これから述べることは最新の情報というわけではないし、斬新なものでもない。にもかかわらず、私たちの多くが知らなかったこと、あるいは忘れていたことを思い出させてくれるものだ。筋力アップを目指すなら、昔ながらの5つのやり方を正しく認識しておく必要がある。今回は昔のやり方から新たな刺激を得ていくことにしよう。
文:Raphael Konforti, MS, CPT
翻訳:ゴンズプロダクション
私たちがトレーニングを行う目的はさまざまだ。何となく習慣になってしまっているからという人もいるし、健康のため、特定の競技能力を向上させるため、あるいはかっこいい体をつくってフィットネスモデルになったり、フィジークやボディビルコンテストに出場するためなど、人それぞれトレーニングの目的は異なる。だが、目的はそれぞれ違っていても、全てのトレーニーには共通した目標がひとつある。意識していようがいまいが、私たちはいかなる目的のためにも「筋力向上」をしていく必要があるのだ。強くなるにはどうすればいいか。それは、筋力アップに適した動作を、適したやり方で行うことである。ジムに行けばファンクショナルトレーニング(機能を高めるためのトレーニング)という名の下に、エクササイズボールの上に立ってみたり、ケトルベルの上でバランス力をアピールする技を披露したり、果てのないシットアップを自撮りしたりすることで満足している人たちが大勢いる。しかし、本気で筋力アップを目指すなら、行うべきはパワー系の種目だ。まずは筋力&パワー向上のための基礎知識をいくつか確認しておこう。
筋力の伸ばし方
トレーニングの基本はウエイトの上げ下ろしだ。この動作を繰り返すことで私たちは筋発達を促してきた。また、用いるウエイトは少しずつ重くしていく必要があり、そうして筋肉にかける負荷を少しずつ増やしながら行うのが漸増負荷運動だ。例えば100㎏×10レップを行える人がトレーニングのたびに同じことを続けても筋肉は継続的に発達しない。負荷を増やしていかなければ、筋肉は現状維持のままだ。そこで100㎏×10レップの運動を、翌週は105㎏×10レップで行ってみる。負荷が増えるので最初は10レップが行えなくても、やがてそれができるようになる。そうしたら次の週はさらに重量をアップして110㎏にする。こうして少しずつ負荷を増やしていくことで、筋肉は継続的に力を伸ばしていくのである。これが漸増負荷のトレーニング理論だ。しかし、負荷を増やす方法は挙上するウエイトを重くしていく以外にもある。それは動作のスピードを変えていくやり方だ。継続的な筋発達には筋肉への負荷を少しずつ強めていけばいいのだから、例えば素早い動作でウエイトの上げ下ろしをすると、ウエイトの重さに速度が加わって負荷が増すのである。実際にスピードがどれだけ負荷を高めるかを試してみるといい。例えばバーベルを担がずに、自重だけで体を上下させるスクワットを行う。次もバーベルを持たずにスクワットを行うが、ボトムまで体を下ろしたら、そこから垂直に跳んで着地する。どちらが体により大きな負荷がかかっただろうか。間違いなくジャンピングスクワットだったはずだ。ジャンプすることで動作に速度がつき、それが自重に加わることで負荷が増したのだ。筋肉にとって重要なのは、トレーニー自身が何㎏の重りを持って運動を行っているのかではない。筋肉はどれだけ強い負荷がかかったかによって発達反応を起こすのだ。その負荷が重りによる負荷なのか、速度による負荷なのか、あるいはその両方による負荷なのかは関係ないのである。高重量+高速での動作は筋肉に大きな負荷をかける。大きな負荷がかかれば筋肉はそれに対して反応を示すのだ。
より多くの筋線維を参加させる
筋肉を構成している筋線維をできるだけたくさん運動に参加させることは、筋発達を促す上で重要なことだ。といっても、どれだけの筋線維が運動に参加してくるかは勝手に決まるのではなく、私たちが行うトレーニングのやり方によって変わってくる。より多くの筋線維が運動に参加するとより大きな出力が得られ、それだけ重い重量を挙上することができる。だとすると、高重量で種目を行えば、強制的に出力レベルが高まるためより多くの筋線維が運動に参加するということになるはずだ。また、パワー系種目を適切なレップ数で行い、適切な可動域で動作を繰り返すことで、対象筋を構成している筋線維の運動参加率は上がると考えられる。こうしてより多くの筋線維が運動に参加し、ダメージを受ければ、それを修復する過程で筋肉はより太く、より強くなっていく。これが筋発達だ。もちろんそれ以外にも十分な栄養と休養が必要になるが、トレーニングによってよりたくさんの筋線維にダメージが与えられれば、それが発達反応につながるということをしっかり理解しておこう。
大きなモーターユニットをいかに作動させるか
