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筋肥大と睡眠にまつわるエビデンスの提示|リカバリー研究者監修

トレーニーにとって、トレーニングと食事と同じくらい重要なのがリカバリーだ。そのために欠かせないのが、質の高い『睡眠』。ボディビル元世界チャンピオンの鈴木雅選手も講義を受けるAZCARE ACADEMYで講師を務める阿部さゆり先生に登場いただき、パーソナルトレーナーのシエカさん同席のもと、リカバリーと睡眠の関係性について語ってもらった。

本文中の(※)の数字は最後に記載した参考文献と対応

<この記事の内容>
睡眠のメカニズム
適切な睡眠時間
睡眠と筋肥大の関係
入眠時に身体を温めるか、冷やすか
入眠がスムーズになる呼吸法
昼寝は必要かどうか

睡眠のメカニズム

――阿部先生はAZCARE ACADEMYで睡眠をテーマに講義をされているということで、ご登場いただきました。パーソナルトレーナーのシエカさんも先生の講義を受けていて、参加されたいとのことで同席いただきました。
シエカ はい、私は先生の大ファンで講義も拝聴させていただいております。今日は楽しみにしております。
阿部 そうなんですか。嬉しいですね。よろしくお願いします。

――シエカさんには、のちほど質問に加わっていただきます。
阿部 私はいくつかのテーマで講義をさせていただいていますが、リカバリーの科学という講義も担当しております。アスリートをどうリカバリーすれば、ケガをせず健康で、かつ最大限のパフォーマンスを発揮できるか、という内容です。私は論文をいろいろと読み、最新のエビデンスをまとめ、実際の臨床応用への落としどころを探すということが好きなんですが、この講義の中で質の高い睡眠についても言及しています。今回は、それをもとにお話ができればと思っています。

――まず基本となる睡眠のメカニズムをお聞きできますか。
阿部 人には、おおよそ24時間周前述のように、夕方6時くらいに深部体温は最も高いピークを迎えますが、そこから徐々に体温が下がってくるタイミングで『眠気』がやってきます。みなさんは眠くなるときに、身体がポカポカと温かくなるように感じているかもしれませんが、実は皮膚体温が上がるのと反比例して、深部体温は下がっていくんです。

――赤ちゃんや子どもが、眠くなるときに身体が温かくなるのはそういうことだったんですね。
阿部 睡眠は4つのステージに分けて考えられることが多いです。ステージ1が眠りの浅い状態で、いわゆるレム睡眠と呼ばれるものです。目は閉じて寝ていますが眼球が動いたり、夢を見たりと、身体のいくつかの機能がまだ活動しています。そこからステージ2、3、4とより深いノンレム睡眠に入っていきます。そして最初に眠りに落ちた期で1周するサーカディアンリズムがあります。朝起きたらテストステロンとコルチゾールが身体の中で分泌されて高まり、これらは一日かけてゆっくりと下がる。深部体温は夕方に一番高くなり、夜になるとメラトニンが増えて眠気が強くなる……といったように、人間の身体は、朝、夕、夜と決まった物語を毎日なぞるかのようにサイクルに則って活動をしています。その中で私たちが活発に活動する時間帯に交感神経が働き、リラックスして眠くなるときに今度は副交感神経が優位になります。基本的に副交感神経は、食べたものを消化、吸収し、エネルギーとして蓄えようというときに働くものです。

――運動するときは交感神経、休むときは副交感神経が優位になるということですね。
阿部 興味深いことに、体温と眠気には密接な関わりがあります。ときに最も深い眠りであるステージ4まで到達することが多く、これはスローウェーブスリープ(SWS)と呼ばれているんですが、ここで成長ホルモンが多く分泌されたり、身体の修復機能が活発になります。

――なるほど、ステージ4の睡眠をいかに長く取れるかが質に関わってくるわけですね。
阿部 赤ちゃんはレム睡眠が半分くらいで浅い睡眠が多いですが、成人はノンレム睡眠が全体の80%くらい、ステージ4の睡眠が20%くらいだと言われています。ステージ4は夢を見ないほど深い眠りですから、まさにぐっすり熟睡、という感じですよね。

――いかにステージ4まで到達するかがリカバリーのポイントになるのですね。
阿部 はい。そのためにはサーカディアンリズムをしっかりと守ることが大切になってきます。身体は自然にリズムを刻んでくれますので、交感神経や副交感神経の波にうまく乗り、サイクルを利用し、利用されながら生活するのが最も効率がいいと思います。平日と休日で生活のリズムを大きく変えない、というのも一つの大事なポイントです。会社や学校があってもなくても、同じくらいの時間に起床し、就寝するのが理想です。

適切な睡眠時間

――適切な睡眠時間は、個人差があると思われますが、何か指針になるものはありますか?
阿部 はい、26歳から64歳までの成人で睡眠時間は、7時間から9時間が推奨されています(※1)。これはあくまでも一般人が対象の推奨時間ですので、身体を酷使するアスリートはもっと長く、9時間から10時間を推奨する専門家の声もあります(※2)。アスリートの睡眠に関しては、スタンフォード大学男子バスケットボールチームの研究(※3)が有名ですね。部員に最低10時間寝るように指示を出し、実際の睡眠が平均6.6時間から8.5時間へと延長したところ、シュートの成功率が上がったという研究があります。同じようにテニスプレイヤーに9時間の睡眠を取るよう指導したら、サーブの成功率が上がったという報告(※4)もあります。

――やはり睡眠とパフォーマンスは、密接な関係があるんですね。例えば試合前とか、ハードな追い込みをして疲労度が高い場合は、睡眠時間を意図的に増やすべきですか。
阿部 疲労度の違いによる推奨睡眠時間に関する提言は存在しませんが、サーカディアンリズムの視点からすれば、極端に睡眠時間は変えない方がいいと思われます。できる限りいつものリズムを崩さず起床・就寝し、身体に残った疲労はその他のリカバリー法で取った方が長い目でみれば、いいかもしれません。

――サプリメントの摂取や練習量の調整などですね。
阿部 あとは逆に身体を少し動かして調整するアクティブレスト、マッサージ、コンプレッションなどもありますね。

――睡眠時、人の身体はどんなことが行われているのでしょうか。
阿部 睡眠を取っている環境は、動物で言えば襲われる脅威がない安心できる状態なので、身体の中の構造改築に全エネルギーを集中するには一番条件が整っていることになります。ステージ4の睡眠時には特に顕著に細胞が増殖し、組織修復が進むわけですが、逆にいうと睡眠不足になれば、適切な細胞破壊が起こらなくなり、細胞増殖・修復が進まなくなってしまいます。筋タンパク質再合成も十分に起こらず、アスリートの重要なエネルギー源となる筋グリコーゲン貯蓄量が減少してしまいます。

――睡眠は重要ですね。
阿部 睡眠は肉体だけでなく、脳にとっても重要なものです。記憶形成、固定化、取り出し、または想像力や判断力も睡眠時に培われていきます。

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