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ボディビル世界王者が解説「すべての種目に共通する考え方」

2016 年世界ボディビル選手権80㎏級優勝という偉業を成し遂げた鈴木雅選手は、ゴールドジムのアドバンストレーナーとして勤務する傍ら、各地で毎週のようにセミナーを行っている。そんな鈴木雅選手がアイアンマン誌で2017年に紹介したトレーニング理論をこれから毎週土曜日ご紹介していく。

取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩  監修:鈴木雅(ボディビル世界チャンピオン)

はじめに

近年は、解剖学の知識をベースにしたさまざまなトレーニング関連の書籍が出版されるようになりましたが、以前はトレーニングが解剖学などの医学的な分野をもとに語られることはほとんどありませんでした。

そのため、どうしてもトレーニングは感覚的なものに陥りがちでした。またトレーナーから「このようにしなさい」と指導された通りに行う人も少なくはないと思います。

ただ、「このようにする」理由は必ず存在するはずです。その理由が理解できていないと、トレーニングが不確定なものになってしまいます。また、人によって「効く」「効かない」という部分も出てしまいます。

私のトレーニングは、なぜその方法が自分に効いたのか、原因を探るところから始まりました。一つひとつの事柄の理由を探していったのです。

私がそういった側面からトレーニングを考えるようになったのは、ボディビルの大会に出場するようになってからです。転機になったのは、私がまだデビューしたばかりのころに、田代(誠)さんが月刊ボディビルディング誌に、解剖学を基にしたトレーニングの連載を書かれていたんです。当時としてはすごくセンセーショナルな内容だったんです。以後、私も「効かせる」ということを理屈で考えることができるようになっていきました。

初心者の方に「効かせましょう」「意識しましょう」と指導しても、伝わらない部分が多いはずです。

現実として、初心者のうちは感覚・運動神経が未発達なので「効かせる」ことが難しいです。筋肉がどういった形状をしていて、どうすれば動くのか。まずはそこを理解していくことが大切です。

体の連動

A:骨盤

体には「ここを動かせばこの部位を使う」という仕組みがあります。例えば、骨盤が後傾すると腹筋も収縮しやすい。逆に骨盤が前傾すると腹筋は収縮しにくい、などです。

B:股関節

股関節に関しても、足幅やつま先の向きによって動きが変わってきます。つま先も膝もまっすぐに前を向けて立っている人は、大転子の真下の方向に膝関節があり、

その鉛直線上に脛骨がきます。しゃがむ動作を行う際には、大腿骨に付着している内側広筋、外側広筋、ハムストリングスなどが働きます。

足幅を広げると、大転子から外側に膝関節がきます。すると、大腿筋膜張筋によって大腿が横に開こうとするのを抑えようとします。また、中殿筋が常に収縮した状態にあるため、しゃがむときは股関節の周りの筋肉群が働きます。

C:胸椎~頸

胸椎から顎にかけての屈曲・伸展も大切です。顎と胸椎は骨で連結しています。胸椎が固い人は胸が張りづらい傾向にあります。

例えばスクワットを行う場合、顎を引けば胸椎が少し屈曲し、顔を下に向きやすくなり、膝からしゃがみやすくなります。顎をまっすぐ前に向けると胸椎が張れ、股関節から屈曲しやすくなります。

基本的に筋肉は骨とつながっています。顎から胸椎にかけての骨の動きもトレーニングの重要な要素です。

ただし、すべてのトレーニングを連動性の視点から考えていけばいいのかと言えば、そうではありません。連動性の観点からサイドレイズを考えると、伸びあがるように大きく両腕を上に開くような動作をすると三角筋の横部が働きます。しかし、力学的にはその動作では負荷は体の外側へと逃げていきます。また、肩本来の使い方としては、体幹からではなく、上腕骨から動作しなければいけません。伸びあがるような上げ方ですと、体幹から動作する形になってしまい、クリーンのような動作になります。

パワーリフティングの選手は、ベンチプレスのときに顎を引きますよね? 連動性から言えば顎を上げるべきなのですが、顎を引かないと動作にブレーキをかけることができないからです。ブレーキをかけて、ボトムポジションで負荷を受けて、そこから上げないと、おそらくは重さでそのまま潰れてしまいます。そういったテクニックもあるのです。

体の反射機能の一つに「頚反射」というものがあります。顎を引くと体を丸めやすくなり、顎を上げると体を開きやすくなります。

頚反射を用いる場合、通常は屈曲したときに働く筋肉のトレーニングでは顎を引き、伸展したときに働く筋肉のトレーニングでは顎を少し上げます。私はこういったことも含め、頚反射の活用はケース・バイ・ケースだと思っています。

例えばラットプルダウンで頚反射を使おうとして顎を上げたまま引くと、腹圧をかけることができず負荷が抜けてしまいます。ボトムポジションでしっかりと負荷をかけるのならば、顎は胸椎に対し、垂直面を向くか軽く引いて腹圧をかけないといけません。一概に頚反射を使えばいいというわけではなく、しっかりと腹圧を使って負荷を受けることも重要です。

解剖学と力学的視点

ボディビルトレーニングでは筋肉の起始・停止を把握した上で、筋の走行方向にしたがって伸展・収縮させることが基本となります。また、ウエイトトレーニングを定義すると「重力に逆らった運動」ということになります。つまり、そこには解剖学だけではなく力学的な要素も多く含まれます。

例えば、ダンベルフライという種目があります。解剖学的に考えると、両方のダンベルが触れるくらいまで可動域を広げると大胸筋が収縮します。ただし、力学的な視点から考えると重力は縦方向にしかかかっていないので、水平内転させるような収縮(ダンベルをくっつける動作)はただ収縮しているだけで、主働筋に対する強度は上がりません。

また、解剖学的な見地から、よくバーベルカールで「上まで上げる」という人がいますが、それは危険なフォームです。肩の筋肉を使ってしまうことで、ケガもしやすくなります。上腕二頭筋の短頭が収縮すると、肘の位置は自然に少し上がります。「上げろ」というニュアンスはあまり正しくはありません。

ちなみに私のレッグカールの動作は少し膝が上がるのですが、それをビデオで見て「上げたほうがいい」と指導する方がいると聞いたことがあります。私は「上げる」というニュアンスの言葉は発していません。大腿二頭筋の上部を収縮させようとして、その結果、膝が上がるのです。「膝を上げる」 という意識で行うと、体がエビ反りになるので腰を痛めてしまいます。

筋肉をつけるには解剖学の知識も大切ですが、筋肉に対して発達させるためのシグナルを送るよう、力学的な側面からもフォームを考えていかなくてはいけないのです。

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