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低糖質ダイエットについて徹底解説!そのメリットやデメリットは?

糖質をカットして、たんぱく質や脂質からエネルギーを得るダイエット法は、最近では一般的となりました。体脂肪を速やかに減らすことができるダイエット法ですが、実は、メリットだけでなくデメリットも含んでいます。

今回は、低糖質ダイエットの歴史や原理について解説するとともに、そのメリットとデメリットをいくつか紹介します。これから低糖質ダイエットを実施しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

<この記事の内容>
そもそも低糖質ダイエットとは?
・・・低糖質ダイエットの歴史
・・・低糖質ダイエットの原理
低糖質ダイエットのメリットについて
・・・効率よく体脂肪を消費できる
・・・極端な空腹を感じにくい
低糖質ダイエットのデメリットについて
・・・コルチゾール分泌量の増加
・・・長期間続けると効果が低下する
・・・たんぱく同化ホルモン量が低下する
まとめ

そもそも低糖質ダイエットとは?

低糖質ダイエット

低糖質ダイエットはその名前の通り、糖質からのエネルギー摂取を制限することで、体脂肪を消費することを狙うダイエット法です。糖質の摂取を極めて少なくする代わりに、たんぱく質や脂質からは積極的にエネルギーを摂取する点が特徴です。

低糖質ダイエットの歴史

まずは、低糖質ダイエットの歴史について紹介します。

低糖質ダイエットの原型となる考え方は、アメリカの医師であるロバート・アトキンスによって1970年代に提唱されました(引用1)。そのため、低糖質ダイエットはアトキンスダイエットと呼ばれることもあります。アトキンスは、糖質は体に様々な不調をきたす栄養成分であるため、その摂取量を制限し、代わりにたんぱく質や脂質の摂取量を増やすことで、肥満状態を解消できると考えました。アトキンスダイエットでは、糖質からのエネルギー摂取を、1日の総エネルギー摂取量の5%以下に設定する点が特徴です。

その後、アトキンスダイエットは、修正版アトキンスダイエット(modified version of the atkins diet)として改良が加えられました。修正版では、糖質の制限がオリジナルよりも緩くなりました。この修正版アトキンスダイエットは、減量目的で使用される以外にも、癲癇(てんかん)の発症を抑えるためにも用いられています(引用2)。

低糖質ダイエットという呼び方以外にも、ケトジェニックダイエットという呼称も用いられます。これは、糖質を制限した食事を続けることで、体に起こるケトジェニックという代謝反応に由来します。ケトジェニックの状態を作り出すことが低糖質ダイエットの一番のポイントですが、中途半端な制限等の理由でこれがうまく進まないと、思うようにダイエットの効果が得られないことがあります。

低糖質ダイエットの原理

続いて、低糖質ダイエットがどのようにして体脂肪の減少に関わるかを解説します。

前述したように、低糖質ダイエットでは、糖質からのエネルギー摂取を控える代わりに、たんぱく質や脂質の摂取量を増やします。通常ヒトの体は、活動に必要なエネルギーの大部分を、糖質の一種であるグルコースおよび脂肪から得ています。糖質制限によってグルコースの総量が減少すると、足りない分のエネルギーを補うために、たんぱく質を分解してグルコースを作ったり、脂質由来のケトン体からエネルギーを得たりするように代謝が変化します(引用3)。そうすると、体脂肪が効率良くエネルギー源として利用されるようになり、結果として、速やかな体脂肪の減少が望めるようになります。ケトン体をメインのエネルギー源として用いる状態への変化をケトーシスと呼ぶため、低糖質ダイエットはケトーシスの状態を作り出すための食事法と言い換えることができるでしょう。

低糖質ダイエットのメリットについて

低糖質ダイエットの原理について解説したところで、次は低糖質ダイエットのメリットについて紹介します。脂質を制限するタイプのダイエットとは、体の中で起こる反応が異なる点に着目してください。

効率よく体脂肪を消費できる

低糖質ダイエットを行うと、体はグルコースではなく、たんぱく質や脂質をメインのエネルギー源として利用するように変化します。通常、糖質を摂取すると血糖値が上がり、続いて、上がった血糖値を下げるためにインスリンが分泌されます。インスリンは同化ホルモンと呼ばれ、体の外から吸収した栄養を、自身の体に蓄える働きを持ちます。すなわち、インスリンが働いている間は、体は脂肪を燃やすのではなく、増やす方向に機能するということです。低糖質ダイエットを実施するとインスリンの分泌が抑えられるため、結果として、体脂肪が分解されやすくなります(引用4)。体脂肪が分解されで生じた脂肪酸は、ケトン体へと作り替えられて、体の各組織でエネルギー源として消費されます。このような仕組みにより、低糖質ダイエットを行うと、効率良く体脂肪が消費できると考えられています。

