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ボディビル世界王者が解説「すべての種目に共通する考え方」

重心と支点

トレーニングでは経験則も確かに大事です。しかし、経験則だけで進めてしまうと、その方法が当てはまる人もいれば、当てはまらない人も出てきます。また、当てはまらなかった場合は、ケガをしてしまうリスクも高まります。

物理的に言えば、同じフォームで1回でも多く、1㎏でも重いものを上げていくと筋肉は発達します。ただし、バランスよく発達させて、筋肉がつきづらい部位に筋量をつけていくためには、対策を講じなければいけません。効く種目だけでは偏った体になってしまいます。

そこで「個人の評価」というものが必要になってきます。「自分にはこの方法は効かない」などではなく、「自分はこういう骨格をしているので、こういう方法が合う」、「柔軟性がなく筋肉が動いていないので、コンディショニングも行う」と考える必要があるのです。例えば、肩幅が広い人はロウイングやラットプルダウンなどでは肩甲骨が挙上するため、広背筋下部に効かせづらい傾向にあります。

では、どうするか。両腕でロウイング種目を行うと、脊柱に支点がくるため、僧帽筋の下部など上体の中心部分の筋肉が収縮します。これをワンハンドで行うと、支点が脊柱から引いた腕の側に移動するので、上体が少し後方に回転し、広背筋が収縮します。そして重心を引く方の腕の側に傾けて行うことで、支点と広背筋の距離が近づき、広背筋下部に効きやすくなります。

支点についての工夫は、サイドレイズでも同じことが言えます。ツーハンズでのサイドレイズでは上体の中心部に支点がくるので、動作中に僧帽筋が動いてしまいます。ワンハンドで行うと、支点が肩関節になるので、僧帽筋があまり関与しなくなるのです。

負荷を持ったときに重心と支点がどこにくるのかを頭に入れておくだけで、種目とやり方の選択の幅が広がるはずです。

トレーナーの方には、クライアントを評価しながらメニューを組んでいく能力が求められます。すべてのクライアントに対してすべて同じメニューを提供するトレーナーさんは“パーソナルトレーナー”とは言えないと思います。パーソナルトレーナー、またはネットパーソナルでメニューを組むのであるならば、お客さまをきちんと評価した上で、その方にあったメニューを提供できなければいけません。

手首、足首など末端部の使い方

トレーニングでは手首、足首などの体の末端部の使い方も大事です。手首、足首の動きは次につながる関節部分のコントロールに直結します。例えば手首を返してベンチプレス動作をすると、肘から動きます。手首を立ててベンチプレス動作をすると、肩関節が動きます。手首を返すか、返さないかによって動かしやすくなる関節部分、効かせやすい部位が変わってくるのです。

スクワット種目では、足首を背屈させると股関節から動きます。私はブルガリアンスクワットやシングルレッグのスクワットでは足首を少し背屈させています。逆に底屈した状態では、膝から折れていくことになります。ちなみに足の指も重要で、指をパーにすると背屈しやすく、グーすると底屈しやすくなります。

バーベルカールでは手首がまっすぐな状態、もしくは少し掌屈させた状態でバーを握ると、上腕二頭筋に負荷が乗ります。また、力学的に言うと、負荷の乗る方向も変わってきます。ネガティブ動作のときに手首を背屈させると、前腕伸筋群の方向に負荷が逃げてしまいます。また、肘にも負担がかかります。

グリップの握り

指の使い方は神経や力のかかる方向に関わってきます。親指、人差し指で握ると正中神経と橈とうこつ骨神経が間接的に働き、体の中央部分の筋肉が効きやすくなります。薬指、小指で握ると尺骨神経が働きやすくなり、力の方向が外側に向きやすくなるため、体の外側の筋肉に効きやすくなります。

さらに、グリップの強弱によっても体の動きは変化します。ベンチプレスでグリップを強く握ると、肩関節が動きにくくなり、肩が上がります。グリップを少し緩めると肩甲骨が動き、胸をストレッチさせることができます。ロウイングの場合も同様で、グリップを強く握って引くと肩や大円筋に、少し緩めたグリップで引くと僧帽筋下部と広背筋に効かせやすくなります。

来週からの内容

これまで述べたことを、次回から、部位別にトレーニング種目に落とし込んで説明していきます。一つ理解しておいていただきたいことがあるのですが、それは、トレーニングにおいて「これが絶対に正しい」という理論は、存在しないということです。

聞いた話ですが、私がセミナー等で話した内容を、さも自分が編み出した絶対的な理論のようにSNSで書いている人もいるそうです。ですが、私はいつも“今の私の考え方”として語らせてもらっています。万人に当てはまるものかといえば、そうとは言い切れない部分もあります。

次号以降の内容についても、唯一無二の絶対的な理論だとは受け取らないようにしていただきたいです。 “鈴木雅の考えに基づく理論”として解釈していただければ幸いです。

すずき・まさし
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。


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