コンテスト

若きボディビル日本王者が目指す「上腕」とは?それには上腕三頭筋に大きなヒントがあった

昨年の日本選手権以降、相澤隼人選手は腕のトレーニングメニューを一新したという。その狙いはどこにあるのか。新時代のチャンピオンが目指す、「立体的な腕」の作り方とは。

取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩

どの種目も「自然に動作が行える手幅」で。動作が自然に行えることはトレーニングをする上で非常に重要

――腕のトレーニングは、以前は上腕二頭筋を先に行っていたと思います。今回拝見したトレーニングでは上腕三頭筋が先で、全体的なボリュームでも上腕三頭筋に重きを置いている印象を受けました。
相澤 去年の日本選手権が終わってから、今の組み方に変えました。これは感覚的なものになってしまうのですが、上腕二頭筋はこのくらい(3種目)のボリュームでも発達するだろうという見込みが僕の中にあるんです。僕は二頭筋の感覚がいいので、やりすぎないほうがいいだろうと判断しました。一方、上腕三頭筋は弱点に感じていて、体力があるフレッシュな状態でトレーニングできるよう、今のような流れにしました。
――シーズン後に自身の身体を見つめ直して、上腕三頭筋の強化の必要性を感じたのですね。
相澤 僕は二頭筋と三頭筋のバランスがかなり悪いんです。タブルバイのポーズを取ったときは、三頭筋がかなりパンプしている状態だと二頭筋のピークに合わせて三頭筋の丸みも出て、バランス的にちょうどいい感じになるんです。でも、パンプしていないときは二頭筋が上に張り出しすぎて、自分が目指しているものとは違う形になってしまいます。そうしたバランスを是正するために、三頭筋をより発達させる必要があると感じました。
――第1種目はクローズグリップベンチプレスでした。重量を扱えるコンパウンド種目を最初に持ってくるという考え方でしょうか。
相澤 そうです。三頭筋は羽状筋というパワーを発揮できる筋肉で、その性質を考慮して、重量を扱える種目を最初に持ってきました。フレンチプレスやプレスダウンなどは単関節のエクステンション動作になるので、重量を扱おうとすると姿勢の保持が難しくなります。
また、ライイングエクステンションは、体幹よりも上に腕がいき、肩甲骨や肋骨も上に上がってしまうので腹圧が少し抜けやすくなります。そうした種目で重量を扱うと、僕の感覚では肘周りの筋肉だけの動作になって(負荷が)筋腹に乗らないんです。
――グリップなのですが、あれはサムアップグリップですか?
相澤 いえ、サムレスグリップなのです。ですが、完全にサムレスにしてしまうと指先に負荷がかかり、手首の背屈がきつくなって、三頭筋に重さがうまく伝わらなくなってしまいます。親指を少し横にずらしたサムレスにすると、ちょうど前腕の上にバーベルがくる位置で保持でき、(三頭筋に負荷を)乗せやすくなります。
――両足はベンチに乗せるのですね。
相澤 足を乗せて股関節を屈曲させます。僕はもともと身体が開きやすいのですが、身体が開くと肋骨が外旋して肩甲帯が安定せず、腹圧が抜けて動作の土台が崩れてしまいます。身体が開かないように、股関節を屈曲させて行っています。
ベンチ台の下に足を置くと股関節が伸展します。すると、胸が上がって肩が落ちる姿勢になります。その姿勢ではストレッチポジションで身体が開きやすくなるんです。足を下ろしてやっていた時期もあったのですが、途中までは肘の動きでバーを下ろせても、肘が90度に曲がったところからは大胸筋が伸びて、ボトムでは大胸筋の伸張反射で挙げるような動きが強くなってしまいます。すると重量を扱っても、結局は三頭筋から負荷が抜けることになります。
――だからボトムではバーを胸につけないのですね。
相澤 そうです。肘を曲げていって、自然に止まる位置で切り返しています。だから、ベンチプレスだったら「胸につける」というボトムの明確な基準があるのですが、クローズグリップベンチプレスはボトムの位置が分かりづらいからこそごまかしが利いてしまうんです。今日は最後の数回は若干、浅くなっていたかもしれません。だから、トレーニングの精度をより高めていかないと、大事なところで刺激を逃すという、もったいない動作になってしまいます。
