俳優の金子賢氏がプロデュースし“サマスタ”の愛称で知られる人気ボディコンテスト「SUMMER STYLE AWARD（サマー・スタイル・アワード） 」。トップ選手のみが出場できる、『2022JAPAN PRO GRAND PRIX』が12月3日（土）、東京・TFTホールで開催され、130名を超えるPRO選手たちが洗練された筋肉美で2022年度ナンバーワンの座を競い合った。新旧王者が集結したスポーツモデル（ビースティ）部門では、サッカーワールドカップさながらの“ジャイアントキリング”が起こった。昨年王者の宮崎貴博選手ら強豪を抑え、今年コンテストデビューしたばかりの岡崎峰幸選手（27）がshortクラスで優勝、勢いのまま総合優勝まで駆け上がったのだ。
「プロ初戦の今回は、挑戦させてもらえるだけでもありがたいなと思っていたんです。それがオーバーオール（総合優勝）まで取れて、大会後には金子賢さんから『最高だったよ。ありがとう。見ていて感動したよ』と言っていただけて……まだ夢みたいで、あまり実感がないですね」
均整の取れたVシェイプはもちろんだが、観る者のハートをがっちり掴んだのが、気合いの入ったポージングだ。その姿からは、ステージに立つ喜びと、「全力を出し切りたい」との思いが伝わってきた。
「予選敗退だと思い込んでいたので、決勝進出と聞いてテンション爆上がりしたんですよね。しかも、ピックアップ審査では最初に自分が呼ばれたので、もう感情があらわになり過ぎて（笑）。正直、身体では他の皆さんに勝てていなかったと思います。ただ、一番笑顔で、一番楽しんでいたことだけはたしかです」
人生の紆余曲折を経て、たどり着いた舞台だ。
幼少期から空手に打ち込んでいた岡崎選手。高校時代には応援団長に抜擢され、甲子園のスタンドで全力でナインに声援を送った。
「でも、高校卒業後に空手をやめてから、いわゆるグレてしまいました。ずっと空手漬けの日々だったので、溜めていたものが一気に爆発してしまったんです」
無軌道な日々に、光はなかなか差さなかった。建設業の現場監督時代には4年間、パワハラに苦しんだ。追い打ちをかけるように、母の深刻な病状を知った。負の連鎖で心を追い詰められた末に、うつ状態に陥った。死にたい……、その気持ちにとらわれ続けた。
「『自殺するくらいなら誰かに相談すればいいのに』と思っていた自分が、まさかこうなるなんて。でも、弱い自分が恥ずかしくて、本当に嫌で。誰も味方がいない、誰も僕のことを必要としていないと思い詰めてしまった」
強くなりたい。その思いからトレーニングを始めたのは、今から5年前のことだ。
「友達や身内の支えもあって最悪の状態は脱しましたが、見かけだけ不良みたいに強がって、実際は弱い自分を卒業したかった。それに、今までとは違う世界で、これまで関わったことのない人たちに出会いたいなと思って、トレーナーの道を目指してみることにしたんです」
今年8月、トレーナーとしての糧になればと地元・山口県のボディコンテストに出場。新人部門を制すと、持ち前のチャレンジ精神がうずき、翌9月のサマスタ九州予選に挑戦。なんと、いきなり総合優勝を勝ち取ってしまう。その時、金子氏からもらった言葉が心の奥底に届いた。
「ダークホースが出てきたね。真剣にプロを食うつもりで、今よりもう少し絞って、ぜひ12月のグランプリに来てほしい」
人から求められているという実感。
「今回の大会では、九州予選を競い合った方たちからも『九州を背負って絶対優勝してくれ』と励ましてもらえましたし、（金子）賢さんからは『サマスタを引っ張っていってね。新時代だよ』とも言っていただきました。もう嬉しくて、感動して、泣きっぱなしでした（笑）」
今後もコンテストでの活躍や、自身のパーソナルジムでの指導などを通して、トレーニングの魅力を伝えていきたいと岡崎選手。
「一度は道をそれかけた自分が、空手の頃のようにまた陽の当たる場所に立たせてもらえている。それだけでもトレーニングや支えてもらっている人たちに感謝しているんです。僕なんかが……、とは思いますが、できる精一杯のことをして、地元にサマスタやスポーツモデルという競技を広めていきたいです」
“山口のシンデレラボーイ”は人生の紆余曲折を経て、生きがいと使命を見つけた。
◇PROスポーツモデル（ビースティ）部門ショートクラス結果
優勝 岡崎峰幸／2位 西本耕亮／3位 上野あつし／4位 宮崎貴博／5位 内山顕資
取材：藤村幸代 撮影：中原義史
執筆者：藤村幸代
スポーツとカラダづくりを中心にカルチャー、ライフ、教育など多分野で執筆、書籍構成・プロデュースを行っている。神奈川県横須賀市出身、三浦市在住
