巷で普通に使われている「筋膜リリース」という言葉は誤訳だった。本当にリリースしなければいけないのはファシアという皮下組織。さらにそこをリリースするためには……。ファシアリリースを学び、実際の競技において結果を出しているパワーリフターの信田泰宏選手に話を聞いた。
取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩 イラスト:JUNKO、Teguh Mujiono/Shutterstock.com
私はトレーニングの前には必ずフロッシングをやっています。これはどちらかといえばセルフケアのためのアイテムなのですが、私は毎回のトレーニングで同じ感覚、正確な動作で反復練習するために取り入れています。
これは「ファシア」という皮下組織にアプローチするものです。「ファシア」という言葉は日本では「筋膜」と訳されていますが、「ファシア=筋膜」ではありません。皮膚の筋肉の間には何層もの組織があり、それらを全てひっくるめて「ファシア」と言います。
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「筋膜リリース」と呼ばれているものがありますが、人の身体の表面はミルフィーユ状になっていて、皮膚があって、ファシアがあって、筋肉があるのはさらにその下です。筋肉には確かに筋外膜、筋周膜、筋内膜などの膜がありますが、皮膚をコロコロしたくらいで、それらの筋膜に何らかの影響を及ぼすことはありません。
フロッシングでは、「圧」によってファシアにアプローチしていきます。ファシアは網目状の線維のようなもので、結合組織のヒアルロン酸分子のもつれ、疎性結合組織(内部組織)の質、量、粘性の変化などで高密度化(癒着)すると、関節可動域の低下、筋肉の協調性低下などを引き起こします。
そこに圧をかけることで高密度化していたファシアが滑らかに動くようになり、ファシアが滑らかに動くようになれば、その下にある筋肉も滑らかに動くようになります。ミルフィーユの間に隙間ができ、その結果、筋原線維のアクチンとミオシンが自動車のエンジンのピストンのようにスムーズに動くようになる、というイメージです。
筋肉がスムーズに動けば当然、関節の可動域も改善されます。例えばスクワット。ジムなどで見ていると、ちゃんとしゃがめている人は意外と少ないものです。深くしゃがめていない人も多いです。それは足首やハムストリングの柔軟性の欠如が要因であることがほとんどなのですが、フロッシングをすることでそうした関節の可動域が改善され、深くしゃがめるようになります。
スクワットは「立つ」というイメージが強いかもしれませんが、まずは「しゃがめる状態を作る」ことが大切です。深くしゃがんで、そこで初めてバーを担いでのスクワットができるようになるのです。
また、皮膚には末梢神経があるのですが、神経の疼痛にもアプローチができます。身体にとって「痛み」は正常な反応なので、痛みがあるときは休むのに越したことはありません。
ただ、痛くてもどうしても身体を動かさなくてはいけないときはそうした痛みを緩和してくれます。また、圧迫したあとにバンドを外すと、一気に血流や体内水分がそこに流れ込みます。すると、ECM(細胞外マトリックス)というコラーゲン組織のターンオーバーが進み、ケガの治りが早くなります。
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