ベンチプレスと肩甲骨の関係

筋力トレーニングを長く行っていると、肩が痛くなる、もしくは肩関節が硬くなったように感じた経験があると思います。井上大輔先生自身も過去に何回か肩を痛めた経験があるとのこと。井上先生が30年前にベンチプレスを始めたときに教わったというベンチプレスの注意点を紹介します。

文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>

ベンチプレスと肩甲骨の関係

ベンチプレスの注意点

①肩甲骨を寄せて、大胸筋をストレッチすること
②脇を広げて大胸筋をストレッチすること
③グリップ幅を狭くすると上腕三頭筋に刺激が入るので、広めの幅で握ること

しかし、ストレングスコーチという職業に就いてから、アメリカの研修先では全く逆のことを教えられました。当時は先ほどの方法が当たり前だと思っていたので、最初それらのことを注意されたときも全く理解ができず、日本に帰ってからも変わらず、上記の方法でベンチプレスの指導をしていたのです。ある程度英語の理解ができるようになると、アメリカのトレーナーが言っていたことが正しいと分かりました。そしてそれは解剖学的に考えると理に適っているということも気づくことができました。今回はベンチプレスと肩甲骨の関係について説明していきます。

肩甲骨を寄せて、大胸筋をストレッチすることについて

機能解剖学に基づいて考えるとそもそも大胸筋は肩甲骨に付着していないので、表現自体が適切でないことが分かります。肩甲骨は正常な状態では30度外転(外側に開いている)しており、その状態で上腕骨頭が収まる、関節窩が前を向きます。

1-1 肩甲骨30度外転で、ベンチプレスの際に関節がはまります

(写真1−1)この状態でベンチプレスを行うことで、負荷がかかった際に「関節がしっかりハマり」安定することにより、大きな力を出すことができます。

1-2 肩甲骨を寄せて(内転する)ベンチプレスを行うと肩関節は脱臼の方向に引っ張られます

仮に肩甲骨を寄せたならば、関節窩が横を向いてしまい、負荷をかけても関節がはまらずに脱臼する方向に力が働いてしまいます。(写真1−2)それが原因で関節を痛めてしまう、もしくは、脱臼を防ごうと肩周りの筋肉が硬直して肩関節が硬くなり、可動域が失われてしまう原因になるのです。肩甲骨が30度外転していて正常な位置にあることを「肩甲骨のレストポジション」と言います。ベンチプレスは「肩甲骨のレストポジション」で行うことで、肩の問題を防ぐことができるのです。元々、肩甲骨が外転(開いている)している人は、肩甲骨を寄せることで「肩甲骨のレストポジション」に位置させることができるので、あながち「肩甲骨を寄せましょう」という指導は間違いでないと言えますが、現状でレストポジションにある人や元々内転してしまっている人は、このような指導は逆に肩の問題を誘発してしまうことになります。要はその人の姿勢やアライメントによって個別に指導を変える必要があります。

脇を広げて大胸筋をストレッチすることについて

2-1 脇を広げる(肩関節の外転)と肩甲骨が上方回旋し、不安定になります

脇を開くと確かに大胸筋はストレッチされますが問題が出てきます。それは脇を開き過ぎると肩甲骨が今度は「上方回旋」という動きをしてしまい、(写真2−1)「肩甲骨のレストポジション」を維持できなくなり、肩甲骨が不安定になるばかりか、肩関節の軸が安定しないので肩を痛めてしまうリスクが高くなってしまいます。

2-2  30 度外転までは「肩甲骨のレストポジション」の維持が可能になります

したがって肩甲骨の上方回旋が起こらない30度ぐらいまで肩を外転させて(写真2−2)ベンチプレスを行うことで、肩甲骨を安定させ安全にベンチプレスを行うことが可能になります。

しかしこのような指導も場合によって異なります。筋肉を発達させることが目的のトレーニーは肩が痛くなければ、少し脇を広げて大胸筋をストレッチすることも必要ですが、肩を酷使するスポーツ選手には脇を広げることはスポーツを行う上でのリスクが高くなります。これもトレーニーの目的や状態によって臨機応変にフォームを調整することが大事だと言えます。

グリップ幅を狭くすると上腕三頭筋に刺激が入るので広めの幅で握ることについて

機能解剖学を勉強すると矛盾していることが分かります。ベンチプレスにおける大胸筋の動きは「肩関節の水平屈曲」です。(写真3−1)グリップ幅を広くすればするほど「肩関節の水平屈曲」の動きの可動域が小さくなることが分かります。(写真3−2)

3-1 写真のようなレギュラーグリップで、大胸筋が優先的に動きます

3-2 過度なワイドグリップでは大胸筋の可動域が少なくなります

また、グリップが広過ぎると大胸筋よりも先に上腕三頭筋が発火してしまいやすくなり、その結果、外的な力で肩関節を脱臼させてしまう力が働きます。結果、肩を痛めたり硬くなってしまったりするリスクが高くなります。
ベンチプレスに限らずトレーニングを行う際に注意しなければならないことは2つです。

井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111

▶【ベンチプレスのこれがしりたい!】ベンチプレスをやるとき、ブリッジは必要なのか?

ピックアップ記事

関連記事一覧