極端な空腹を感じにくい

低糖質ダイエットの2つ目のメリットとして、空腹を感じにくい点が挙げられます。ある研究では、17名の肥満男性を被験者とし、4週間にわたる低糖質食(総エネルギーの4%)と中程度糖質食(総エネルギーの35%)の効果が比較されました。その結果、低糖質食のグループでは空腹感が有意に減少し、体重の減少量も中程度糖質食のグループより大きかったことが分かりました(引用5)。

また低糖質ダイエットでは、糖質の摂取量は厳しく制限されるものの、たんぱく質や脂質に関しては制限が緩いです。そのため、肉類や油を使った料理が好きな方にとっては、脂質を制限するタイプのダイエットよりも取り組みやすい可能性があります。

減量を成功させるためには、ある程度の期間で食欲をコントロールしないといけません。これは、精神的にも肉体的にも辛い作業ですが、低糖質ダイエットを採用することで、いくらかこの辛さを軽減できる点はメリットだと言えるでしょう。

低糖質ダイエットのデメリットについて

低糖質ダイエット

次は、低糖質ダイエットのデメリットについて解説します。体脂肪を減らすことだけに着目した場合は低糖質ダイエットは非常に効果が高いダイエット法ですが、それ以外の部分にも目を向けると、必ずしも最良のダイエット法とは言えないです。デメリットについて正しく把握し、自身の状況も踏まえて採用を検討すると良いでしょう。

コルチゾール分泌量の増加

コルチゾールは別名ストレスホルモンと呼ばれるホルモンです。その名称の通り、肉体的なストレスだけでなく精神的なストレスにも反応して分泌され、場合によっては、筋肉の分解を促すことがあります。そして、低糖質ダイエットを行うと、このコルチゾールの分泌量が増えるという研究結果があります。低糖質ダイエットに関するメタ解析を行った結果、低糖質食を開始して3週間という短い期間においては、安静時のコルチゾールレベルが上昇したことが分かりました(引用6)。また同じ研究の中で、低糖質食を行っている場合には、運動後のコルチゾール分泌が増えることも分かりました(引用6)。

コルチゾールの働きの一つに、筋肉を分解してグルコースを作り出すことがあります。低糖質食を開始して間もないうちは、まだ体が脂質由来のケトン体を合成できるようになっていないため、エネルギー源として筋肉を使用するためにコルチゾールが増えると考えられるでしょう。

長期間続けると効果が低下する

減量期間は人によって様々ですが、たいていの場合は数ヶ月に及ぶことがほとんどだと思われます。特に肥満の解消のために減量を始めるような場合は、その減量期間は半年以上になることもあるでしょう。低糖質ダイエットは体脂肪の減少に効果的な食事法ですが、減量期間が長くなると、その効果が低下するという報告がいくつかあります。イギリスの研究者によるレビューでは、6ヶ月以内の低糖質ダイエットは、体脂肪の減少や2型糖尿病の改善に効果があるものの、それ以上の期間になると、体が適応することにより効果が低下するとされています(引用7)。同様の報告の中には、長期間にわたって、低糖質食と低脂質食の効果を比較検討した結果、6ヶ月までは低糖質食の方が高い体脂肪減少効果を示したものの、12ヶ月の時点では両者に差が出なかったとするものもあります(引用8)。減らしたい体脂肪の量が少なく、短期間でダイエットが終了する場合は低糖質ダイエットは有効ですが、減量が長期間に及ぶことが予想されるならば、必ずしも低糖質ダイエットが優れているとは言えないでしょう。

たんぱく同化ホルモン量が低下する

筋肉を継続的に発達させるためには、たんぱく同化ホルモンについて理解することが大切です。テストステロンに代表されるようなたんぱく同化ホルモンは、食事から摂取したたんぱく質を、アミノ酸を経由しながら筋肉や骨などの組織に作り替える働きをサポートします。たんぱく同化ホルモンの分泌量が多くなれば、それだけ筋肉が発達する可能性が高くなり、逆に分泌量が減れば、筋肉が増えにくくなります。そして、低糖質ダイエットを実施すると、体脂肪は減少するものの、たんぱく同化ホルモン量が減少するという報告があります。