筋肉が出力するのは筋肉が収縮するからだ。では何が筋肉を収縮させるのか。その答えはモーターユニットにある。モーターユニットとは運動単位のことで、筋線維とそれに巻き付いている神経とで1つの運動単位が構成されている。刺激がもたらされ、神経がそれを筋線維に伝えると、筋肉はそれに反応して収縮を起こす。つまり、反応する運動単位が多ければ多いほど出力は大きくなり、逆に反応する運動単位が少なければ、出力も小さくなるのである。一般的に運動を開始すると、まずは小さなモーターユニットが筋収縮を始める。なぜなら、小さなモーターユニットは持久力があり、大きなモーターユニットに比べると疲れにくいという特徴があるからだ。例えば、5㎞走らなければならないのに、最初から大きなモーターユニットを作動させて全速力で走る人はいないはずだ。そんなことをすればあっという間にモーターユニットが疲労してしまい、運動の継続ができなくなる。これは体に備わっている生存のための能力のひとつである。私たちの意思にかかわらず、体がエネルギーを無駄づかいせず、できるだけ効率よく物事を行おうとするのは、いかなる危機状況下にあっても生存することを優先するからなのだ。運動の開始時は小さなモーターユニットが働くが、筋力やパワーアップを目指す私たちにとって、より重要なのは大きなモーターユニットのほうだ。このモーターユニットを作動させることができれば、より多くの筋線維が運動に関与し、より大きな出力が得られる。つまり、高重量での運動がしっかり行えるということだ。大きなモーターユニットの特徴は、1回の収縮で大きな出力が可能であるということ。ただし、休まずに収縮を繰り返すことができない。だから自分にとっての最高重量を1レップは持ち上げることができても、連続して行うことはできないのだ。また、大きなモーターユニットでは、1本のニューロンがより多くの筋線維と連動している。そのため、できるだけ多くの筋線維に刺激を与えるには、大きなモーターユニットを作動させるような運動を行わなければならないである。筋肉を限界まで追い込むようなトレーニング法は、モーターユニットを効率よく作動させるための方法であると言われる。しかし、そのためのやり方がハイレップ法であったりした場合はどうだろうか。ハイレップでも対象筋を追い込むことはできるが、このやり方で得られる効果は主に筋肥大であり、筋力向上の効果は少ない。つまり、運動量が多くなれば大きなモーターユニットは作動しない。なぜなら、大きなモーターユニットの持久力は低いからだ。筋力アップを狙うなら大きなモーターユニットを作動させなければならないわけだが、これに関連して私たちにはもうひとつ知っておくべきことがある。それは次に解説するエネルギー供給システムについてだ。
3つのエネルギー供給システム
私たちの体にはエネルギーを供給するシステムが3つ備わっている。それぞれのシステムには特徴があり得意不得意があるのだが、行う運動の種類によって理想的なシステムが作動し、私たちはより効率よく運動をこなすことができるのだ。3つのシステムのうちのひとつである「有酸素エネルギーシステム」が作動している間は、運動を休まずに継続できる。例えばゆっくりしたペースでのジョギングやサイクリングは、途中で休まなくても長時間にわたり運動を続けることができる。その理由は、持久力を高める有酸素エネルギーシステムが優位に作動しているからだ。一方、「無酸素エネルギーシステム」は、酸素を用いずにエネルギーを供給する。無酸素エネルギーシステムには2種類あり、ひとつが「解糖系」と呼ばれるもので、グリコーゲンがエネルギー源として消費される。解糖系のシステムは60〜120秒間の運動に適していて、それ以上の継続はできない。最長120秒でシステムが切れ、休憩を挟まなくてはならないというわけだ。例えば高強度で行うインターバルトレーニング(HIIT)などがこのシステムを使って行われる。解糖系システム下での運動は、トレーニーがどれだけ強固な意志を持って120秒以上の運動を継続しようとしても、筋肉に強烈なバーンが起き、強制的に運動を停止せざるを得なくなってしまうのである。無酸素エネルギーシステムの2つめは「ATPーCP系」だ。このシステムはさらに短時間の運動時にしか作動しないが、3つのエネルギー供給システムの中で最も大きな出力を可能にする。例えば高重量のスクワットを瞬発力を使いながら行うときはATPーCP系のシステムが作動する。このシステムを作動させて高重量を瞬発的に上げ下ろしするような運動を行うと、回復までに3〜5分もの時間がかかることが分かっている。パワーアップ、筋力アップを図りたい私たちが最も利用したいのがこの「ATPーCP系」だ。このエネルギーシステムを作動させるような運動こそが大きなモーターユニットを作動させることにつながる。軽い重量をゆっくりしたスピードで上げ下ろししてもこのシステムは作動しないということを、私たちはしっかり、理解しておく必要がある。
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