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筋肉の芸術・嶋田慶太のトレーニング理念&テクニック徹底解説「至高の肉体芸術を求めて」 後編

――2019年に日本選手権で初めてファイナリストになったあと、アイアンマンの取材で「筋量アップの必要性を感じた」とおっしゃっていました。筋量アップのために重量を持とうとすると、今度は「腹圧をどうするか」というテーマも出てくるかと思います。以前、嶋田選手は身体全体のバランスを考慮して「トレーニングでは必要以上の腹圧はかけない」とおっしゃっていました。
嶋田 昨年のジャパンカップのあと、「バランス」という枠の中で全てを考えていっても大きくはなれない、と思いました。加藤(直之)選手と並んだときに、そう痛感しました。「バランスがいい」というのは誉め言葉ではあるのですが、裏を返せばストロングポイントがないということなんです。それでは(審査員の)目を引くことはできません。トップ選手たちは隙がないけど、一つひとつのパーツがものすごく発達していて、その結果バランスよく見える。そう思うようになり、最近はトレーニングで腹圧もかけるようになりました。

――ウエストが太くなるかもしれないというリスクについては?
嶋田 そのリスクは負わないようにしています。これは鈴木(雅)さんからいただいたアドバイスなのですが、(腹部の)横にかかる腹圧はウエストを太くする。でも、前にかかる腹圧は大丈夫だと。腹筋が強く、肋骨が開かなければ、(ウエストを太くするような腹圧を)抑え込めると思うんです。だから、トレーニング以外でも呼吸には気をつけて、肋骨が開かないようにしています。

――ちなみに、言葉で説明するのは難しいとは思いますが、「横にかかる腹圧」「前にかかる腹圧」とは、どのようなものなのでしょうか。
嶋田 レッグプレスが分かりやすいと思います。膝を曲げた屈曲の動作で身体が曲がった状態のときに、腹圧がお腹の前にかかるのか、それとも横にかかっているのか。僕の場合、横にかかるような呼吸はやらないようにしています。
――嶋田選手といえば、バランスのよさ、太いところは太く、細いところは細く、というのが特徴的でした。そこを少し崩していかないと上にはいけない、ということですか?

嶋田 いえ、そういうことではありません。バランスではなく、考え方を壊す、ということだと思います。今までは「バランスを崩したくなから腹圧をかけたくない」という考えだったんです。でも、自分の中で制限していたものを外していかないと大きくなれないのではないか、ということです。

――言い方を変えれば、「腹圧」というものにそこまでビビらなくてもいいんじゃないかと。
嶋田 そういうことです。得意な部位は勝手に変わっていくんです。でも、苦手な部位を変えようと思ったら、身体の動かし方から学んで試行錯誤していかないといけないと思います。

――「バランスが保たれたきれいな身体」を作るというところに嶋田選手のこだわりを感じます。人間本来の美しさを追求していると言いますか。
嶋田 それが僕の理想です。人間の身体は年齢を重ねると、どうしても退化してしまいます。そこにトレーニングと食事で逆行できるのならば、こんなにすばらしいことはないと思います。また、ボディビルをやっている方が見ても、やっていない方が見ても、「あの人の身体はきれいだよね」と言っていただける身体を目指したいです。

――芸術としてのボディビルを追求したい?
嶋田 例えばギリシャ彫刻とか、誰が見ても美しいと感じると思います。そういった肉体をトレーニングで作っていきたいです。僕が思うのは、ジャパンカップで加藤選手と僕というタイプの違う2人が並んだときに、お客さんはそこに面白さを感じてくれたと思うんです。「こういうタイプのボディビルダーもいるんだ」と。見ている人も楽しませたいです。

――今のバランスでどのように評価されるかという、ボディビルというジャンルに対しての挑戦でもあるのでしょうか。
嶋田 そういう意識もあります。自分自身も燃えられます。「クラシックフィジークに転向すればいいのに」と言われることもあったのですが、それは自分の中ではちょっと違うんです。僕がクラシックフィジークに出ても、「確かにクラシックフィジークっぽいね」という言葉で片づけられてしまうと思うんです。そうではなくて、僕がやっていて楽しいのはボディビルへの挑戦なので。やはり、日本選手権のトップ選手の方々は偉大な人たちばかりです。そういう選手の方たちと違うタイプの身体で肩を並べたいです。ジャパンカップは本当にいい経験になりました。

――また「福岡在住」というところにも嶋田選手のアイデンティティーがあるではないかと思います。
嶋田 これは多くの人たちが思っていることかもしれませんが、日本選手権で決勝に残る選手たちは才能のある特別な人たちだと。でも、そこで思考を停止させてしまうのはすごく悲しいことです。諦めたら、絶対にそこで終わってしまいます。諦めずに続けることで結果が伴うのであれば、たとえ田舎に住んでいても、挑戦を続けたい。そうした姿勢を(福岡の)若い選手たちも伝えたいです。また、東京では当たり前の光景かもしれませんが、福岡のジムでは選手が取材などを受ける機会はあまりありません。博多リバレイン店で僕が雑誌の取材を受けているところや映像コンテンツの撮影をしている姿を見て、「俺も雑誌に載りたい」「DVDを出したい」と思う若い子が出てきてほしいと思います。ただ、地方に住む者として「東京」の名称がつく大会への憧れはあるんです(苦笑)。

――日本選手権についてはいかがでしょうか。
嶋田 日本一を目指していきます。前回の2019年の日本選手権では、周りの雰囲気に飲まれていたというのもあったと思います。そこから2年経った今の気持ちとしては、鈴木さんが戻ってくるのを待ちたいです。人生のキャリアを重ねていくと、人は次のステージへと昇っていって、以前にいたステージに戻るのも大変になると思います。鈴木さんが日本選手権に出なくなって、その穴を埋めるのは現役の選手しかいない。その穴を僕が埋められるようになって、鈴木さんが『彼とだったら闘ってみたい』と思える選手になりたいです。鈴木さんを呼び戻すために、日本一になりたいです。

――嶋田選手は2013年に鈴木選手のゲストポーズを見て、ボディビルを志すようになりました。“鈴木雅”とは、どのような存在なのでしょう。
嶋田 鈴木さんに勝ちたいと思ったことは一度もないんです。ただ本当に、初めて鈴木さんのゲストポーズを見たときに「この人と同じステージに立ちたい」と思いました。そのとき鈴木さんの生活感が全く見えなかったんです。何をどのようにすれば、あんな身体になれるのか。それが全く見えず、その人間性に憧れを抱きました。ただ、並んだときに鈴木さんに勝ちたいのかと言えば、そう思ったことはないんです。

――でも、他の選手に勝たれるのは悔しいのではないでしょうか。
嶋田 それはありますね、確かに。

――鈴木選手を介錯するのは僕でありたい、というのは?
嶋田 その役目は僕か相澤(隼人)選手だと思っています。

――ああ、なんとなく分かります。お二人には鈴木雅イズムの継承者というイメージがあります。
嶋田 これは僕が勝手に思っているだけなのですが、鈴木さんは人生の道を示してくれている人なんです。二人で一緒に食事に行ったとき、ジャイアンツのコーチに就任したことをうれしそうに話していたんです。その話を聞いて、僕もうれしくなりました。ボディビルは僕たちが盛り上げるので、今は野球のコーチを楽しんでもらって、気が向いたときには帰ってきてもらえばと思っています。ただし、そのとき僕は今の僕とは違いますよ、成長していますからね、という気持ちです。

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