イタリアの研究者らによるチームは、ボディビルダーに2ヶ月にわたって低糖質食と通常食を摂取させ、その効果を比較する実験を行いました。低糖質食と通常食は、体重あたりのたんぱく質摂取量に違いはなく、残りのエネルギーを脂質から摂取するか糖質から摂取するかで区別しました。実験の結果、体脂肪の減少量は低糖質ダイエットを行ったグループで顕著だったものの、除脂肪体重は通常食のグループでのみ増加したことが分かりました。また、テストステロンやIGF-1などの筋肉の発達に関わるホルモンは、低糖質ダイエットにおいて、実験前より実験後の数値が低下したことも分かりました(引用9)。一方で、低糖質ダイエットとテストステロンの関係は無視できるとする論文もあります(引用10)。統一された見解はまだないですが、低糖質ダイエットを行うと、筋肉の発達が遅れる可能性もあると知っておくと良いでしょう。

まとめ

低糖質ダイエットは体脂肪の減少に効果的である反面、グルコースが不足することによるデメリットも生じることがお分かりいただけたと思います。減量期間をよく考え、どのような戦略でダイエットを進めるかを検討することが重要だと言えるでしょう。

また今回は省略しましたが、低糖質ダイエットによる頭痛や体臭の変化などの健康面でのデメリットも有名です。これらのデメリットを回避したり軽減したりするためにも、自己流で低糖質ダイエットを進めるのではなく、指導者に習ったり資料を参照したりできると良いですね。

執筆者:舟橋位於(ふなはし・いお)

1990年7月7日生まれ
東京大学理学部卒(学士・理学)
東京大学大学院総合文化研究科卒(修士・学術)
NSCA認定パーソナルトレーナー
調理師

東京大学在学中に石井直方教授(当時)の授業に感銘を受け、大学院は石井研究室で学ぶ。団体職員等を経て、現在は執筆業務および教育関連事業にて活動中。得意な執筆ジャンルは、運動・栄養・受験学習。

引用1. Tahreem A, Rakha A, Rabail R, Nazir A, Socol CT, Maerescu CM, Aadil RM. Fad Diets: Facts and Fiction. Front Nutr. 2022 Jul 5;9:960922.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35866077/

引用2. Chen W, Kossoff EH. Long-term follow-up of children treated with the modified Atkins diet. J Child Neurol. 2012 Jun;27(6):754-8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22532541/

引用3. McGaugh E, Barthel B. A Review of Ketogenic Diet and Lifestyle. Mo Med. 2022 Jan-Feb;119(1):84-88.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36033148/

引用4. Feinman RD, Fine EJ. Nonequilibrium thermodynamics and energy efficiency in weight loss diets. Theor Biol Med Model. 2007 Jul 30;4:27.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17663761/

引用5. Johnstone AM, Horgan GW, Murison SD, Bremner DM, Lobley GE. Effects of a high-protein ketogenic diet on hunger, appetite, and weight loss in obese men feeding ad libitum. Am J Clin Nutr. 2008 Jan;87(1):44-55.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18175736/

引用6. Whittaker J, Harris M. Low-carbohydrate diets and men's cortisol and testosterone: Systematic review and meta-analysis. Nutr Health. 2022 Dec;28(4):543-554. doi: 10.1177/02601060221083079. Epub 2022 Mar 7. Erratum in: Nutr Health. 2022 Dec;28(4):783.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35254136/

引用7. Barber TM, Hanson P, Kabisch S, Pfeiffer AFH, Weickert MO. The Low-Carbohydrate Diet: Short-Term Metabolic Efficacy Versus Longer-Term Limitations. Nutrients. 2021 Apr 3;13(4):1187.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33916669/

引用8. Astrup A, Meinert Larsen T, Harper A. Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? Lancet. 2004 Sep 4-10;364(9437):897-9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15351198/

引用9. Paoli A, Cenci L, Pompei P, Sahin N, Bianco A, Neri M, Caprio M, Moro T. Effects of Two Months of Very Low Carbohydrate Ketogenic Diet on Body Composition, Muscle Strength, Muscle Area, and Blood Parameters in Competitive Natural Body Builders. Nutrients. 2021 Jan 26;13(2):374.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7911670/

引用10. Cangemi R, Friedmann AJ, Holloszy JO, Fontana L. Long-term effects of calorie restriction on serum sex-hormone concentrations in men. Aging Cell. 2010 Apr;9(2):236-42.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20096034/

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