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「トップ選手も実践」ジムに行かずともイケてる筋肉美ボディは建造可能

いまだ終息の見えないコロナ禍。ジムが休館したことでトレーニングの場が失われ、‟筋トレ難民” となったトレーニーも多い。この状況下で、トップビルダーはいかなる考え方でトレーニングと向き合っているのか。日本のトップオブボディビルダー・須山翔太郎選手に聞いた。(IRONMAN2020年6月号より修正引用)

取材:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩

「強度の高いトレーニングができないことがマイナスになるのか、それは考え方次第」

――現在はどのように過ごされていますか。
須山 職場のフィットネスクラブもトレーニングをしていたゴールドジムも閉まっていますので、今
での活動が全くできていない状態です。
――本誌が発売されるころもおそらく多くのジムが休館している状態にあるかと思います。今回は、そういった状況下でのトレーニングについて伺います。
須山 チューブがあれば結構できますよ。また、簡単に手に入れられるものとして、100均ショップに売っている麺棒やサランラップの芯などを使うと、よりバリエーションが広がります。
――今回お持ちいただいた須山選手のチューブは、ハンドルがついていないタイプのものですね。
須山 ハンドルがついていないほうが僕はやりやすいです。利点は、例えばサイドレイズを行うときは手のひらで握るのではなく、手の甲にチューブをかけて動作を行うことができ、肘でリードしやすくなります。
――脚のトレーニングはどうでしょうか。
須山 大腿四頭筋はスクワット、そしてシシースクワット、お尻はブルガリアンスクワットで鍛えらます。シシースクワットは強度の高いトレーニングです。だから、自重も決してバカにはできません。家トレで難しいのはハムストリングと内転筋ですが、これも工夫することで可能になります。
――チューブならではの利点というものもあるのでしょうか。
須山 自重やチューブでは高い強度はかけられません。回数だったりフォームだったりに注意しながら、より筋肉に意識や刺激をフォーカスしていく必要が出てきます。筋肉を丁寧に動かさないと、負荷が抜けやすくなってしまいます。筋コントロールにはプラスになると思います。
――レップ数やセット数の考え方についてはいかがでしょう。
須山 ある一定の強度までしか上げられないので、やはりレップ数やセット間のインターバルなどで追い込んでいく必要があります。必然的に、そうするしかないと思います。
――トレーニングを長くやられている方は肩や肘などに何らかの故障を抱えているものです。
須山 高重量を持たないので、そういった症状が和らいでいくというのもあると思います。僕も20年以上も攻めるトレーニングを続けていますが、こういうことがない限りトレーニングを長く休むこともないので、それを一旦お休みする良い期間になっていますし、精神的な解放にもなっていると思います。
――須山選手ご自身は、現在のトレーニングのテーマは筋量・筋力の維持なのか、それとも限られた状況の中でも成長を求めていくか、どちらになりますか。
須山 物理的強度は下がるので、この期間に成長を求めるのは難しいです。ただ、その一方で自重やチューブでのトレーニングを工夫しながら行うことで新しい発見があったり、より感覚的に鋭くなれたりする。そういった意味での成長は見込めると思います。自分にとってプラスの時間になると思っています。
強度の高いトレーニングができないことがマイナスになるのか、成長につながらないのかと言うと、それは考え方次第なんです。考え方を変えることで、いくらでもポジティブに捉えることができるはすです。そうした思考の切り替えが大事だと思います。
――思考の切り替え、ですか。
須山 僕が自粛期間に入ってすぐに覚悟したのは、この状況は1年間は続くだろうと。それは「まだか、まだか」という思いで(緊急事態宣言が解除される予定だった)1カ月先を待つよりも、1年はかかると覚悟したほうがストレスを溜めずに余裕を持った気持ちでいられると思ったからです。
――大会も軒並み中止となり、日本選手権も開催されるかどうか分かりません。モチベーションの保ち方についてはいかがでしょうか。
須山 日本選手権が開催されないということも十分にありえるという心構えでいます。絶対に開催されると思いながら取り組んでいると、いざ本当に開催されないとなったときに落胆してしまいます。そこでモチベーションを失ってしまうことのほうが怖いです。だから、全てにおいて腹を括って、今できる最大限のことを粛々と、淡々と実行する。それだけです。その結果、「開催される」ということになれば、そこに向かって最大限の努力をします。
――そういったマインドチェンジはすぐにできるものですか。
須山 平時からどういった考え方をしているかによると思います。僕は自粛前の環境が「当たり前」だとは思っていませんでした。減量という食べたいものを我慢することを伴うスポーツは、豊かで平和な国じゃないとできなんです。だから、普段の僕たちはすごく贅沢なことをやっているんです。これは豊かな国に生きていると忘れがちになるんですが、そういったことを忘れるというのは怖いことだという意識を持っています。
――これまで最も長くトレーニングができなかった期間は?
須山 1カ月の間にインフルエンザと風邪に罹ったことがあって、その間は全くできませんでした。10㎏ほど体重が落ちました。そのときのほうが酷かったですよ。今は体は元気で、自重やチューブでトレーニングもできますから。
――トレーニングを再開したときのアプローチは?
須山 何も変えません。使用重量は下がるので、そこから淡々と少しずつ戻していくというだけです。
――筋肉の維持という面で、これだけは続けている、外していないというものはありますか。
須山 ないです。そういったことは考えず、リラックスすると決めているので。何分割で進めていくということも決めていないです。その日にトレーニングがやりたくなったらやる、という感覚です。
――もう、気の向くままに?
須山 そうです。自分たちの力でどうにかできる状況ではありませんから。だから、心のトレーニングですよね。僕にとっては、すごくいい時間です。「体づくり」は無我夢中になりやすいものです。コンテストで勝つことだけを考えて、勝利至上主義の中で切磋琢磨していって。それが今こういう状況になって、自分にウイルスをうつされることが怖いのではなく、相手にうつしてしまうことが怖いことだという思いをみんなで共有しようとしている。相手のためを思って行動する、すごくいい精神が培われていると思います。
――自粛期間が空けたときには、筋肉だけでなく人間としても大きくなっていれば。
須山 僕らの業界も、そうした心の成長ができればいいなと思います。人のためを思った行動がジム内でも継続できれば素敵だなと思います。また、僕らがトレーニングすることで社会に貢献できることは何か。今この時間に心を養うことはコンペティターとして、トレーナーとしての成長にもつながるはずです。数年後には「あのときは大変だったね」とみんなで笑顔で語れるような時代がきっとくると思います。


すやま・しょうたろう
1981年9月26日生まれ、東京都出身。身長172㎝、体重77kg(オン)78.5㎏(オフ)
10代のころからボディビル大会に出場し、日本ジュニア選手権で優勝。22歳で出場した東京ボディビル選手権では当時歴代最年少で優勝を成し遂げた。日本選手権には2007年から出場。
主な戦績:
1999年日本ジュニア選手権優勝、2004年東京選手権優勝、2015年 本クラス別選手権80kg以下級優勝、2016年世界選手権75kg以下級3位、2017・2019年日本選手権2位、2021年日本選手権3位


執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。

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