支えたときに肩が前に出てしまいます。そういうことを理解した上で、動きにくい部位、安定しない部位に対してアプローチをしながら、トレーニングしていかないと、いつかケガをしてしまうかもしれません。効くべき局面でも、効かなくなってしまいます。そうした機能的アプローチをしていくのと並行して、感覚的アプローチも行っていく必要があります。「感覚器の活性化」です。

筋肉が動くメカニズムをごくごく簡単に説明すると、脳が筋肉に「動け」という指令を出します。その前段階として、外部の環境を取り入れる力が必要となります。「重い」とか「軽い」とかも外部の環境です。

その外部の環境は直接、脳に伝わるのではなくて、感覚器で統合されて、脳に伝わります。その感覚に「視覚」「聴覚」「前庭覚」「体性覚」などがあります。

前庭覚はスピード感覚や、グルグルバットをやってフラフラになったところを元に戻そうとする感覚です。体性覚には「運動覚」「位置覚」「重量覚」などがあります。

分かりやすいところでは「触覚」も体性覚です。「運動覚」はその運動の方向。ダンベルプレスで「肘を鋭角にする」と指導されても鋭角にできずに動作が流れてしまったり、どの方向にダンベルを挙げているかも分からなくなってしまう人は運動覚が鈍っているかもしれません。

位置覚は自分の筋肉のポジション、例えば「足の裏のどこで床を踏んでいるか」などの感覚です。重量覚は、重さを持ったときに、それを感知する感覚です。トレーニング経験がない方で、「重い!」と言いながらも30回もできてしまう人がいます。そういった方は重量覚が鈍いと言えます。

その体性覚も感覚受容器は筋、腱、皮膚に多く存在します。体性覚が活性化していない場合、筋肉は動きません。つまり、筋肉を正しく動かすには体性覚を活性化させないといけないのですが、そこでは自分で感じ取ることが重要で「正しいポジション」で「重さを持ち」なおかつ「その位置を認識しながら動かす」ことが大事です。筋肉が動かないのは柔軟性の欠如など機能的な問題もありますが、感覚が活性化されていないことが原因になっているケースが多々あります。そこに「効く・効かない」の正体があると言っても過言ではありません。

ただ、それでも「動かせない」という人もいます。そういう場合はその部位に圧をかけたり、振動を加えたりして筋緊張を取り、身体をリセットしないといけません。特に足底、手関節は感覚受容器が多く存在する部分なので、しっかりとリセットと感覚受容器の活性化したいところです。足底は体幹の力・腹圧のかかり方にも大きく関係してきます。

足底は情報入力の場所なので、上肢や体幹にも影響します。例えば、足裏の外側でしか踏めない人は母指球で踏めないので内転筋とかお腹周りの筋肉とかが使えず、身体が反ってしまい腰を痛めてしまうこともあります。

私の場合は母指球、小指球で踏む感覚が鈍く、トレーニング中に首に負担がかかり、肩周辺を痛める、収縮時に重さが抜けるなどのことがありました。

実際に足底の感覚が悪くて体幹が弱く、フリーウエイトで効かせられないといった人は多いです。骨盤の状態にもよりますが、母指球・小指球・カカトの3点で均等に踏めることで、身体の中央に軸が作れるようになり、ロウイングなどでは脊柱がのポジションが良い状態を保ったまま安定して引けるので背中に効かせやすくなります。

「解剖学・生理学・力学」「可動性(モビリティ)・安定性(スタビリティ)」「感覚器の活性化」。これらの3つは、全てリンクしている部分があり、弱点部位の改善は種目・回数などではなく、結局は動きの問題がキーになります。

ボディビルダーに弱点部位があったとします。トレーニングをやり込んでいるボディビルダーに、「強度が低すぎる・高すぎる」ことがその原因になっているケースはあまりありません。多いのは、「動きができていない」「神経伝達ができていない」。弱点部位を克服していくには、そこにアプローチしていく必要があります。

これはインスタントでできることではありません。そもそもの動きができていない。つまり、筋肉がちゃんと動いていないから効かない。そこを放置したまま種目を変えても、頻度を変えても、なかなか改善は見込めません。それどころか、肩を痛めるなど、リスクばかりになってしまいます。

では、どこから改善していくか。それは動きを改善したり、そこが動くためのアプローチをするのがひとつです。

機能的アプローチとしては、軌道・ポジションを認識するためのムーブメントトレーニングというものもあります。

また、それらのエクササイズに入る前に、アクティベーションを行うことも大事です。私の場合は、足関節が片方だけ硬くなりやすい傾向にあります。例えば、スクワットをやるのに左の足関節だけ動きが悪いと、全体の動きとしてしゃがめなくなります。そうならないよう、エクササイズに入りチューブなどを使って、距骨にはめてアクティベーションして足首の可動域を出すようにしています。

フロッシングで圧、ハイパーボルトで振動を加えて活性化したあとに、その部位の動きを出すためにムーブメントトレーニングを行います。

モビリティエクササイズやムーブメントトレーニングなどは、「ただやっている」というのが一番よくありません。どこの関節が動いているのか、軌道がどうなのか、意識して実践しないと、いいポジションで身体が動きません。また、その箇所の柔軟性や可動も向上しません。

それには、自分の身体のどこが動いていないか、どこの感覚が鈍いのか、自己評価をするのが第一歩となります。意識してエクササイズをやっていると、「今日はここが動いていない」と、運動覚や位置覚が活性化されて、だんだんと分かってくるようになってくるものです。

今回紹介するのは、あくまで「私が行っているコンディショニング」の一例です。万人の悩みをインスタント的に解決できるものではないと思います。

個人によって、柔軟性や可動域は異なります。同じ種目でも、人によってフォームが変わってきます。「ボールを投げる」動作にしても、その投球フォームは人それぞれですが、それと一緒です。そこには「傾向」というものはありますが、「マニュアル化されたパターン」は存在しません。

大事なのは、ここが硬いからここが効かない、など主観的に判断すること。また、客観的要素もすごく重要になってきます。可能ならば、動作解析ができるトレーナーに見て判断してもらうのもひとつの手段です。

どこの関節が動いていないか、どこの筋肉が動いていないかなど自分で認識すること。そこから、「感覚磨き」と「動作磨き」をしていきましょう。自分でトレーニングをしていて身体を改善したいという人は、重量や回数を追うだけではなく、そういった部分にも目を向けてみてください。

続けてお読みください。
▶筋トレ初心者必見!ボディビル世界王者・鈴木雅が伝授する絶対に押さえておきたいトレーニングの基本5箇条

鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

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