――そう考えるとクローズグリップベンチというのは難しい種目ですね。
相澤 難しいです。ただ、やはり効く感覚はあります。
――手幅に関しては?
相澤 僕の場合は、内側のラインに薬指がくる幅です。肘を屈曲して、上腕三頭筋が伸びて自然に止まる位置の手幅です。
――ボトムで合わせる?
相澤 そうです。どの種目も基本的には「下した位置」「引いた位置」で合わせるようにしています。
――そうすることで肩にも優しい自然な動作ができる?
相澤 はい、「自然に動作が行える手幅」です。動作が自然に行えるというのはトレーニングをする上で非常に重要なポイントになってきます。そこは重視しています。
―― 第2種目はライイングエクステンションです。
相澤 この種目を第1種目に持ってきて重量を扱うと腹圧が抜けてしまうので、第2種目に持っていき「腹圧を高めて行う」ことをポイントとしています。
――だから「足乗せ」ではなく「足上げ」で?
相澤「足乗せ」でもいいのですが、それだとボトムの位置でお尻が浮きやすくなるんです。足で支えて、お尻を浮かせて、お尻を戻す伸張で挙げようとするので。また、そこで身体が開きやすくなり、微々たる差ではあるのですが、ストロークが変わってしまいます。そうならないように、足を上げて、腹直筋をしっかりと固めて、肩甲帯を固定したままエクステンション動作を行うようにしています。
――フレンチプレスやプレスダウンよりも先に行う理由は?
相澤 ライイングエクステンションはフレンチプレスに比べると腹圧が入りやすく、安定した動作で行えます。また、肩の自由が利いて、そのぶん可動域も大きく取れます。フレンチプレスとプレスダウンは肩関節の動きが制限される種目です。肘の動きがメインの種目を最初のほうに持ってくると、肘を痛めやすくなってしまいます。
――後頭部はベンチから少し外に出すのですね。
相澤 上腕三頭筋を収縮させるときは身体を伸ばします。クローズグリップベンチプレスでも、最後の1、2レップくらいはお尻が浮くと思います。前に押すというよりも、下側に押しながら身体を伸ばすという動作のほうがやりやすいんです。
その動作を後頭部を押さえた状態で行うと、頸椎に負荷がかかります。後頭部を少しベンチから出すことで首が楽になり、可動域も少し広く取れるようになります。
――下ろす位置については?
相澤 頭よりも上にバーベルを落とそうとすると、上腕骨が上がりすぎるので、肩甲帯が動いて腹圧が抜けやすくなり、動作が安定しません。腹圧を高めた状態で自然な伸張を求めていくと、下ろす位置はちょうど生え際の辺りになります。
――この種目は6セットと他の種目よりもセット数が多いです。
相澤 前半の3セットはプレスなし、後半の3セットはダメ押しのプレスありでやっています。前半の3セットはエクステンション動作で重量と回数を伸ばしていく。後半の3セットをその重量を保ちながらしっかり追い込んでいく、というイメージです。
――なるほど、だから6セットになるんですね。
相澤 4、5セットでもいいとは思うのですが、ライイングエクステンションはやっていて感覚が掴みやすく、純粋に楽しいからというのもあります。僕は三頭筋の感覚が弱いのですが、ライイングエクステンションは伸びていく感覚が掴みやすいので、これくらいのセット数で組んでいます。
――感覚が良くてやっていて楽しい種目というものはあると思います。そうした種目をやり込むというのは方法論としてはどうなのでしょうか。
相澤 メリットとデメリットがあると思います。得意部位は何をやっても感覚を掴めると思うのですが、その中でも特に効きやすい種目に関しては、そこまでややり込む必要はないかとは思います。逆に疲労が抜けなくなったり、使い過ぎてしまって筋力が落ちてしまったりすることも考えられます。
弱点部位に関しては、感覚が掴みやすい種目は行ったほうがいいと思います。感覚がいい種目を突き詰めていって、ある程度効かせられるようになってくると、今度はセット数が多いと逆に効き過ぎてやりづらくなると思います。僕の場合、そこで初めてセット数を落とします。

-コンテスト
-, , ,

次のページへ >




佐藤奈々子選手
佐藤奈々子選手